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船上の戦場

春のお楽しみである真鯛釣りに出かけた。一昨年に続いて2度目の参戦である。
GWに入る前に、と思っていたら天候の具合でちょうど飛び石連休の中日に入ってしまった。混雑することで心配になってくるのは「オマツリ」と呼ばれる、同船者との釣り糸の絡まりである。
まだまだ鯛釣りの経験が少ない私からすると、混まない方がありがたいと思っていたのだけど、オマツリよりももっと恐れている「風」の穏やかな日を選んだ。
強風は戦場での糸の絡まり→解す作業→船酔いの連鎖を呼ぶためだ。

神奈川県の三浦半島、松輪港から6時出船となると4時半には船宿で受付をしなければならない。
同じ三浦半島の住まいを4時に出発。
そうなると自分の支度、食事、何らかの家事を含めたら2時半に起床。それでもギリギリ。
私はどちらかというと空きっ腹よりもお腹を満たしていく方が体調がいいので、船に乗る前は何かしら食べていくようにしている。

天気は小雨。
曇りと雨の行ったり来たり。気温は18℃。ここ最近にしては寒い。この寒さも船の上では重要になってくる。というのも寒さも酔いやすさの一因になるのだ。

前回の鯛釣りは一昨年の4月。私は船釣り初体験だった。
早朝、船宿の待合に行ったら待合室に溢れんばかりのおっさん殿方たちがもうもうとタバコの煙をあげていた。宿のサービスのカップラーメンに先を争うようにお湯を注ぎ、テーブルにビシャビシャと羽を上げながら夢中で啜っていた。
そんな空気感の中、女性は私一人。ジロジロと訝しげに睨まれる威圧感に圧倒されて縮み上がったのを思い出す。

あれから2年。
船にも何度か乗り、船酔いの辛さも何度か味わってきた。その中で何度もお世話になっている船宿さんの船に乗ることにした。

乗船早々に事件が起きた。

皆、乗船するとそれぞれの支度を始める。
釣竿に仕掛けをつけたり電動リールを準備したり、竿の準備や竿掛けをセットするなど船のセッティング、餌の準備など。
大概釣り好きの猛者たちは自分の道具を持ってきているのでそれぞれがどんどん準備をする。
私は竿もリールも全てレンタルなので、船頭さんが持ってきてくれるのを待っていると、必要なものを全部渡してくれた。
釣竿、リール、竿掛け等。全てを抱えて動こうとした途端、ツルっと腕から竿掛けがこぼれ落ちた。

「どぷっんっ」

見事に竿掛けは海の中へ消えていった。
船宿の備品を海に落としてしまったことに対する罪悪感と焦りで目の前が真っ白になった。
船酔いを心配する前に来た落ち込み案件。
もちろん弁償させていただき、何もなかったように船は出航。
ただメンタルはへこんだまま・・・。

鯛釣りの仕掛けはいくつか種類があるが、今回はコマセ釣りで統一。
ビシカゴというプラスチックのケースにコマセ(オキアミ)を入れ、水中でコマセが撒かれて魚を寄せる。そこにオキアミをつけた針を泳がせて食わせるという釣り方。

出典『釣り百貨』


鯛は臆病で、このビシが近づくと逃げてしまうから、ビシから針までかなり長い糸で繋がっている。
この日は8メートルのハリス。
この長いハリスの扱いがとても大変なのである。

前回、経験も準備も何もないまま船に乗った私は、隣の知らないおじさんに、
「風がふくと糸がふけちゃう(風に煽られて収拾がつかなくなるかんじ)から何かに巻いておいた方がいいよ。」と教えていただいた。
船が走り出すとそれなりに風を受けるので前回の時の10メートルのハリスは手に負えなくなるからね、ということだ。

そのことを思い出し、前日に夫が30センチほどの段ボールに糸を止めておく切れ目を入れたものを作ってくれた。そこに糸を巻いて絡まないようにするためだった。
乗船後、夫がわざわざ新しいハリスをパッケージから出して、そこに巻いておいてくれた。糸問題は安心、と思っていた。

船がポイントに到着するまでに準備ができていれば、到着後、すぐに釣りを始められる。
そのため、走っている間に準備をしてしまおうと焦っていた。
借りた電動リールの電源を船に備え付けのバッテリーに繋ごうとした。バッテリーは座るところの下のかなり狭いところにあるので、揺れる船上では接続するのに一苦労である。次席から近い左右のバッテリーを確認すると、両側とも+の電極が潰れていて接続できないことに気がついた。
自前のバッテリー持参した夫に相談して、船がポイントについたら、席を変わってもらうことにした。

自前の道具を何も持っていない私は走る船の上でバタバタである。
周りは落ち着いて船の揺れに身を任せたり、お菓子を食べたり、ビールを飲む人も。
そうこうバタバタしているうちに、船はポイントに到着。夫と場所を変わり、バッテリに電源を繋ぐことができた。
さて、仕掛けにハリスをつける番である。

なんと、バタバタしているうちに夫が巻いてくれたハリスは船の床に落ち、段ボールは見事生でにふやけまくり、巻いたテグスはまるで戻す前のビーフンのようになっていた。


ここで回顧されるのが先ほどの竿掛けどぷん事件である。
きっとあそこから流れがおかしくなったのだ。でもこれを何とかしないと、ここからもこの流れに飲み込まれてしまいそうで、腹を括ることにした。

ご経験のある方はわかるでしょう。
8メートルの絡まったテグスを解す作業にまつわる心の落ち方。
やっているうちにどんどん気持ちが海に沈んでいくような・・・。そして揺れる船上で手元ばかり見ることで船酔いすることも多い。
このどんどん落ちそうになるメンタル、逆に流れを悪くしてるんじゃないか?
いや、吹っ切れ!吹っ切れ!と途中からは
「私は運がいい〜〜⭐︎運がいい〜〜⭐︎」
と頭の中で唱えながら解すこと30分あまり。
やっとのことで釣りを始めることができた。

が、数時間何のアタリもなく、誘いをかけては餌を変える作業が続いた。

場所を移動し、しばらくするとトモ(船尾)の方で何か揚がったと声が上がる。
どうやらメジナが釣れたようだ。何だか勇気が出てきた。これは群れがきたのかもしれない。
また少しすると、目の前を赤いオトトが釣り糸に引っ張っていかれるのが見えた。まあまあいい大きさ!鯛だ!
隣の隣にいた方が鯛を揚げた。こちらも嬉しくなる。「おめでとうございます」と声をかける。
いいなあ、私も横綱昇進の時に力士が掲げる鯛じゃなくて、大関昇進の時のくらいのでいいから釣りたいなあ。などと思っていると、初のヒット。
隣の夫も同時にヒット。
揚げて見ればまあまあいいサイズのメジナ。
その後、夫がもうワンサイズ大きいメジナを揚げ、今回はお開きとなった。

鯛は釣れなかった。
それでもメジナが嬉しかった。青いお目目の綺麗な魚。

釣りは一種のゲームである。私たちにとっては。
でも魚にとっては命懸けなのである。そこは毎回、忘れないように締める時には「ありがとう」と感謝を伝え、できるだけ無駄のないようにおいしくいただく。
この日はお刺身と塩焼きでいただいた。

今回、いろんな失敗や反省があったが、それを踏まえて釣り竿、電動リール、バッテリーを揃えてもらうことになった。
おっちょこちょいで不器用な私がいろいろ失敗するのを見かねてのことだろう。(嬉しい)
今回、船酔いは免れたことはとても良かった。どんな状況もその日の出来事としてありがたく受け入れたい。

次の釣りも楽しみになってきた。

よく太ったメジナ(グレ)

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