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米問題、主食の価格がもたらす政治的混乱


 日本では相変わらず「米の問題」が大きな注目を集めています。小泉進次郎氏が農林水産大臣に就任し、米の価格を引き下げる意欲を見せています。

 歴史や他国の事例に目を向けると、主食の価格が高騰することは政治的な不安定を引き起こす可能性があり、嫌な予感もしてきます。歴史を振り返ると、フランス革命も小麦の価格高騰が一因だったことはよく知られています。こうした経緯もあって、日本政府は戦前から長きにわたり米の価格をコントロールしてきましたが、それもまた非常に不安定になってきています。今後の政権運営に与える影響についても注目が集まっています。

価格を安定させるために介入しているはずの政府の行動が、逆に市場の不安定化を招いている可能性があるのです。

日本の米価格問題、市場機能と政府介入の影響

 近年でも、主食価格のコントロールに苦しみ、政治的な混乱に陥った国々が新興国を中心にいくつもあります。この記事では主食の価格と政治の関係について考えてみたいと思います。

主食価格と政治的混乱

 代表的な事例が、2011年のエジプトです。いわゆる「アラブの春」によって、30年続いたムバラク政権が民主化デモによって退陣に追い込まれました。カイロ中心部のタハリール広場には100万人を超えるデモ隊が集結し、政権はコントロールを失う事態となりました。
 このアラブの春は、チュニジアで始まった民主化を求めるデモがきっかけでしたが、エジプトにおいてはパンの価格高騰への不満も大きな要因だったとされています。2000年代後半からエジプトでは物価上昇が顕著になり、消費者物価指数の伸び率は2006年の4.29%から2010年には16.16%に達していました。リーマンショック前の原油価格高騰、ショック後の新興国への資金流入、人口増加による需給逼迫などがインフレ率の上昇を招き、パンの価格も大きく上昇したとされています。
 結果的に、パンの価格高騰が長期政権崩壊の引き金となったのです。

価格高騰に直面したエジプトとスーダンの混乱

 そして、エジプトが再びパンの価格問題に直面したのが2022年、ウクライナ戦争の勃発です。エジプトはパンの原料である小麦の65%を輸入に頼り、そのうち85%がウクライナとロシア産でした。この供給に突然制約がかかり、価格の高騰と経済混乱を招きました。また、2019年には隣国スーダンでクーデターが発生し、約30年続いたバシール政権が崩壊しています。この背景にも、パンの価格高騰があります。
 
2017年頃から物価上昇が続いていたスーダンでは、政府がパンの価格を抑えるために補助金を出していましたが、財政的に厳しくなり、2018年12月にパンの価格を一気に3倍に引き上げました。この決定が各地のデモを引き起こし、政権崩壊へとつながったのです。

 エジプト政府はこうした隣国の動きを受け、パンの価格だけは支えなければならないと強く認識し、補助金を用いて価格をコントロールする政策を取りました。

高騰する小麦価格と国家財政への影響

 しかし、ウクライナが世界第5位の小麦輸出国であったこともあり、2022年の小麦価格は大きく高騰。エジプトでは食料とエネルギーの補助金が政府歳出の17%にまで膨れ上がりました。財政的な困難から、エジプト政府はIMFに支援を要請するに至り、通貨の切り下げや国有企業の売却といった措置で資金繰りの改善を図る、苦しい状況に追い込まれました。

 それでもパンの価格を守り抜いた結果、2023年にはシシ大統領が再選を果たしています。主食の価格維持が選挙にどの程度影響したかは定かではありませんが、エジプト政府が主食の価格コントロールの重要性を強く認識していたことは確かです。

主食価格の位置づけと課題

 もちろん、これらは新興国の事例であり、日本とは状況が大きく異なります。エジプトの一人当たりGDPは約3,500ドル、スーダンは2,200ドル程度であり、3,000ドル以下は貧困層とされるラインです。こうした国々では、得られた収入の大部分が食費に消えていくため、主食の価格は極めて重要な問題となります。例えば、インドではカレーに使われる玉ねぎの価格が経済や政治に大きな影響を与えることがあります。

 同様に、パンを主食とする国では小麦、そして主食やそれに準じる食品の価格は経済的にも政治的にも重大な意味を持ちます。

日本の主食

 一方で、日本の一人当たりGDPは3万4,000ドル程度。表面的には新興国とは大きな差がありますが、格差の拡大が指摘される中、「食費を節約するために食べる量を減らしている」といった声も聞かれるようになりました。

 2024年の日本では、支出に占める食料品の割合を示す「エンゲル係数」が28.3%に達し、1981年以来の高水準です。日本のエンゲル係数は先進国の中でも高いです。

主所)PRESIDENT Online【2024/12/11】

 日本では米の価格が全国平均で5kgあたり4,200円程度となっており、ヨーロッパの感覚からすると非常に高価な主食です。こうした背景もあり、GDPの数字以上に、米の価格は日本人にとって大きな意味を持つと言えるでしょう。

今後の日本と主食価格の行方

 日本でクーデターが起こるような事態にはならないでしょうが、今後の政権運営には厳しさが伴うことが予想されます。米の価格を引き下げることは簡単なことではありません。
 小泉氏が農林水産大臣に就任したばかりの段階で批判するつもりはありませんが、長年にわたり政府によってコントロールされてきた日本の米市場では、正確な需要と供給を把握すること自体が難しいと見られています。無理に価格を引き下げようとすれば、将来的な供給がさらに減少する恐れもあります。
 この問題に対して「小泉さんが素晴らしい対応をした」といった結果は、正直、あまり期待できないのではないでしょうか。そういう意味で、自民党政権の今後については、やや暗い未来を示唆しているようにも思えてなりません。


ご参考

出所)農林水産省

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