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"外の人"になって補助金6,000万円を勝ち取らせた話  

こんにちは、補助金の「中の人」、ヒルです。

今から数年前、私はある農業法人の挑戦に立ち会っていました。

「6,000万円の補助金あるじゃないですか、あれで設備投資したいんですよ。」

え!? 6,000万?
自己資金入れて1億規模の設備投資するの!? ちょっと過大じゃね?
公庫も金出してくれるの? 大丈夫なの?

「公庫は大丈夫そうです。あと、補助金落ちてもやります。求められている仕事なので。

結局、当時の売上規模を超える1億3,000万円超の設備投資に対し、6,000万円の補助金満額採択を勝ち取ったのですが・・・。
この成功の裏には、事務分掌を越えて動いた公務員とそれを受け入れた組織の空白、そして何より一人の若き経営者の覚醒がありました。



1億3千万円という巨大な壁と、即席チーム

Aさんは30代の農業法人社長。当時、とある葉物野菜の引き合いが強いにも関わらず、生産量はどんどん減っていました。
Aさんは通年供給で応えるため、大規模なパイプハウスを建てて増産する計画を立てていました。

補助金落ちてもやります。求められている仕事なので。

Aさんの腹は決まっていました。そうは言っても補助金に受かるか落ちるかで自己負担(=借入)が6000万円も変わってくる話です。なんとかゲットしてほしい。

当時とある出先事務所にいた私。補助金の交付は本庁の仕事といえど組織は同じ。採択する側が、申請者に肩入れすることはできません。
ただし、当時の私の本分は農業者の指導・支援でした。
「じゃぁ農業者の補助事業計画づくりの支援という体を取ろっか。」
私と上司のBさんは歩調を揃えました。
そこに補助金窓口のCさんを加え、私の職場では勝手連的な支援チームができあがりました。

  • 上司のBさん(50代):野菜栽培と農業経営に詳しい。採算が取れて行政や金融機関の心配を払拭する数字を練り上げる。

  • 窓口のCさん(20代):補助金窓口。着任したばかりで補助金・農政ともに未経験。本庁との連絡調整に徹してもらう。 

  • 私(40代):野菜は詳しくないが補助金経験が豊富。プレゼンに向けたストーリーづくりを担当。

ポイントは、Bさんと私は補助金の担当者ではなかったことです。


担当外だから思う存分黒子になれる

補助金受付窓口のCさんは申請者に深入りできません。でもBさんと私は補助金担当でない&農家支援担当であるのをいいことに、Aさんのコーチを務めることにしたのです。

Bさん「最近の市況っていくらくらい?」
Aさん「うーん、キロ当たり350円から、高いときで550円くらいですかね」
Bさん「厳しく見積もって平均350円にしとくか……。年間、何回転やるんだっけ?」
Aさん「8回転くらいですね」
Bさん「了解。反収は1.1tくらいは欲しいねー。」

こうして着々と数字が積みあがっていきます。

Cさんは、本庁から次々降ってくる宿題をAさんや所内に伝えつつ、ライバル申請者の存在や採択の見通しなどを探ります。

私はAさんからやりたいことを聞き出し、行政に”刺さる”材料の抽出とストーリーへの翻訳を試みます。

葉物野菜は、手で収穫した後に外葉と土を取り払ってフィルムに包むまでの調製工程が膨大で、煩わしい。
それがネックで、小規模な農家は少しずつ減ってきていました。

Aさん「だから収穫機で地際からばーっと刈っちゃって、調製工程以降を関連会社に頼もうと思ってるんです。ゆくゆくは高齢や小規模の方の収穫を請け負うことも考えてます。」

つまりAさんは、将来的にインフラ的な立場も担いながら産地を守りたかったのです。

私は言いました。「収穫を受託する構想は補助事業の本筋ではないですが、プレゼンには入れましょう。産地全体への波及・貢献というストーリーは、役所の首を縦に振らせる効果があります。」

Aさんが現場で感じた課題やニーズを、公益性という行政価値へ翻訳していく。これこそが、私が果たすべき役割でした。


「伝わる表現」の引き出しを授ける

プレゼン経験のないAさんに対し、スライドの構成から練習まで、何度も事務所に呼んでBさんCさん私で伴走しました。
Aさんが持参した手書きのスライドメモを机に並べながら、「これとこれ順番逆の方が話入ってきますね」「このスライド情報量多いね。2枚に分けよう」。「左に現状、右に将来像書いて矢印引いて、余白に補助事業の内容書くと全体が示せますよ」とプレゼンに使える引き出しを授けていきます。

基本的な引き出しですが、目の前で伝わる資料に生まれ変わっていくメモを見て、Aさんは「なんでそんなすぐに思いつけるんですか」と目を丸くしてくれます。
「さんざん今まで作ってたんで・・・。でもねAさん。今回ぜひ学んでください。銀行にしてもクラファンにしても、自分がやりたいことの価値を伝えるスキルは、これからの農業経営者にとって武器になりますから。

練習を重ねるにつれ、Aさんの顔つきが変わっていきました。
最初は「通るかどうか」を不安がっていた一人の青年が、しだいに自分の事業が地域に与えるインパクトを自覚し、言葉に魂が乗り始めたのです。
最後の発表練習を終えたAさんは、晴れ晴れとした顔で言いました。「最初はしんどかったですけど今となっては燃えてきました!」



人事の空白は能動的に埋めよ

それから1か月近くののち、6,000万円の満額内示という福音を受け取りました。
成功の要因は、野菜と経営のエキスパートであるBさん、本庁から情報を取ってAさんの心を折らせなかったCさん、そして補助金のロジックを知る私の専門性がお互いを補完できたことにあります。

職員が減ってきている昨今、限られた人数で職場のすべての事務を十分な質でカバーするのが難しくなってきました。
個人が事務分掌を一歩も出ずに守ると"人事の空白"が生まれます。
もしBさんと私が担当外だからと背を向け、補助金も農業もまだ詳しくないCさんに任せていたら、書類を右から左へ流す以上のことはできなかったでしょう。

組織が抱える人事の空白を、専門性を持つ人が能動的に埋める。

私たちが6,000万円と共に勝ち取ったのは、一人の若き経営者の自信であり、地域農業の希望でした。
それは、分掌という壁を越えた「外の人」にしかできない仕事だったと、今でも思います。


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