哲学対話書簡 「かわいいってなんでしょう①」
言葉が見つからなくも、考えがまとまらなくても、意見が変わってもいい。
一緒に考える哲学対話書簡。
けいこさんと始めた往復書簡第二弾は「哲学対話書簡」だ。往復書簡の形をとりますが、気になるテーマがあれば一緒に考えてみませんか。
「#哲学対話書簡」で投稿お願いします。
気が付いたら「かわいい」と言っている。
人や動物、モノにも言っている。
簡単に使ってしまう。
ずっと童顔でやってきた。
特に得したことはないし、損をしたこともない。
初めて会った人に気安く話しかけられることはある。
30歳の時にイギリスでホームステイをした。
ホームステイ先には自分のほかに4人いた。
17歳のトルコから来ていた子が、やたらと話しかけてきた。
「行くよ」
「ほら、これ食べな」
「分からないことがあったら、私に聞きなよ」
話しかけてくるというか、世話を焼いてくれていた。
ある日、彼女は夕飯の席にいなかった。
そもそも飲みに行ったり学校のアクティビティに参加する人がいたりと、全員が揃うことはなかったので気にせずに食事を済ませた。
夜も遅くなってから、のどが渇いたのでキッチンにおりていった。
テーブルに頭を抱えた彼女が座っていた。
「どうしたの」
「いいかい、勇気の証が必要なんだ」
よくわからないが、頷いた。
「何か食べたの」
「食べられないんだ」
「お腹すいてない」
「だから、食べられないんだ」
話が進まないので、冷蔵庫を開けて中に入っている飲み物を物色していると
「いいかい、これが私の勇気の証だよ」
振り向くと涙目になって舌を出している彼女がこっちを見ていた。
その下にピアスが光っている。
イギリスにいる間まわりの人になめられないように、トルコに帰ってから友人に勇気があると思われたいために、その舌ピアスがいかに重要なのかを話している。
オレンジジュースを飲みながら、彼女の話を聞いていた。
「ところであんた、何歳」
「30(Thirty)」
「違うよ、よく聞きな。13(Thirteen) TEEN 伸ばすの」
「いや、30 ty であってる」
「それじゃ、30になっちゃうの。いい、TEEN 発音には気をつけな。繰り返して、TEEN」
「TEEN」
「そう、TEEN」
「TEEN」
あまりにも真剣な顔でTEEN、TEENと言われるので、笑いながら僕もTEENを繰り返した。
舌にピアスを開けて涙目な17歳の彼女。
なぜ世話を焼いてくれていたのかがようやくわかった30歳のぼく。
今思うと、静かなキッチンでの奇妙で一生懸命な発音レッスンは、かわいくて愛おしい時間だ。
日本人は若く見られるけれど、それにしても13歳かあ。
元気かな。
舌のピアスは今、どうしているの。
