【SS】押忍! 漢塾! ~漢之捌:起業編~
■本文
これは男の中の男、通称『漢』に憧れ、偏った方向から攻める熱い男たちの一幕である。
「まさか、千秋が店を出すなんてねえ・・・」
「自分も耳にした時は、ビックリポンだったっスよ! なんでも、『漢の道しるべ』になる店を作るとか言ってたっス!」
こんな会話を交わしながら歩いているのは、線の細い青年・蔵之介と、千秋の女友達である、まり子の二人組である。『漢之道』を邁進する千秋が店を出すと聞いて、様子を見にきたのだった。
「おう! よく来たな、蔵之介にまり子氏よ!」
目的の店に辿り着くと店はまだ建設途中で、屋根の上から作務衣姿にねじり鉢巻きをした千秋が声を掛けてきた。千秋は屋根から降りると、二人の前に立つ。
「兄貴が店を出すと聞いて、居ても立ってもいられなくて・・・ その格好を見るからに、兄貴も作業してるんスか?」
「ふ、自分の店だからな。魂込めて釘を打ち込んでいたところよ!」
千秋は金槌と五寸釘を目の前にかざし、ドヤ顔を決める。
「あんた、いつの時代の大工よ。まあいいけど、職人さんの邪魔しないようにね。・・・ところで、何の店を出すの? 見るからに、飲食店っぽいけど」
まり子が釘を差しつつ尋ねる。目の前の建物は外見はほぼ完成している状態で、内装を整備している段階に入っていた。
「よくぞ聞いてくれた、まり子氏。・・・ある晩、枕元に塾長が立ってお告げを下したのだ。『漢塾一期生の千秋よ、小麦粉を膨らませたものに肉や魚を挟んだものを、世に広めるのであぁる!』とな!」
「そ、それって、つまり・・・」
「ハンバーガー店ってこと?」
まり子が聞き返すと、千秋は腕を組んで大きくうなずいた。
「さ、さすが兄貴っス! 世界規模のハンバーガー店の隣に敢えてハンバーガー店を作るなんて、喧嘩売りまくりっスね!」
蔵之介が指摘するように、開業予定の店の隣には『M』の看板を掲げたファストフード店が建っていた。
「なんか、失敗する未来しか見えないんだけど・・・ まあ、いいや。どんなもの売るつもりなのよ?」
「ふ。そこまで言うのなら、見せてやろうではないか。 漢のメニューを!!」
千秋がカモン!とばかりに、整備中の店内に招き入れる。中に入ると、カウンターの作りなどはマッ●そっくりであったが、客席は畳敷きの小上がりがあったり、椅子の代わりに時代劇の茶屋で見かけるような長椅子が並んであった。
「・・・和洋折衷って、感じね」
「そうっスね・・・」
二人が唖然として店内を眺めていると、千秋が巻物を手にやってきた。
「どうよ、この店内は? 漢たるもの、和の中で食わねばのう」
そう言いながら千秋は『お品書き』と書かれた巻物を開いて二人に見せた。するとそこには、『鶏挟み』、『揚魚挟み』など、相撲文字のような達筆でメニューが記載されていた。
「・・・あんた、字だけは昔から上手いよね。メニューが全部日本語でわかりづらいけど、鶏挟みって・・・」
「チキンバーガーってことっスか、兄貴?」
まり子が微妙な表情で言い淀んでいると、その後を蔵之介が引き継いだ。
「おうよ! チキンだの、フィッシュだの、外来語はこの店には一切無いのだぁ!」
千秋は拳を握りしめて力説する。
「・・・まあ、あんたの店だから、勝手にやればいいけど。問題は味よね。自身あるの?」
すると、千秋は自信満々な表情を浮かべ、肩に掲げていた道着収納袋に手を突っ込む。
「ふ、味は当然、漢好みのものよぉ! 二人とも、これを食べてみい!」
袋から取り出したのは、ハンバーガーと思しきものが二つであった。
「な、何スか、これ!? まるで、作り立てのようにホカホカしてるっスけど、その道着収納袋は一体どうなってるっスか!? ・・・とそれは置いといて、いただきますっス!」
道着収納袋の謎は軽くスルーして、蔵之介はハンバーガーにかぶりつく。
「う・・・ 旨いっス! これは、予想外に旨いっスよぉ!」
「・・・確かに、おいしいわね。けどこれ、野菜が入ってないじゃない?」
「まり子氏よ、漢には野菜などという軟弱なものは必要ないのだ! 漢は肉! とにかく肉よぉ!」
まり子の指摘に、千秋はそこは譲れないとばかりに声を荒げた。
「野菜が軟弱って、意味がわかんないけど・・・」
「でも、この方が僕は好きっスよ。僕、あのピクルスってやつがどうも苦手なんスよ」
「さすが、蔵之介よ。漢の味をわかっている。これぞ、漢まっしぐら、よ!」
蔵之介から好評価を頂いた千秋は、嬉しそうな顔をした。
「・・・そのうち体壊すわよ、あんたたち。・・・これはいいとして、サイドメニューとかはあるの?」
「当然よぉ! まずは、この漢飯のお供にふさわしい『揚げ芋』! 皮ごと揚げた逸品よぉ!」
またしても千秋は道着収納袋から揚げたての芋を取り出して、二人の前に置く。そして更に、
「揚げが飽きたら、この『蒸かし芋』! 芋が飽きたら、この『揚げ鶏』よぉ!」
と、次々と取り出す。
「ふ、蒸かし芋はともかく、揚げ鶏って北京ダックみたいっスよ! もはやサイドではなく、メインになってるっス!」
「・・・飲み物はあるの?」
「あたぼうよぉ!」
急に江戸訛りになった千秋は、またしても道着収納袋に手を突っ込む。
「ぶどう汁! みかん汁にりんご汁! そして『白甘汁』に『弾け泡汁』!」
叫びながら果汁ジュース三つと、カルピスジュース、炭酸ジュースを次々と取り出しては二人の前に置く。
「そしてこれが当店自慢の一品! 『振動半凍甘液』よぉお!」
ダンッと、二人の前に叩きつけると、
「・・・シェイクね。なんでも、和名にすりゃいいってもんじゃないでしょ」
まり子は若干イラっときたようだった。
「ま、まあまあ。でも、味は悪くないっスよ! これなら、十分勝負できるかもっス!」
不穏な空気を感じ取った蔵之介がフォローを入れると、まり子もその点は納得したようだった。
二人の試食が終わったところで、千秋は店の中を案内する。まず紹介したのが、和服を着こんだ厳つい顔をした等身大の人形だった。
「蔵之介にまり子氏よ。この方が漢塾塾長の小田島 平七様だ。・・・まあ、この店の守り神のようなものだな」
「こ、この方が・・・ 今回初めて、ご尊顔を拝見したっス!」
「・・・なんか、もろ昭和って感じね」
まり子が呆れる一方で、蔵之介は手を合わせて拝む。
続いて案内されたのは、タッチパネルが付いた機械だった。
「これは?」
嫌な予感がしたが、避けては通れないと感じたまり子が尋ねる。
「これは、店内に音楽を流す装置よ。食事時には心地よい音楽が必要だからな」
「へ~、ジュークボックスね。また随分懐かしいものを・・・ でも、いいんじゃない? どんな音楽があるのよ?」
感心したまり子が、タッチパネルの『壱番』を押す。すると・・・
ぶおぉおお~~~ ぶぉおお~~~
店内にほら貝の音が響いた。
「なんで、ほら貝なのよ! こんなの落ち着いて食事出来ないでしょ!?」
「あ、相変わらずの斬新さっス! ・・・他はどんなのがあるんスか?」
まり子が声を荒げる一方、感銘を受けた蔵之介が他の番号を尋ねると、
「ふ。弐番は尺八、参番は鬨の声、四番以降は軍歌メドレーになっている」
と、千秋は自信ありげに答えた。
「す、凄すぎるっス!」
「・・・・・・」
蔵之介は感心していたが、まり子にはもはや何か言う気力がなかった。
とここで、蔵之介があることに気付いた。
「兄貴。あのカウンターのメニューのところ、『0円』って書かれてる隣がテープでシールされてるんスけど、あれは何なんスか?」
蔵之介が指し示すと、千秋はにやりと笑った。
「ふ、あれか。あれこそ当店の最大の売りよ」
「ま、まさか・・・ スマイル0円とかっていう、オチじゃあ・・・」
「ぶわっかもぉおん! 漢の店にそんなもんがあるかぁ!!」
案の定怒られたので、蔵之介は平身低頭する。
「す、すみませんっス! じゃ、じゃあ、あれは一体・・・?」
「開店まで秘匿しておくつもりだったが、しょうがない! 二人とも、目の玉かっぽじって見るがよいわぁ!」
千秋が勢いよくテープを剥がすと、そこには『喝』の字が刻まれていた。
「「・・・か、喝!?」」
「おうよ! 漢の店は客には媚びぬ! 軟弱な客には喝を入れるのよぉ! 塾長ばりの喝を入れて、気合を注入してやるのだぁあ!!」
「ま、まさかの、喝 0円とは! ・・・お、お金を払ったうえに、どやされるなんて! やっぱり、漢の道は厳しいっスぅ!!」
蔵之介が驚く隣では、
「・・・駄目だ、こりゃ」
まり子は疲れた表情でボソッと呟いた。
その一週間後、千秋の店『怒鳴怒』はオープンとなった。不安視していたまり子の想いとは逆に、お店の斬新さが話題となって連日の超満員となったのであった。
「やっぱり、兄貴はすごいっス! 先見の明があるっス!」
「・・・私は、理解できないけどね」
後日、蔵之介は千秋を褒めたたえていたが、まり子は理解不能とばかりに、被りを振るのであった。
~おわり~
アホな話にお付き合いくださり、ありがとうございました😆
