私はまた、北海道に負けました。
チーズケーキを愛する者には、決して逃れられない業があります。
それは、常にずっしりとした重みを求めてしまうという、底なしの強欲さです。
世の中には、ふわふわのスフレチーズケーキというものが存在しますよね。
でも、濃厚派の私に言わせれば、スフレは実質的に空気です。
口に入れた瞬間に消えてしまうようなものは、摂取カロリーにカウントされません。
そんな都合の良いマイルールを振りかざして、私は今日も、舌に絡みつくようなもったりとした質量を探し求めているのです。
ルタオ、と聞いて100人中99人が思い浮かべるのは、あのドゥーブルフロマージュでしょうか。
もちろん、あれは雪のような口どけが素晴らしい名作です。
大好きです、誰もが認める正解です。
でも、私はあえて言いたい。
その輝かしい看板の影に、もっと恐ろしいポテンシャルを秘めた逸品が隠れていることを。
それこそが、パフェ ドゥ フロマージュという名の罪深い誘惑なのです。
出会いは、北海道物産展という名の魔界でした。
会場に一歩足を踏み入れれば、そこは理性が蒸発し、財布の紐が勝手にほどける危険地帯。
そこで私は、一本の黄金色の箱と目が合ってしまったのです。
パフェ。
その響きだけで心が躍りますが、調べてみるとフランス語で完璧を意味するのだとか。
完璧な、チーズケーキ。
そんな大層な名前を自ら名乗ってしまう、その圧倒的な自信。
お値段は3,000円ちょっと。
一瞬、脳内の家計簿担当が警報を鳴らしましたが、魂の燃料代だと思えば安いものです。
気づけば私は、保冷バッグを戦利品のように握りしめてレジに並んでいました。
このケーキは冷凍状態で手元に届きます。
パティシエによれば、半解凍でもアイスのような感覚で楽しめるそうですが。
私は完璧を追求するタイプ。
公式が推奨する最高な状態、すなわち冷蔵庫で7時間という名の修行に身を投じることにしました。
この7時間が、もう本当に長い。
ただ冷蔵庫で寝かせているだけなのに、意識の半分が常にキッチンへと飛んでいきます。
今、彼はどんな状態だろうか。
カマンベールとマスカルポーネは仲良く馴染んでいるだろうか。
1時間おきに冷蔵庫の扉を開けそうになる衝動を必死に抑え込みました。
ようやく修行を終え、待ちに待った御開帳の時。
箱を開けた瞬間、私の鼻腔を突き抜けたのは、濃密なんて言葉では足りないほどの、暴力的なチーズの香りでした。
見た目はシンプルで潔い長方形。
長さは約15センチ、重さは約440グラム。 手に取ると、その数値以上にずっしりとした命の重みを感じます。
いざ、フォークを投入。
その瞬間、私の脳内実況が絶叫しました。
全私が泣いた。
一口食べる前から確信したのです、これ、絶対においしいやつだ、と。
感触はテリーヌのようでいて、ムースのような繊細さも併せ持っています。
低温でじっくりと蒸し焼きにされているからこそ生まれる、ベイクドとレアの中間のような、絶妙な粘り。
口に運んだ瞬間、3種類のチーズによる狂詩曲が始まりました。
まず、北海道産のカマンベールが熟成された深いコクを運び込みます。
続いて、同じく北海道産のクリームチーズが心地よい酸味で舌をなでる。
そこへ、イタリア産のマスカルポーネが貴婦人のような柔らかな甘みを添えてくる。
この3つのチーズが黄金比率で混ざり合い、とろけるような口どけとなって私を襲います。
濃厚。
とにかく、とてつもなく濃厚です。
それなのに、不思議なほど重くない。
しっかりとしたコクがあるのに、後味は驚くほど軽やか。
この濃厚なのに重くないという矛盾に、脳が激しくバグを起こし始めます。
私は今、チーズの深淵を覗いているのか、それとも雲の上を歩いているのか。
その混乱に、最大の奇襲が仕掛けられました。
隠し味として潜んでいた、余市産のナイアガラジュース。
チーズの要塞だと思っていたら、背後から白ぶどうの爽やかな軍勢が乱入してきたような衝撃です。 濃厚なチーズの奥から、フルーティで気品ある香りが鼻を抜けていく快感。
チーズを食べているはずなのに、どこか上質なパフェを楽しんでいるような錯覚。
なるほど、これがパフェの正体か、、、
と膝を打つしかありませんでした。
それにしても、北海道という場所は一体どうなっているのでしょうか。
カマンベールも、クリームチーズも、隠し味のぶどうまで。
なぜ、北海道のものはこれほどまでに美食の暴力を振るってくるのか。
もはや、全日本人が抱く共通の謎であり、最大の嫉妬対象です。
北海道に住んでいる人が羨ましすぎて、もはや住民票を移したい。
朝昼晩とこのチーズが食卓に並ぶのなら、雪かきの重労働さえ少しだけ美化してしまいそうです。
、、もちろん、それは雪国で暮らしたことのない人間の甘い想像に過ぎません。
本当に雪と向き合って暮らしている方々のご苦労は計り知れませんが、それでもなお、このチーズには「その先のご褒美」を想像させる力があるのです。
そんな極端な妄想を膨らませながら、私は2口目、3口目とフォークを止められませんでした。
解凍後は48時間以内に食べるのがベストとのことですが、心配は無用でした。
この完璧な口どけを前にして、2日も耐えられる人間がこの世にいるとは思えません。
一瞬で、私の目の前から440グラムの芸術は消え去りました。
自分へのご褒美、という便利な魔法の言葉があります。
物産展やお取り寄せでついついポチってしまうのは、心が弱いからではありません。
明日を生き抜くための、正当な生存戦略なのです。
この完璧なケーキは、単なるスイーツ以上の栄養を、私の荒んだ心に注ぎ込んでくれました。
日常の小さな冒険は、1本のチーズケーキから始まります。
完璧なものに触れることで、濁った視界が少しだけクリアになる。
そんな贅沢な体験が、今の私には必要なのです。
チーズケーキ好きの同志たち。
もし、まだこの完璧を知らないのであれば、人生の幸福をいくらか損していると言わざるを得ません。
一度でいいから、この濃厚な魔力に溺れてみてください。
きっと、いや、必ず感動しますよ。
お腹も心も、チーズの色に染まった幸せな1日をありがとう、ルタオ。
次回のご褒美スイーツは何をポチろうか。
私の北海道への移住計画は、とりあえず次のお取り寄せが届くまで延期することにします🌷
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