牛脂を食べてるんじゃないかってくらいジューシーな白い肉のサトゥルヌス
退社に備えて日報のネタをひねり出さねばならなくなったころ合いに、上長が各席を周り始めた。正直、勘弁してくれよとしか思わなかったけど、聞くともなしに聞こえた話は「世界情勢の変化で、ゲストの来日がドタキャンされ、宙に浮いた歓迎会が身内の懇親会になるから、参加してほしい」とかなんとか、どう考えても非正規雇用のおっさんには無縁の言葉が交わされている。なら我関せずやなと、雑な日報をでっちあげ、荷物をまとめにかかったころ合いで、ワイにもお声がかかった……!? 大丈夫かと思いつつ、上等なお肉がいただけるらしいので、職場飲み会は絶対不参加の禁を破って応諾する。ついていったら……創作日本料理、和牛A5ランクの網焼きと鉄板焼きのなんちゃらとか……ありがたそうな言葉が並ぶ、インスタ映えまくりの薄暗いオサレ空間で、料理人が黙々と肉を焼いている、めちゃめちゃ高そうな店やった。ブルゾン姿で困っていると、料理人が本日の肉を紹介し始める。うわぁ! ピンクや! 桃色よりもさらに白い、見事なサシの肉が視界を占有した。そのままコース料理をいただくのだが……ほんまに箸で切れるくらいやわらかいサシ肉って、乳臭いのな。
とはいえ、味は素晴らしい。それはもっぱら脂身の甘さだけど、そこに肉のうまみとかすかな塩気、コショウの香りがかぶるっての、好きな人にはたまらんやろうと思う。また、口の中でほどけるとしか言いようのない柔らかな食感と、臭みのなさには、素直に感動した。ただ、それはどっちかといえば料理人の技量への感動やな。ワイがこんなサシの入った柔らか肉を焼こうものなら、あっというまに肉の脂がだばだば溶け出し、揚げ焼きになっちゃうだろう。もちろん、表面はバリバリで、そのわりに中はぬるいし、肉の臭みも残るという、最悪の調理や。ただな、ワイが肉に求めるのは野性味あふれるかすかな臭み、そして歯に挑戦するかのようなかじる感じ。そう、まさに食いちぎってほおばる漫画の肉を食べたいんやから、まぁおいしいけどちょいと違う……これじゃない感はぬぐい切れない。むしろ付け合わせのナスやズッキーニがしっかりと肉汁を吸ってて、感動的なおいしさになっている。これやったらウルグアイ牛の赤身肉が……なんて危ない考えをもてあそびつつ、やたら大げさに「うまい」とか「感動した」とかはしゃいでる同僚に調子を合わせようと、顔を作りにかかる。でも、薄暗い店内の何かへ反射したワイの顔は、なんだか「我が子を食らうサトゥルヌス」みたいやった。






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