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ポラリトンの生みの親Hopfield(2024年ノーベル物理学賞)

こんにちは!光と物質の量子論研究室(光りろん研) M1の平田です! 今回は2024年のノーベル物理学賞を受賞したJ.J. ホップフィールドが1958年に書いた

"Theory of the Contribution of Excitons to the Complex Dielectric Constant of Crystals”
Phys. Rev. 112, 1555 (1958)
https://doi.org/10.1103/PhysRev.112.1555

という論文を紹介します!この論文で初めて「ポラリトン」という概念が登場しました!

今回の記事ではまずポラリトンの基本的な知識を紹介した上で、著者であるホップフィールドがこの概念にたどり着くに至った背景事情などを説明します!
現在注目を集めている「ポラリトン」について、なぜこの概念が生まれたのか、ポラリトンという描像を通じて見えてくることは何かを知りたい人にぜひ読んで欲しい記事です!

この記事は、私が去年の10・11月に光りろん研のJournal Clubで紹介したものを元に執筆しています


ポラリトンの基本知識

Wikipediaによるとポラリトンとは

ポラリトン (Polariton) は、分極と電磁波の混成波である。より厳密には、光学フォノンやプラズモン、励起子などの準粒子とフォトンの量子力学的重ね合わせによって生成される準粒子のことである[1]。

"ポラリトン". Wikipedia日本語版

とあります。この記述は概ね正しいのですが、文脈によって以下の2つの意味を取ることがあるので注意が必要です。

光と物質が相互作用する系の固有状態を表す場合(Wikipediaでの記載)
電磁場と分極を持つ物質が結合した系の固有状態を、ポラリトンという準粒子として捉えます。これは光子が物質の中を進むときに周りに分極をまとった"ポラリトン”が伝搬していくイメージです!

物質中の分極波が量子化された状態を表す場合(元論文での意味)
物質中の分極(Polarization)が振動するモードを量子化し、その励起状態をポラリトンとして扱います。電磁場という場に対して、特定のモードの励起=光子として考える対応と同じです!

理論的取り扱いについては本記事後半で詳しく説明していきます!!


論文の概要

著者であるホップフィールドはこの論文において、絶縁体結晶(Insulating crystals)の光学特性の理論的な取り扱いについて従来手法の問題点を指摘して、場の量子論的取り扱いの提案を行いました。これがこんにちポラリトンと呼ばれている描像にあたります。
彼は具体的には、励起子(Exciton)が吸収の最終過程とするような描像や半古典論的取り扱いなどの問題点を指摘し(2章)、電磁場と物質の相互作用全体を量子化して取り扱うことが適切であると主張しました(3〜5章)。この理論のなかで重要な概念となるのがポラリトンです。3章は一般的に分極と電磁場の相互作用を、4章は絶縁体結晶における励起子と電磁場の相互作用を扱っています。5章では4章の結果を基に、絶縁体結晶における光の吸収過程として適当である描像について議論されています。

今回の記事ではポラリトンについて理解を深めてもらうため、元論文の2章と3章を中心にお話します!


問題点

著者であるホップフィールドはこの論文において、これまでの絶縁体結晶の光学特性の理論的取り扱いについて、いくつかの問題点を指摘しました!

光子の吸収・放出過程

絶縁体結晶における励起状態というのは、正孔と電子の束縛状態である励起子(Exciton)と呼ばれる準粒子で記述できます。
そのため波数$${ \bm{k} }$$をもつ励起子が、波数$${ \bm{k}^\prime }$$をもつ光子を吸収する吸収過程や、その逆である光子の放出過程をこの系で考えることは一見自然なように見えます。

しかし絶縁体結晶においては、このような純粋な意味での「状態遷移」は起こらないと、ホップフィールドは指摘しています。彼はエネルギーが光子と励起子間で相互に行き来していると考えたほうが適切であり、電磁場と物質をあわせた系全体での固有状態=ポラリトンという描像を提案しています。

半古典論的取り扱い

絶縁体結晶において電場$${ \bm{E} }$$によって分極$${ \bm{P} }$$が駆動される運動方程式を導入し、Maxwell方程式との連立方程式を解くことで、光学特性を解析することができます。これを半古典論的取り扱いといいます。この手法は吸収スペクトルがうまく計算できるなど、ある程度の成功を収めています。
しかし、波数保存が成り立たないことや、電磁場と分極を結びつける上での取り扱いに問題があるとホップフィールドは指摘しています。


半古典論的取り扱いでは、分割されたサブブロックそれぞれが電磁場と相互作用する振動子であるとして、電磁場と分極を結びつける方程式を導出している

ポラリトンの理論的取り扱い

先ほど挙げた問題点を克服するために、ホップフィールドは場の量子論的取り扱いを提案しました。以下で詳しく説明します!

彼はまず、電磁場と分極場(物質)を以下のように量子化しました

$$
\bm{A}=V \sum_{\bm{k}} \bm{\mathcal{E}} \left( \hat{a}_{\bm{k}}\mathrm{e}^{\mathrm{i}\bm{k \cdot r}} + \hat{a}_{\bm{k}}^\dag\mathrm{e}^{\mathrm{i}\bm{k \cdot r}} \right) \\
\bm{P}=W\sum_{\bm{k}} \bm{\mathcal{E}}\left( \hat{b}_{\bm{k}}\mathrm{e}^{\mathrm{i}\bm{k \cdot r}} + \hat{b}_{\bm{k}}^\dag\mathrm{e}^{\mathrm{i}\bm{k \cdot r}} \right)
$$

今回は係数$${V,W}$$や細かい添字など詳細には触れません(気になる方は元論文を参照してください!)。ここで注目してほしいのはそれぞれに電磁場モードの消滅演算子$${ \hat{a} }$$ や分極場モードの消滅演算子$${ \hat{b} }$$などが含まれる点です!これらの演算子は電磁場や分極場の波数$${\bm{k}}$$モードを消滅(もしくは生成)することを表しています。

これらの演算子を用いて、電磁場と物質が結合した系のハミルトニアンは以下のような形で書き表されます!(ただしある一つの波数モードに限定)

$$
\hat{H} = J\hat{a}_{\bm{k}}^\dag\hat{a}_{\bm{k}} + K\hat{b}_{\bm{k}}^\dag\hat{b}_{\bm{k}} \\
+ L\left[ (\hat{a}_{\bm{k}}^\dag \hat{b}_{\bm{k}} - \hat{a}_{\bm{k}} \hat{b}_{\bm{k}}^\dagger) + (\hat{a}_{\bm{-k}} \hat{b}_{\bm{k}} - \hat{a}_{\bm{-k}}^\dag \hat{b}_{\bm{k}}^\dagger) \right]\\
+ M\left[ \hat{a}_{\bm{k}} \hat{a}_{\bm{k}}^\dagger + \hat{a}_{\bm{k}}^\dagger \hat{a}_{\bm{k}} + \hat{a}_{\bm{k}}^\dagger \hat{a}_{\bm{-k}}^\dagger + \hat{a}_{\bm{-k}} \hat{a}_{\bm{k}} \right] + \mathrm{const.}
$$

(係数$${J,K,L,M}$$は説明しません)このように書かれたハミルトニアンを対角化することを考えます。以下のような演算子$${ \hat{\alpha}_{\bm{k}} }$$を導入します。

$$
\hat{\alpha}_{\bm{k}} =w\hat{a}_{\bm{k}} +x\hat{b}_{\bm{k}} +y\hat{a}_{\bm{-k}} ^\dag+z\hat{b}^\dag_{\bm{-k}}
$$

ただし演算子$${ \hat{\alpha}_{\bm{k}} }$$が電磁場と物質の相互作用する系の固有モードの消滅演算子である、つまり$${[\hat{\alpha}_{\bm{k}},\hat{H}]=E_{\bm{k}}\hat{\alpha}_{\bm{k}}}$$を満たすとしています。
この演算子$${ \hat{\alpha}_{\bm{k}} }$$はこんにちではポラリトン演算子と呼ばれているものになります!!

係数$${w,x,y,z}$$は$${[\hat{\alpha}_{\bm{k}},\hat{H}]=E_{\bm{k}}\hat{\alpha}_{\bm{k}}}$$の関係から得られる、以下の固有値問題を解くことで得ることができます!(詳細は省きます)

$$
\begin{pmatrix} \hbar c|k|+2D & -iC & -2D & -iC \\ iC & \hbar\omega_0 & -iC & 0 \\ 2D & -iC & -\hbar c|\mathbf{k}|-2D & -iC \\ iC & 0 & iC & -\hbar\omega_0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} w \\ x \\ y \\ z \end{pmatrix} = E \begin{pmatrix} w \\ x \\ y \\ z \end{pmatrix}
$$

係数$${w,x,y,z}$$から計算できる吸収曲線などの光学特性は半古典論的取り扱いと一致していて、なおかつポラリトンという概念を導入することで従来の手法が抱えていた問題点を克服することができています!

まとめ

今回はJ.J. ホップフィールドが1958年に書いた"Theory of the Contribution of Excitons to the Complex Dielectric Constant of Crystals”という論文を読んでいく中で、「ポラリトン」導入のモチベーションと理論的な取り扱いを見てきました!

彼が提案した場の量子論的な取り扱いは、それまで半古典論では少し説明が曖昧だった部分、例えば光子と励起子間のエネルギーのやり取り、といった点に対して「ポラリトン」という適切な描像を与えました。

現代のポラリトンに関する様々な研究の「出発点」である、彼の論文を簡単にですが解説してみました!最後まで読んでいただきありがとうございました!

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