トルコリラ安の構造的要因
最近、またトルコについて解説してほしいというリクエストを多くいただいています。トルコについては、一部の金融業者がトルコリラ建ての債券を販売したいという意図のもと、非常に偏った情報を流している面があります。最近も、「トルコの中央銀行がインフレ抑制に本気になっている」といった広告を多く目にしましたが、実際にはそういった見方は必ずしも正確とは言えません。

中央銀行が一生懸命利上げをしてきたのは2023年の話で、実は昨年12月からは3回連続で利下げを行っています。それにもかかわらず、通貨安は止まらないまま現在に至っています。特に2025年3月には、エルドアン大統領の政敵とされるイスタンブール市長のイマモール氏が逮捕されたことで、トルコリラが急落する展開となりました。この記事ではこの4月以降に起こった、トルコリラやトルコ経済に関係する重要な動きについて、簡単にアップデートしておきたいと思います。
イマモール氏の逮捕とその影響
まず、3月に起こったイスタンブール市長イマモール氏の身柄拘束について、簡単に振り返りたいと思います。イマモール氏は2019年からイスタンブール市長を務めてきた人物で、所属政党は中道左派とされる共和人民党(CHP)です。クルド人に厳しい立場を取るエルドアン政権とは異なり、クルド人に対しては融和的な立場を取っている人物です。
イスタンブールはトルコ最大の都市であり、同市の市長を務めた後に大統領を目指すのはトルコ政界の「お決まりのコース」となっています。現職のエルドアン大統領も、かつてはイスタンブール市長でした。
イマモール氏は、今のトルコで最も支持されている政治家の1人と見られていて、エルドアン大統領の有力な政敵とされていました。彼は3月22日に2028年に行われる次期大統領選挙への立候補を表明する見込みだったのですが、それを目前に控えた3月19日、警察によって汚職疑惑などで逮捕されました。同時に、クルド人の独立国家樹立を目指す武装勢力クルディスタン労働者党(PKK)を支援していた疑いもかけられています。
イマモール氏の解放を求めるデモ
この逮捕を受けて、3月19日以降、イスタンブールなどでイマモール氏の解放を求める数十万人規模の大規模デモが発生しました。こうした事態を受けて、トルコリラは急落する展開となりました。
政府の圧力強化とリラ相場
その後、エルドアン政権はイマモール氏に対する圧力をさらに強めています。3月当時、イマモール氏と共に市政の汚職に関与したとして、約100人が逮捕されていましたが、5月27日にはさらに追加で25人が逮捕・拘束されています。今回の逮捕者の中には、市長の主席補佐官や事務局副局長なども含まれているとされています。
こうした一連の動きに対して、「エルドアン大統領による政敵潰しだ」という見方が広がっているものの、4月以降はマーケットへの影響は限定的です。5月1日にも大規模なデモが行われており、数百人が逮捕されたとされていますが、エルドアン政権は5万人以上の警官を動員し、主要な広場を封鎖するなどしてデモを抑え込んでいます。
マーケットの反応
その結果、3月のような急落にはなっていないものの、エルドアン大統領の有力な対抗馬がいなくなったことはリラ安の材料とも見られていて、じわじわとした下落が続いています。
クルド人問題とシリア情勢
現在のトルコの政治情勢は、クルド人問題やシリア情勢とも密接に関わっていると見られています。5月13日、40年以上にわたって武装闘争を続けてきたクルディスタン労働者党(PKK)が、突然解散を宣言しました。この解散の背景には、シリア情勢の変化があると見られています。
2024年末には、シリアでアサド政権が崩壊し、シャラー氏を中心とする暫定政権が誕生しました。アメリカはこの暫定政権に対する制裁緩和を発表し、両者の関係は改善傾向にあります。シリアのクルド人勢力はこれまでトルコと対立してきた存在でしたが、暫定政権への合流で合意したと報道されています。アメリカとしては、暫定政権を支援しつつクルド人も取り込んで、IS以後の新しい秩序を作ろうという流れです。
トルコとクルド人の関係
こうした動きがある中で、トルコとしてもクルド人との対立をいつまでも続けるわけにはいかず、融和的な政策を求める声が強まっています。その影響もあって、クルド人に対して穏健な政策を掲げる政党が支持を伸ばしていると見られます。
エルドアン政権の動きと大統領選挙
エルドアン政権にも、クルド人に対して態度を軟化させる理由があります。エルドアン大統領は2028年の大統領選で3期目を狙っていると見られていますが、トルコの憲法上、大統領は2期までとされており、3期目を目指すには憲法改正が必要です。
トルコ共和国(Republic of Türkiye):政府
2018年6月、議院内閣制から実権型大統領制に移行。内閣は大統領の任命による(行政権の全てが大統領に属す)。
憲法改正には国民投票で3分の2の賛成が必要で、そのためにはクルド人問題に関しても穏健な中道左派層から一定の支持を得る必要があります。こうした思惑もあって、エルドアン政権はクルド人への姿勢を軟化させていると見られており、その結果としてPKKは戦う必要がなくなって、解散に至ったとする見方が有力です。
エルドアン氏自身は3期目への出馬意向を表明していませんが、与党内部では出馬を求める声が強いとされています。
経済統計と構造的な通貨安
トルコの経済指標についても簡単に触れておきたいと思います。まず消費者物価指数(CPI)ですが、2024年4月は前年比+37.9%、5月には+75.5%まで一時上昇しましたが、最近はようやくやや落ち着きを見せています。ただ、2025年2月以降は30%台後半で推移しており、この水準で定着するとなると、依然として非常に高いインフレ率と言えるでしょう。

貿易統計では、2025年4月は120億ドルの赤字、経常収支は41億ドルの赤字となっており、基本的にトルコ経済は常に赤字体質です。この構造が変わらない限り、トルコリラは下落しやすい通貨である状況に変わりはありません。
したがって、何も起こらなければ緩やかなリラ安が続き、エルドアン大統領による発言や政治的な混乱が起これば、そこから一段とリラが売られる。そうした相場展開が今後も続いていくのではないかと私は見ています。ということで、この記事では最近のトルコの政治や経済について、アップデートしました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
ご参考
トルコのドローンは、アメリカのドローンよりも安く、中国のドローンよりも性能が良いと報道されています。ドローンを作っている会社は、エルドアン大統領の娘婿が最高技術責任者を務めていることでも知られています。
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