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【創作】やどなしやどかり|約2051字

本田すのう|燃焼⇄冬眠|さんとコニシ木の子|さんが、みんなでZINEを作ろうという夢のような企画をしているのを昨日知った。
すごく寛大で間口が広い。ぜひ参加したいと書いてみた。テーマにはくくりがある。それがかえって入りやすい。テーマは「家・家族」。ふざけたヤドカリが宿なしになって、宿ありを目指すおはなし。もちろん大まじめです。
明日4/30が締切りとのこと。駆け込みで恐縮です。でもイラストもかいちゃおうかな。わくわく。


『やどなしやどかり』

朝起きたら「家」が…なかった。
困ったぞ。
とヤドカリは思った。

昨日の記憶を辿ろう。だめだ。思い出せない。
先輩タコと連れ立って、海まち銀座の横丁に行って…。
…記憶がやっぱりさっぱり辿れない。

「家」をどこにおいてきたんだ。
二日酔いでガンガン痛む頭をかかえた。

もしかして、と視線をやる。
やっぱりないか…。
海老のような腹部がむき出しになっている。

いっそ海老として生きていくか。

いやだめだ。それにあの「宿」には特別な愛着がある。
恋人だったイソギンチャクがついていた名残りがあるのだ。
未練がましいと言われてもいい。あの「宿」に戻りたい。

昨日の酒がまだ残っているのか。
イソギンチャクのあの子を思い出して号泣した。
カニばさみに涙が染みた。小さい傷がある。きっと昨日の千鳥足でこけたんだ。記憶は無いけど。

ひとしきり泣いたら、なんだかどうでもよくなってきて、寝ることにした。

たっぷり寝たおかげで、いくぶん頭が回ってきた。

そうだ。タコ先輩に電話をしてみよう。もしかしたら、二次会としてタコつぼに誘われたかもしれない。悩みがある顔をしていると「タコつぼで聞くぞ」と誘ってくれるのだ。そうだ。覚えてないけど、きっとそうだ!

なかった。
「ごめんなー」とタコ先輩に謝られて気まずい。タコ先輩に気を遣わせてしまった。先輩は悪くないのに。

昨日の居酒屋にも電話をしてみた。「でてきたらご連絡しますね」と言ってくれたが、あんなでかいもの、今、見えないなら無いのだ。

あー。明日は月曜日だ。「宿」はスーツで御守りなんだ。
無いなんて考えられない。
ずっとしていたマスクを外した時のような恥ずかしさもある。

「宿」がない、いよいよその事実が重くのしかかってきた。

よし!分かった。仮の宿を探そう。

でも、まてよ。「宿」がなくても、ぼくはぼくだ。
「宿」が無いからってぼくの価値は変わらない。
突如、哲学が降ってきたが、まずは腹が冷えて仕方がない。

そうだ、まずは腹巻を探そう。
手ごろなところにワカメが落ちていたので、応急処置的にワカメをまいた。
ぼくが一歩歩くごとにワカメはスカーフのようにひらひらとはためいた。

クマノミの子に二度見された。
「オレはオレだ!」と強がってみたけど、眼鏡もマスクも「宿」も含めてぼくなのだと思い知らされた。

やっぱりぼくには「宿」が必要だ。せっかくならこれを機に素晴らしい家を見つけよう。終の棲家にするのだ。「ヤド借り」でなく「ヤド在り」を名乗ろう。善は急げだ。このワカメスカーフを卒業するためにも。

タコ先輩から電話があった。一緒に探そうか?と聞いてくれた。ぼくはそれを丁重に断った。自分で決めたかったんだ。

とは言ってみたものの当てはない。とりあえず海流がぶつかり、海のゴミ捨て場になっているスポットを目指した。道中、頭上から何かが落ちてくるのが見えた。ゆっくりと漂いながら落ちてきたそれは、子どもの靴下だった。
ワカメを捨て、靴下に履き替えた。あったかい…。もうこれでいいかなと思いかけた。クマノミが今度は親子で通りかかった。「お母さん、あれ」「いいのよ」。適当な頃合いで、どうでもよくなってしまうのは、ぼくの悪い癖だ。

海のゴミ捨て場に到着した。おーこれにしよう。一目ぼれだ。
スケルトンでかっこいい。しかし重い。でも、利便性だけで語れないのがファッションだ。これにする!ワンカップのロゴもいいかんじ。夢見心地にさせてくれる独特の匂いもついている。完璧だ。

ずっしりと重い家を担いで、家路を急いだ。厳密には住処路というべきかもしれない。いつも寝起きするお気に入りの場所があるのだ。仕事場にも近い。
ワンカップヤドカリに進化したオレ、誇らしい。
しかし、その自信はもろくも崩れ去る。
イカのお嬢さんたちがぼくをみて「重そうですね」と声をかけてきたのだ。「あっしっぽが赤い。かわいいー」とつっこまれた。自分では知らなかったが、緊張するとしっぽが赤くなるらしい。それをきいて、ますますしっぽを赤くした。ぼくの心が丸見えだ。
これは、却下。もっと自分に合った新しい「宿」を探さねば。

すぐに重たいスケルトンのビンを脱ぎ捨てて、また靴下に履き替えた。レインボーカラーで気持ちもあがる。月曜日はとりあえずこれで出社でいいかなとあきらめかけた。帰り道にもいろいろ試した。マグカップ、植木鉢、バナナの皮。二枚貝にもはさまれてみた。どれもしっくりこない。

しょんぼりと住処に戻ると、靴下をぬいでいつものようにいつもの場所で殻に潜り込み腰掛けた。隠しておいたおつまみを食べながらビールを飲んだ。
いつもの窪みのおさまりが心地よく安心する。眠くなってきた。
どうしようかな。明日、お腹が痛いって休んじゃおうかな。
背中をさわるとざらざらとした。あの子が夢で会いにきてくれるかもしれないな。

彼はまだ昨晩、脱ぎ捨てた殻に入っていることには気づいていないようだ。

心配して様子を見に来たタコ先輩は、ヤドカリが高いびきで寝ている姿を見て、墨をはきながら泳いで行った。

大丈夫かな?参加条件等、再度ちゃんと確認します。よろしくお願いします。

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