ロンドン証券取引所でのIPO激減理由とその背景
イギリスがEUを離脱してから、ロンドンの金融都市としての地位が徐々に低下してきているという話はよく聞かれるようになりました。離脱直後は当初予想されたような急激な悪影響はなく、比較的マイルドだったという見方もありましたが、その後も緩やかな地位低下が続いていると言われています。その象徴とも言えるのが、ロンドン証券取引所での新規上場の減少です。
ロンドンの金融都市としての地位低下
世界的にビジネスを展開する企業にとって、どの市場に上場するかは非常に重要な問題です。当然、多くの投資家から資金調達ができ、知名度や信用度が高まる市場が魅力的です。逆に言えば、新規上場(IPO)が多く、企業が多額の資金調達を行っている市場ほど魅力のある市場だと言えます。
株式公開(IPO)(かぶしきこうかい)
IPO(Initial Public Offeringの略称。)ともいいます。株式会社がオーナーなど少数の株主により所有され、自由な株式譲渡が制限されている状態(未公開会社)から、金融商品取引所市場への上場によって不特定の多くの株主により所有され、株式市場において自由に売買が可能となる状態(公開会社)となることを株式公開といいます。
ロンドンでのIPO件数と資金調達額が急減
IPOとは新規株式公開のことで、企業が初めて株式市場に上場して資金調達を行う仕組みですが、このIPOの件数と調達額の推移を見るとロンドン市場の衰退を如実に示しています。

2006年や2007年の時点では、ロンドン証券取引所では年間500億ドル以上の資金が調達され、IPO件数も300件を超えていました。しかし2022年以降は資金調達額が20億ドルにも届かず、件数もわずかな水準にまで落ち込んでいます。特に2021年、EU離脱の移行期間が終了した年を境に、極端な減少が見られるようになりました。
かつて世界5位以内に入っていたロンドン証券取引所ですが、2025年には20位以下に低下し、中東やメキシコの市場よりも下になっているというのは非常に象徴的です。
ロンドン上場が避けられる理由
企業が上場に際して重視するのは、資金調達のしやすさや市場の知名度、上場することで得られる信用度の向上などですが、こうした点においてロンドンへの評価が下がっていると見られています。

ロンドンには投資家が多く存在するものの、国内企業より海外市場に投資する傾向が強いため、国内市場に資金が回りにくい構造があります。またロンドン市場に上場することで得られるブランド力が低下していると判断されている面もあるでしょう。さらに、ロンドン株式市場自体のパフォーマンスが芳しくありません。アメリカ市場よりパフォーマンスが劣るのはもちろん、欧州主要指数と比べても上昇率が低いのが現状です。
ロンドン市場の構造的問題
ロンドン市場のパフォーマンスが冴えない理由の1つが、上場企業の顔ぶれにあります。FTSE100の構成銘柄を見てみると、アストラゼネカ、HSBC、シェル、ユニリーバ、ロールスロイスなどが上位を占めています。いずれも歴史ある大企業であり、銀行や製薬、エネルギー関連といった古い産業の比率が大きく、新しい成長産業が大きく育っていない構造が見て取れます。
HSBCホールディングスは、香港がイギリスの統治下にあった時代に「香港上海銀行」として設立され、1991年にロンドンで持株会社として再編されました。
こうした構成では、市場全体の成長力を押し上げることは難しく、結果として「魅力の乏しい市場」というイメージが定着してしまう可能性があります。IPOが減ることで新しい企業が加わらず、さらに市場が古い体質のまま固定化されるといった悪循環に入っていると言えるでしょう。
EU離脱と金融規制面での影響
EU離脱後、イギリスとEUで金融規制が異なる形になったことも、ロンドン市場離れを加速させた要因です。EU域内企業にとっては、規制が共通しているEU域内で上場した方が効率的であり、ロンドンを選ぶ理由が薄れてしまいました。
英国政府が進める国内投資促進策とその限界
ロンドン市場の低迷を受け、イギリス政府も国内投資を促進する策を模索しています。年金基金に対して、保有資産の一定割合を国内市場へ投資する義務を課す案が浮上しました。しかし業界側の反発も大きく、強制的に義務付ける案は実現しそうにありません。最終的には主要な年金基金が国内のインフラ事業に26億ポンドを投資するという妥協案に落ち着きました。
さらにISA制度にも調整が入りました。日本のNISAのモデルとなった制度ですが、イギリス版では預金もISAの対象となっていました。しかし2027年から預金枠が縮小されることになり、預金ではなく投資へ誘導する政策が取られています。
日本のNISAは少額投資非課税制度であり、「投資」という言葉が含まれていますが、イギリスのISAには含まれていません。イギリスのISAは、リスク資産への投資を促進するためではなく、預金を含めた資産形成を奨励する制度です。ここに両者の違いがあります。
こうした施策を講じたとしても、今のところロンドン市場の地位低下が反転する兆しは見えていません。
今後の見通しと私の考え
EU離脱の長期的影響、イギリス経済の低迷、投資家の資金が国内に向かいにくい構造など、根本的な要因は解消されていません。新規上場が増えるような大きな改革が進まない限り、ロンドン証券取引所の地盤沈下は続いていくものと私は見ています。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
ご参考
IPOはその性質上、投資家が大きな損失を被るリスクが低いため、証券業界の中でも優先度の低い問題と見なされがちです。しかし、このような不透明な配分が続くことは、市場全体の健全性を損ない、長期的には投資家の信頼を失う可能性があります。
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