作業服と宝飾店(約700文字)
金曜日の昼、作業服のおっちゃんが宝飾店から出てきた。
宝飾店の店先の雰囲気とはアンバランスな姿に思わず目をとめてしまったが、手にはしっかりと購入品の袋が下がっている。
お見送りをする女性スタッフさんは、パリッとしたベージュのスーツを着こなしていた。
女性スタッフさんの背中は、はじめてのおつかいに行く子どもを見守るような優しさが滲み出ていて、私は少しニコニコとしていた気がする。
おっちゃんの背中は気恥しそう。去り際に頭をぽりぽりかいていた。
おっちゃんと歩く方向が一緒で、数十メートルくらい後を追う形になった。
慣れないプレゼントだったのか、数メートル進む度におっちゃんは袋をチラリと見る。そしてまた、白髪まじりの頭をぽりぽりかいていた。
この話にオチはない。この後何か変わったことが起こるわけでもなく、おっちゃんと進む方向を違えた。
でも、どれくらいかの時間か、私はおっちゃんの状況に思考を巡らせていた。
なんで作業服姿のままなのか?
仕事の合間に時間を割いて宝飾店へ行ったのか?
それなら、プレゼントしたい物は事前に決まっていたのか?
そもそも仕事の合間に抜けるなんて難しいから、行動に融通が効く経営者の方なのか?
恋人へのプレゼントか、奥様へのプレゼントか、娘ちゃんか、それとも思いを寄せるパートナーが他にいるのか。
誕生日か、何かの記念日か、それとも詫びを入れるための手土産か…?
できる男なら何でもない日のサプライズプレゼントも可能性として有り得る。
しかし慣れてない雰囲気がダダ漏れだから、
やっぱり大切な人との節目のプレゼントかも。
別れたおっちゃんの背中が小さなっていく。
「カッコイイぞ!」とファイトの念を送っておいた。
