メガバンクが語る失敗を恐れない人材への違和感
先日、メガバンクグループの人事部門トップの方が日経新聞のインタビューに登場し、「どんな人材を求めるか」という質問に対して、失敗を恐れずに立ち向かう力を持った人材だと語っていました。この発言を読んだ時、私の中ではどうしてもモヤモヤした部分が残りました。この記事ではその点について解説したいと思います。私自身、金融機関で働いてきた人間として、どうしても触れておきたい内容です。
私の経験
私が証券マンをしていた頃、上司から「顧客の家を見てきて」という指示を何度か受けたことがあります。
「失敗を恐れずに立ち向かう人材」を求める会社の現実
人事のトップが「失敗を恐れずに立ち向かう人材が必要だ」と言う。これは一見すると前向きなメッセージですが、私は逆に、そういう人材が社内に少ないという現状を自ら示しているようにも感じました。失敗を恐れず挑戦したいと思う人が、そのような発言をする企業に入りたいと思うでしょうか。まず間違いなく、そうは思わないでしょう。挑戦心を持った人ほど、同じように高い志を持つ仲間と働きたいと思うはずです。
そう考えると、人事のトップがわざわざ「失敗を恐れずに立ち向かう力」を求めると言うこと自体、逆効果なのではないかとさえ思えてきます。もちろん、あえて狙って発言した可能性もゼロではありませんが、恐らくそうではありません。
問題は人ではなく組織構造にあるのではないか
さらに大きな違和感を覚えるのは、この発言から「会社の問題は人ではなく組織にある」という視点が欠けているように感じられる点です。銀行は長年「失敗を恐れて動かない」、「言われたことしかしない」と言われてきました。しかしその背景には、人材の質ではなく、組織が持つインセンティブ構造の問題があります。
成功しても大した評価が得られず、一方で小さな失敗で大きなマイナス評価を受けるような組織であれば、誰だってリスクを取ろうとは思いません。合理的に考えれば挑戦するメリットはほとんどありません。こうした構造を変えない限り、いくら挑戦心のある人材を採用したところで、結局その人たちも挑戦しなくなるのは当然でしょう。
失敗したときに減点するからあかんのでしょhttps://t.co/flCigeJl6O
— 【世界経済情報】モハPチャンネル (@MohaP_WorldNews) December 1, 2025
20年前と変わらない実態
私は20年以上前に社会に出ましたが、当時メガバンクに入っていった人たちが意欲に欠けていたかというと、全くそんなことはありません。むしろ優秀で、挑戦心を持った人たちがたくさんいました。彼らが挑戦しなくなっていったのは、組織に入った後、「尖った挑戦をするメリット」と「失敗した時のリスク」を比較した時、そのバランスがあまりにも悪かったからです。
つまり、問題は人ではなく組織です。社員のせいにするのではなく、挑戦を阻害してきた企業ガバナンスの問題を見るべきでしょう。
経営層にも当てはまるインセンティブ問題
このインセンティブ構造の問題は社員だけでなく経営層にも当てはまります。企業を成長させるために努力すべき経営者が、適切な報酬体系や株式インセンティブを持っていなければ、挑戦的な経営をしようとは思わないでしょう。
銀行には企業経営者にアドバイスする立場の人も多くいますが、自らの組織に目を向けた時、挑戦に対する報酬が極めて低く設定されているケースも珍しくありません。これでは誰も挑戦しません。
画一的な人事制度
そして最近のメガバンクの人事制度改革を見ると、本当に挑戦する人材を評価する仕組みに変わっているのかという疑問もあります。表向きは「部門ごとの柔軟な人材マネジメント」を打ち出していますが、実態としては銀行、証券、信託銀行などを含むグループ全体を画一的な制度に統一する方向にも見えてしまいます。確かに業務は似てきていますし、効率化のためには制度統一はメリットがあります。
しかし統一とは裏を返せば「特徴的な人材や尖った挑戦を評価しにくくなる」ことも意味します。これを見ても、挑戦する人材を積極的に評価する方向に変わったのかと言えば、私はそうは感じていません。
みずほ証券は、野村証券から幹部を引き抜くなどして改革を進めていますが、社員の意識改革には時間がかかるでしょう。
メガバンクは守られてきた
さらに言えば、メガバンクがこれまで挑戦しなくとも生き残ってこられたのは、金融庁や財務省を含む規制環境が大きく影響しています。「大きすぎて潰せない」という立場が、挑戦しない企業でも安泰なポジションを維持できた理由の一つでしょう。
1兆円を超える利益を上げる見込みと言われる今年度の業績を見ると、結果的に挑戦せずとも利益が出てしまうという構造が続いていると言わざるを得ません。
組織構造を変えなければ誰も挑戦しない
人事トップが「失敗を恐れずに立ち向かう人材」を求めると語ること自体は間違っていません。しかし、その言葉と組織の実態が一致していない限り、挑戦心のある人材は集まりません。また、入ってきたとしても挑戦しようとは思わないでしょう。人事制度改革を打ち出しているように見えても、根本的なインセンティブ構造が変わらなければ何も変わりません。
今後日本のメガバンクがどう変わっていくのか、引き続き注視していきたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
ご参考
採用できても内定辞退が増えたり、入社して数年以内の離職率が上昇している企業も多いようです。大学卒業生自体の絶対数が減っている中で、企業同士がその限られた人材を奪い合う状況になっており、従来のやり方では「欲しい人材が取れない」という事態が普通に起こっているのです。
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