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アルゼンチンペソ急落の背景、改革の代償


 2025年4月14日、アルゼンチンペソが対ドルで約10%下落しました。これは、アルゼンチン政府がIMF(国際通貨基金)から200億ドルの融資を受けることで正式に合意したことを受けた動きです。今回の融資実行と引き換えに、政府は為替管理措置の一部を緩和しましたが、その結果としてペソが大きく売られる展開となりました。

IMF融資とペソ急落の関係

 為替規制を緩めて市場原理に任せることは、資本の自由な流れを促し長期的にはプラスの側面がありますが、短期的には通貨安を招き、再びインフレ圧力を高める可能性もあります。いずれにせよ、アルゼンチン経済は今後も難しい舵取りを迫られることになります。

ミレイ政権の財政改革

 今回のIMF融資が実現した背景には、ミレイ政権による徹底した財政改革があります。2023年末に就任したミレイ大統領は、財政赤字の解消を公約に掲げ、2024年には黒字化を実現しました。

 この1年間で、以下のような具体的な政策が実行されています。
公共料金補助金の廃止:電気代やガス代への補助金を撤廃しました。
国営企業の民営化:国営企業を民間に移管しました。
公務員のリストラ:この1年で解雇または契約更新されなかった公務員は7万人を超えました。
 これらの改革により、政府支出を歳入の範囲内に抑えることに成功し、国家財政は黒字化を実現しました。 

アルゼンチン経済、ミレイ政権の成果と課題

 これまでの政権では、ばらまき政策によって財政が悪化し、その穴埋めを中央銀行が行うという構図が繰り返されてきましたが、ミレイ政権はこのサイクルを断ち切ろうとしています。

財政黒字とインフレの改善

 その成果として、2024年にはインフレ率がピークの289%から足元では55.9%まで低下。政策金利も一時133%という異常な水準に達していましたが、現在は29%まで引き下げられています。インフレの落ち着きとともに、経済の正常化に向けた動きが少しずつ進んでいると言えるでしょう。

改革の代償としての貧困と失業

 ただし、こうした改革には当然ながら代償も伴います。政府支出の削減の一環として、18の省庁を9つに統合、公務員の大量解雇、年金のカット、さらには貧困層向けの炊き出しまで縮小されました。その結果、2024年前半には貧困率が一時50%を超え、31の都市に住む約2,960万人中、1,570万人が貧困状態にあると報告されました。極貧人口も540万人とされています。

アルゼンチン共和国(Argentine Republic):人口
約4,623万人(2022年、世銀)

外務省

 その後、インフレ率のピークアウトに伴い、2024年下半期の貧困率は38.1%まで下がったとされていますが、それでも貧困層は1,130万人、極貧層も250万人に上ります。公務員の解雇の影響もあり、失業率は2023年第4四半期の5.7%から、2024年第1四半期には7.6%に上昇。第4四半期には6.4%まで戻したものの、大統領就任時点を依然として上回る水準が続いています。

マイナス成長からの転換点

 GDP成長率に目を向けると、2024年通年では実質ベースで-3.5%のマイナス成長となりました。政府が支出を抑制しているため、内需が冷え込むのは当然の帰結と言えるでしょう。しかし、四半期ベースで見れば、2024年第4四半期には+2.1%と、6四半期ぶりのプラス成長に転じています。最悪期は脱した可能性があり、今後は民間主導の回復が続くかどうかが注目されます。

GDPは「誰かがお金を使えば増える」ものです。たとえ経済活動が活発化して消費が増えた場合でも、それが合理的な支出だったのか、単なる無駄遣いだったのかは考慮されません。

経済成長と財政支出、サイクルとしての景気悪化

ゼネラルストライキと国民の声

 このような改革に対して、当然ながら反発も出ています。4月9日から10日にかけては、政府の緊縮政策に抗議するゼネラルストライキが実施され、鉄道や航空便、学校、病院など多くの公共サービスが停止されました。改革の痛みが広がる中、「もう少し段階的にできなかったのか」、「経済成長への配慮が必要ではないか」といった声も高まっています。

●4月9日(水)正午から4月10日(木)深夜24時までの36時間にわたり、国内最大の労働組合連合「労働総同盟(CGT)」の呼び掛けにより、ゼネラルストライキが実施される予定です。特に、公共交通機関や物流網が遅延・停滞した場合には、日常生活へ支障が出るおそれがありますのでご注意ください。

外務省

 しかしながら、ミレイ政権の支持率は大きくは落ちていません。調査会社によって差はありますが、就任以来、支持と不支持が交錯しながらも、平均すれば横ばい圏で推移していると見られています。こうした数字からは、国民の間で改革に対する一定の理解が広がっているとも読み取れます。

経済安定の波はサッカー界にも

 アルゼンチンというと、やはりサッカーの印象が強い国です。メッシ選手をはじめ、世界トップクラスのプレーヤーを多く輩出してきた一方、長らく経済が低迷していたため、国内クラブの財政は厳しく、有望な若手選手が早くから海外クラブに移籍するケースが増えていました。
 
ところが最近では、経済の安定化に伴い、クラブ側が提示できるオファー額が上昇してきています。2025年2月には、名門リーベルプレートが国外のアルゼンチン人選手に対し、1,000万ユーロの契約オファーを提示したと報じられました。その他にも、ユーロ建てで100万ユーロ超の契約が増加しており、経済改革がスポーツ界にも影響を与え始めていることがうかがえます。

https://www.cariverplate.com.ar/

改革の評価と今後の展望

 アメリカでも、ばらまき型の経済から、より民間主導の経済運営に移行しようという動きが見られますが、アルゼンチンの試みは一つの参考事例となり得ます。
 もちろん、課題は山積しています。為替自由化によって通貨安が再燃すれば、インフレの再加速もあり得ますし、貧困や失業の問題も依然として深刻です。しかし、改革を進めながらも支持率を大きく落とさずに済んでいる背景には、国民の中に「このままではいけない」という切実な危機感があったからこそかもしれません。
 
痛みを伴う改革の中で、それでも国が少しずつ前進している兆しが見え始めています。今後の展開にも注目していきたいと思います。引き続きよろしくお願いいたします。


ご参考

 今回のワールドカップは、サウジアラビアの未来像を示す一大プロジェクトとなる可能性がありますが、同時にその非現実性や財政負担の大きさが課題として浮上しています。

2034年のW杯開催国であるサウジアラビアの計画

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