【創作】カニの葛藤
「おはよう、カニ。これ」
同期のヤドカリが缶コーヒーを差し出す。
「あっ、あっありがと」
背後から飛んでくる声に驚いたが、平静をよそおう。
構造的に振り返るが苦手なのだ。
ヤドカリはこころなしかしょんぼりして見える。
どうしたんだろ?
ヤドカリは分かりやすい。少しだけうらやましく思う。
俺は硬い殻で武装している。心も体も。
今日も早起きして、殻にオイルをつけ磨き上げた。身だしなみは大事だ。
ヤドカリは殻には苔を生やし、ふじつぼもついている。
いそぎんちゃくをつけていたときもあった。
しかも、飽きたら、身軽に手放していくのだ。
缶コーヒーのプルタブを開けて、カフェインを摂取する。おっとこんなことを考えている場合ではない。納期が迫っていた。
PCに意識を向けた。背後に鋭い視線を感じる。ぞわっとした。ぐるっとチェアのタイヤを使って振り向く。
ヤドカリがじっと俺を見ている。俺、なんかしたかな?
