ADHDの人は「バランス」を鍛えることが効く


ADHDの制御というと、多くの人は「集中力を上げる」「意志を強くする」「スマホを遠ざける」といった方法を思い浮かべる。
もちろん、それらも役に立つ。しかし、ADHDの人にとって見落とされがちな重要な入口がある。

それが、身体のバランス感覚を鍛えることである。

ADHDは、頭の中だけで起きている問題ではない。注意、衝動、感情、姿勢、感覚処理、リズム感、空間認識は、互いに深く結びついている。だから、頭だけで頑張って制御しようとするよりも、身体から神経系を整えた方がうまくいく。

ADHDでは「注意の切り替え」が乱れやすい

ADHDの人は、単に集中力がないわけではない。むしろ、興味のあることには異常なほど集中できることがある。
問題は、集中すべき対象に注意を向け続けること、そして必要なタイミングで注意を切り替えることである。
脳には大きく分けて、二つの状態がある。
ひとつは、ぼんやり考えごとをしたり、過去や未来について思いを巡らせたりしている状態で働くネットワークである。これをDMN、デフォルト・モード・ネットワークという。
もうひとつは、目の前の課題、作業、会話、勉強、運動などに集中しているときに働くネットワークである。これをTPN、タスク・ポジティブ・ネットワークという。
本来なら、課題に取り組むときにはTPNが働き、DMNは静まる。しかしADHDでは、この切り替えがうまくいかないことがある。
その結果、作業中に別の考えが割り込む、目の前のことから意識が逸れる、頭の中で連想が止まらない、やるべきことに戻れない、ぐるぐる思考が続く、一度気が散ると復帰に時間がかかる、という状態が起きやすくなる。
つまりADHDでは、注意のスイッチングが不安定になりやすい。

そこで重要になるのが「小脳・内耳・前庭系」

ここで注目したいのが、小脳、内耳、前庭系である。
前庭系とは、簡単に言えばバランス感覚を司るシステムである。内耳にある三半規管や耳石器が、身体の傾き、回転、加速度、重力方向を感知している。
この情報は小脳や脳幹に送られ、姿勢、眼球運動、筋緊張、空間認識などを調整する。
つまり前庭系は、まっすぐ立つ、転ばずに歩く、身体の傾きを感じる、視線を安定させる、空間の中で自分の位置を把握する、動きのリズムを保つ、……これらのための基盤である。
重要なのは、前庭系が単に「転ばないための仕組み」ではないということだ。
前庭系や小脳は、注意、予測、タイミング、感情調整、認知の切り替えにも関わっている。
身体の姿勢を安定させるシステムは、同時に脳の状態を安定させるシステムでもある。
だから、バランス感覚を鍛えることは、単に運動能力を上げるだけではない。

脳の切り替え能力を鍛えることにもつながる。

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