イギリスの移民の歴史とデモと地域社会の不満
2025年9月13日、イギリスで大規模なデモが行われました。日本のメディアでも取り上げられていますが、その報じ方には大きな違いがあります。大手メディアは「移民反対を訴えるデモに10万人が集まった」と伝えていますが、一方では「極右が主導したものではなく、普通のイギリス人が多く参加しており、実際には300万人規模で集まった」という主張もあります。
どの数字が正しいのかは誰にも分かりません。正確に数えた人はいないからです。ロンドン市内のキャパシティからすれば300万人というのは多すぎる可能性が高いですが、10万人よりはるかに多かった可能性は十分あるでしょう。
参加者は本当に「レイシスト」か
では、このデモに参加した人たちは何を望んでいたのでしょうか。大手メディアでは「レイシストが集まったデモ」として報じられる一方、実際には中道的な人や元々は政治的に無関心だった層も多く含まれていたと見られています。彼らは極右思想に共鳴して動員されたのではなく、日常生活の中で移民政策に不満を持ち、自分たちの声を上げるために参加しているのです。つまり「極右が暴れている」という単純な構図ではなく、より幅広い層の国民が危機感を募らせて動いた出来事だったのです。
ロンドンのデモに参加したのは、決して極右だけではないhttps://t.co/hNj73QmsvG
— 【世界経済情報】モハPチャンネル (@MohaP_WorldNews) September 15, 2025
イギリスの移民の歴史と第3の波
イギリスにおける移民流入は今に始まった話ではありません。
第1の波は第一次世界大戦前、大英帝国が植民地から人や資源を吸い上げていた時代にやってきました。第2の波は第二次世界大戦後で、この時期にも多くの移民がイギリスに定住しました。
そして現在進行しているのが第3の波といえるものです。そのため、ロンドンでは人口の半分近くが外国出身者、または外国にルーツを持つ人々とされており、もはや「純粋なイギリス人」を探すことの方が難しいほどです。サッカーや音楽などの文化においても、移民ルーツを持つ人々の存在はごく当たり前になっており、多様性が社会の活力を支えてきました。

イギリスの移民反対の高まり
では、そうした多文化社会が長く続いてきたイギリスで、なぜ移民反対の声が大きくなっているのでしょうか。大きく2つの理由があると考えられます。
1つ目は「数が多すぎる」という問題です。移民なしではイギリスの人口は減少していく見込みですが、近年は爆発的に増加しており、その結果として住宅不足や家賃の高騰、医療制度の逼迫といった深刻な問題が生じています。国民医療制度では700万人以上が治療を待機している状況で、政府が掲げる「5年間で150万戸の住宅供給」や「医療拡充」も、国民に実感を与える成果を出せていません。そのため「移民を受け入れすぎているのではないか」との不満が高まっています。
2つ目は「不法移民が多すぎる」という問題です。たとえ外国にルーツを持つ人であっても、不法に入国した人々が手厚い支援を受ける状況には納得できないという声が強いです。実際、ドーバー海峡を渡ってイギリスに入ってくる不法移民は前年対比で大幅に増加しており、難民申請中の人々の滞在先が足りず、民間ホテルを使うことによる住民とのトラブルも起こっています。中には難民申請者による凶悪事件も発生しており、地域住民の不安や怒りがデモにつながっているのです。
不法移民をめぐる地域社会の不満
こうした不法移民をめぐる問題で声を上げているのは、決して「極右」だけではありません。普通の住民が「ホテル滞在をやめてくれ」と求めてデモを行うケースもあります。特に小さな町や地方都市では、移民を一度に大量に受け入れることで生活インフラに深刻な影響が出ることがあり、治安や雇用をめぐる緊張も高まっています。政府は移民の分散配置や支援制度の改善を進めていますが、現場の実感と乖離しているため、かえって「政府は国民の声を聞いていない」との批判が強まっているわけです。
つまり、デモの背景には差別思想というよりも、生活に直結する現実的な問題があると考えられます。
政治的影響とリフォームUKの台頭
この問題を背景に支持を伸ばしているのが「リフォームUK(Reform UK)」という政党です。現在は保守党や労働党を抑えて最も高い支持率を獲得しているとされます。ただし、これは必ずしも彼らの政策すべてに賛同しているわけではなく、「不法移民を減らせそうなのがここしかない」という消極的な支持による側面が強いと見られています。

仮にリフォームUKが政権を取ったとしても、不法移民の抑制以外の政策運営能力には疑問が残るため、別の問題を引き起こす可能性も高いでしょう。しかし、既存の大政党が危機感を抱き、移民政策を修正せざるを得なくなる可能性もあり、今後のイギリス政治が大きく揺れ動くことは予想されます。
イギリス社会の分断とメディアの影響
SNSの影響で極端な主張が目立つようになっていますが、イギリス社会全体が極右化しているわけではありません。多くの人が移民の立場を理解し、同時に不法移民による社会不安を懸念しているという複雑な状況です。
メディアが一方的に「レイシストの集まり」と報じることで、参加者の本音や生活上の苦悩が見えにくくなっています。こうした情報の偏りもまた社会の分断を深めており、「声を上げればレイシスト扱いされる」という閉塞感が、さらに不満を増幅させているのです。
今後の展望と課題
イギリス社会は今後も移民問題をめぐって揺れ続けるでしょう。労働党政権が有効な対策を打ち出せない限り、不満は蓄積し、大規模なデモが繰り返される可能性が高いと考えられます。住宅供給や医療制度改革といった生活基盤の改善なしには、移民受け入れ政策そのものに正当性を持たせることができません。加えて、不法移民対策を強化しつつも、人道的な側面をどこまで守るかという難しい舵取りが求められるでしょう。イギリスが伝統的に掲げてきた「多様性の尊重」と「法の支配」のバランスをいかに保てるかが、今後の社会の安定を左右するのです。
今回のデモは「極右の動き」と単純に片付けられるものではなく、普通のイギリス人や外国にルーツを持つ人々までもが生活への不安から声を上げ始めたという点に大きな意味があります。数字の大小やレッテル貼りを超えて、社会全体が抱える現実的な課題にどう向き合うかが問われています。イギリス社会の混乱は今後もしばらく続くと見られ、政権交代や新興政党の台頭によってさらに複雑化していく可能性があります。
ご参考(移民記事のまとめ)
■ 世界的な移民の増加問題に関する一考察(2024/7/14)
■ メディアが報じない移民問題(2024/8/27)
■ メディアと父親とSNS時代の不法移民の話(2024/9/20)
■ フランスの移民問題と出生地主義の見直しの議論(2025/2/11)
■ ロサンゼルスの暴動とメキシコ移民問題(2025/6/10)
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