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ネパールの暴動のその後とSNSでの首相選出


 ネパールで大規模なデモや暴動が発生し、多数の死者が出たほか、首相が辞任し無政府状態となったことについて、先日解説しました。警察との衝突で50人以上が命を落としたとされる深刻な事態でしたが、その後の展開として、2025年9月12日に暫定首相が選ばれ、国は徐々に落ち着きを取り戻しつつあります。
 状況が改善し始めたことは一つの朗報と言えますが、その暫定首相の選ばれ方が極めて異例で、人類史上初めての方法だったと見られている点が注目を集めています。さらに今回の暴動が「Z世代によるもの」だとされ、その実態も少しずつ明らかになってきました。世界で同じことが起こるとは考えにくいですが、新しい動きとして知っておく意義があると思います。この記事では続編としてこの件をお伝えします。

 出稼ぎ労働者の送金に依存する経済、発展しない産業、厳しい労働環境、そして中国寄りの政治体制。こうした要素が複雑に絡み合い、国民の不満が爆発したのが今回の事態だと言えるでしょう。

ネパールの貿易構造と暴動とその経済的背景

ネパールの暴動の背景と無政府状態

 暴動の経緯を簡単に振り返ると、汚職まみれと批判されてきた共産主義政権が、SNS規制を導入しようとしたことが発端でした。これにZ世代が強く反発し、SNSを通じて抗議活動を呼びかけ、首都カトマンズで暴動に発展しました。大臣が襲撃され、国の重要機関が放火される事態も発生しました。

ネパール首都カトマンズ
出所)外務省

 こうした混乱の末、政府はSNS規制を撤回し、首相は辞任に追い込まれました。結果として、国内はほぼ無政府状態となり、その後の動向が懸念されましたが、わずか23日という短期間で暫定首相が選ばれるに至りました。

ネパールのカドガ・プラサード・シャルマ・オリ首相は9日午後に辞任した。現地報道によると、オリ首相は大統領に宛てた書簡で「国内の状況悪化を考慮し、憲法に基づく政治的解決を図るため、直ちに首相職を辞任する」と表明した(「ザ・ヒマラヤン」紙9月9日)。

ジェトロ【2025/9/11】

暫定首相カルキ氏の人物像

 暫定首相に選ばれたのはスシラ・カルキ氏、73歳で、ネパール史上初の女性首相となりました。カルキ氏は2016年から17年にかけて最高裁判所の長官を務め、ネパールで初めての女性長官として注目されました。しかし在任は1年ほどで終わり、その後は表舞台から姿を消しました。
 理由は、汚職の疑いがあった警察署長の任命を取り消したことでした。これにより共産主義政権から排除される形で長官の座を追われたのです。つまりカルキ氏は、汚職を正そうとして逆に失脚させられた人物であり、今回の暴動を主導したZ世代の若者たちが求めていた「汚職に反対する象徴的存在」として選ばれた格好となりました。

想定外の選出と異例のプロセス

 本人は選ばれることを想定していなかったようで、選出自体が驚きでしたが、さらに注目されたのはその決定プロセスです。
 今回の暴動を主導したのは「ハミ・ネパール」というZ世代中心の団体でした。ハミ・ネパールは2015年の大地震の被災者支援を目的に設立され、2020年には正式にNGOとして登録されました。被災者への物資提供や集会活動を行ってきた団体ですが、今回の暴動でもDiscordやInstagramといったSNSを通じて人々を集め、武器を持って抗議に参加するよう呼びかけました。

 首相が辞任し無政府状態になった後、このハミ・ネパールはDiscord上で会議を開催しました。オンラインの公開スペースで行われた会議には1万人以上が参加したとされ、その場でネパールの今後の政治について議論が交わされました。そして最終的に、このSNS上での投票によってカルキ氏が首相に選出されたのです。わずか数時間で新しい首相が決まるという、極めて異例の展開となりました。

SNSによる首相選出の問題点と評価

 SNS上で首相を決めるという手法には当然問題点も多くあります。まず、完全に公開された場での投票だったため、多数の外国人が参加していた可能性が高いという点です。ネパール国民ではない人々が意思決定に関与したことは大きな懸念です。また、インターネットにアクセスできる一部の層に限定されたプロセスであることも問題視されます。

 このように課題を挙げればきりがないです。

 しかし一方で、汚職まみれの政治家たちが密室で権力を分配する従来のやり方と比べると、多くの人々がオープンに議論を見守る中で意思決定が行われたことは一つの前進とも言えます。完全に正しい方法ではないにしても、裏で不透明に決められるよりは「まだマシ」と捉えることができる面もあるでしょう。

今後の展望と課題

 今回の出来事は、暴動による首相辞任や無政府状態といった事態が再び起こらないよう、民主的な制度の整備が不可欠であることを強く示しました。ただし、すでに無政府状態に陥った国においては、今回のような方法が一時的に選択される可能性は否定できません。事実、ネパールでは予想よりはるかに早いタイミングで暫定首相が選ばれ、その後、議会解散と2026年3月5日に総選挙を実施する日程が決まりました。

 学校の授業も再開され、企業活動も徐々に正常化してきています。Z世代がSNSを駆使して主導した今回の活動が、ネパール社会の政治的安定や発展にどのような影響を及ぼすのかは、今後の大きな注目点です。

 日本の大手メディアから見れば「SNSは危険で不安定要因」と映るかもしれませんし、実際に暴動を煽った側面もあるため、全面的に肯定することはできません。しかし、これまでの政治にない新しい要素をもたらしたのは事実であり、こうした動きが今後どう展開していくのかは非常に興味深い問題です。

私の考え

 今回のネパールの事例は、従来の政治プロセスでは想像できなかった異例の首相選出という新たな現象を私たちに示しました。Z世代のSNS活用が社会に与える影響は、危うさと可能性の両面を持ち合わせています。ネパールでの経験は、他国にそのまま当てはまるものではありませんが、現代における政治の変化の一端を映し出す重要な出来事として受け止めるべきだと感じています。今後も引き続きこの動きを注視していきたいと思います。


ご参考

SNSが「いい加減な情報」を多く含むプラットフォームであることも事実です。これからの時代、ユーザーに求められるのは、膨大な情報の中から真実を選び取る能力だと言えるでしょう。

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