久瀬ヒワコを愛していた。 【短編小説】
※何年も前にいちどだけ、一次創作のwebオンリーのため書き上げた短編です。2年くらい前にnotoにも上げたことがありますが少々加筆修正して再掲します。こうゆう小説を書く人間だよ、と挨拶代わりに。
もう二度と書けない類の小説ですが、他に公開できるものがございません。
限界オタクのお話です。死ネタにつきご注意下さい。
はじめに 【 なーちゃんの話 】
「無理、死ぬ」というのは学生時代からのなーちゃんの口癖でした。ポテトチップスでも食べる手軽さで(ポテチはなーちゃんの主食で、偏食の激しい彼女はもちろんとても痩せていた)そう呟くから、こっちだって一袋百何円の気軽さで流してた。高校を卒業してもう十年以上、私たちの会話はあい変わらずオタクだった。一緒にいる時間が短くなったせーか、元々趣味が違うのか、ジャンルはかぶらなくなったけど。それでも、マンガの貸し借りついでに深夜の公園に停車して飽きずにオタトークをした。明け方までだって話せた。楽しかったなあ。なーちゃんは興奮するとキモチワルく早口になって、滑舌だって悪いから、私は半分くらい聞き流してた(なーちゃんだって某教育番組の人形劇に夢中になってる私の話を聞いちゃいなかったからおあいこでしょ?『あれ、兄弟だっけ?』甥っ子だっての‼)。だから。こっちでは放送してなかった深夜アニメの、古本屋でも見ないマイナーな少年マンガに出てくる、「ひわちゃん」とかゆー女の子の事なんて私はあんまりわからない。ぶっちゃけなーちゃんにもよくわかってなかったと思う。人気キャラのメイン回のEDにちらっと出てくる、原作には「3コマしか」出てこないキャラ? モブじゃん。なーちゃんはいつも意味不明だったけれど、最近は特にひどかった。通院するレベルです。なーちゃんの「ひわちゃん」語りはエンドレスで、全然興味ない私が「ひわちゃん」のフルネームを覚えるくらい。久瀬ヒワコ。どーでもいいのに一生忘れない名前になったじゃん。あと、なーちゃんの好きな「ひわちゃん」とゆーのは原作のその子ではなく、同人誌に書かれた「ひわちゃん」だとゆーのもわからせられた。何でそんなモブをメインにしたカップリング要素ない小説がこの世にあって、さらに一番喜びそーな人が読んだのかさっぱり訳がわかんない。例のアニメ10周年の今年、その小説作者のSNSを私が見つけちゃって、これに寄稿して貰ってるのも本当に訳がわかんない。奇跡とか言えばいいの? わかんない。なーちゃんの「無理、死ぬ」が死ぬ死ぬ詐欺じゃなかった事もわからないです。あんまりわかんないので、なーちゃんがひっそり書いてた怪文書をこうして全世界に公開してやります。ばーかばーかざまあみろ。わかる人の回答を募集します。いつまででも待ちます。なーちゃん本人でも可。文句言うなり訴えるなりしていいよ。昔みたいにケンカしよう。待ってるから・・・戻って来てよ。
【 】 ぺんぺんなずな
生きるのはいつだってしんどくて、時折どうしようもなく沈んでしまってどうにもならない夜がある。死ぬのを選択するのも億劫だが、仮にそこに至る行程がとても簡略なら選べてしまえそうな日だ。いつもは薄皮一枚向こうにある死がするりと背中にすりより離れなくなる。そんな時の対処法。重い身体を引きずってビジネスホテルに泊まる。家には急な飲みで帰れないと連絡し、WiFiを繋いでベッドの上で膝を抱え眠くなるまでネットを徘徊。 朝起きてだるい身体でシャワーを浴びて出勤する。人間として終わってるとか、夢も希望もないとかどうでもいい。早朝のコンビニで買った缶コーヒーを煽り、車に乗ってフロントガラスから差しこむ日差しにまだ生きている事を実感する。死はまた薄皮一枚向こうでこちらを伺う距離に戻った。
実家暮らしのアラサーが何やってんだか。とも思うが、ただ生きているだけでも、自分で死ぬよりはこの世界では価値ある事だ。多分。そうゆう事になっている。だいたいこのまま死んでどうするのか? 何者にもなれないし何かになりたいとも思えないけれど、どうせ死ぬしかないなら物語に殺されたかった。私は物語に生かされてきたのだから、殺す権利も物語にしかない。完膚なきまでに打ちのめされて生きていてよかった、と思えたら死ねそうな気がしていた。そういう物語を探して彷徨っていた。無人島に一冊だけ持っていける本、代替えのない特別な一編の物語を探していた。十代の頃からずっと、出口がわからない今でも。
あの日、いつものビジネスホテルで、昔のアニメの曲を聴いていた。クソほど鬱になれる音楽を聴きたい気分だった。聴いたらすぐ死のうと思えるようなのがよかった。とにかく死にたくてでも死ねなかった。私如きも殺せない物語なんてクソくらえだ。もう無理もう無理。全部どうでもいい。みんな死ね。血反吐を吐きながら心で吠えて、泣きながらタップした黒い画面は意味のある歌詞を流さなかった。民族音楽っぽい歌か叫びか鳴き声に、金属音が幾重にも重なって、不協和音ギリギリの音楽が流れた。
涙を拭った明瞭な視界に、彼女の笑顔が映った。
感電、針に心臓を貫かれたみたいな、陳腐な表現しかできないが鋭い痛みが身体の中心をズバンと打って、うめきながらスマホを落としたのを覚えている。脂汗をだらだらかきながら、震える指先は冷たくて、もう一度タップしようとしてもなかなか上手くいかなかった。
スピーカーから響く奇妙な音色、モノクロの画面には簡略化されたタッチ。悲惨な少年の物語だった。救いのない動画のラスト、走馬灯のように続く人々の顔の羅列に、他の人より短い尺で瞬きの合間に、彼女。何度もリトライして漸く一時停止できた。歪に笑う女の子。美人ではないし、特徴もない。なのに何故か目が離せない。あの暗黒の動画の中、手垢で汚れた画面越しに彼女だけが発光していた。
死ぬとか生きるとかどうでも良くなった。
只々彼女の事が知りたくなった。
広く浅いオタクの自負がある。何のアニメのエンディングかは知っていた。『魔法×遊戯』、通称『まほゆう』。魔法が伝統文化として根付く田舎町を舞台にしたダークファンタジー。東西南北四人の魔女と彼女たちに使われる「魔法因子」と呼ばれる少年少女の夏の物語。原作はオタク向け月間少年誌に掲載されていた全十一巻の漫画。多分打ち切り。原作は途中で迷走したが、鬱展開に振り切ったアニメは一部層に評価されている。私が衝撃を受けたMVはアニメ九話の特殊エンディング・ノンテロップバージョンだった。アニメを知らない層も知っている男リョナ的有名キャラの単独MV。キチガい染みた音楽に少年の半生が重なる、「エンドレスで聴いていたら発狂する」と話題の動画だった。しかし、彼女が何者かわからない。うぃきにも載ってない。どうゆう事だよ。新刊がもう手に入らない漫画だった。ネット通販でポチった古本が届くまで気が狂いそうだった。仕事以外は件のMVをエンドレスで流していたので原因の一端はそれかも知れないが。MVで気が狂った臨床実験成功例になるギリ手前で古本は届いた。あんなに必死に本を繰り、記述を探したのは卒業論文以来だ。
彼女がいるのは六巻二四八ページ、回想シーンの後ろ姿、セリフは一つ「あは。死んでもヤだね」
集合写真でそれらしき豆粒大の顔。
後は七巻おまけページの世界一尊い横顔。『元・東の魔女 久瀬ヒワコ』『ヒワコはいつでも笑っていました』
ヒワちゃん! 貴方ヒワちゃんって言うのね!ヒワちゃんって呼んでいい? もう呼んでるけど!
他キャラの会話から一人称も判明!(「あの僕女な」)
魔法因子からの呼称も判明!(「兄さまは……」「兄貴の話はすんな」)
ワンピース着た僕っ子で、兄さまないし兄貴と呼ばれているのね、素敵!
みんなヒワちゃんの話になると口を噤むのね。雰囲気的に方々から嫌われてるみたい、益々素敵!
どうしよう。嫌いになる要素がない。
好きすぎるのに、情報がない!
何故アニメ化もした少年漫画がキャラブックの一つも発行してないのか。打ち切りにならなきゃヒワちゃんメイン回もあったのではないのか。こんなに気になる要素がてんこ盛りなのに当時のオタクは何でヒワちゃんをほっといたんだ。ヒワちゃんが糸目の黒幕系美少年でなかったばかりに……。モブよりのキャラデザだったばかりに。いや、私には十分過ぎるくらい可愛いけどね。宇宙で一番可愛いよ!
「モブよりってかモブじゃん」
狂人は己を狂人と言わない。多分恐らく私は狂っていて、この世の恋に溺れる全ての人は狂っているのだ。でも私は狂っている自覚があるから狂人ではないのではなかろうか。などと言い訳してみても友人の冷ややかな目は変わらない。
「何言ってるかわかんない。キモい」
ヒワちゃんとはじめて会ってから大凡一か月。この辺で、私の妄想十割ヒワちゃん萌え語りを日々聞き流していた友人から、憐れみを通り越して恐怖されるようになった。
「もう詰んでるじゃん。なーちゃんアラサーなんだから落ち着きなよ」
「いやまだだよ! この世のどこかに未だ見ぬヒワちゃんがいるよ」
「あー、同人誌とか? つっても十年前のマイナーアニメじゃん」
舐めんな。このど田舎からいきなり東京に行くのは怖いからまず仙台な。高速バスで来たぜ杜の都! 同人ショップをハシゴしてやるぜ!
結論として、ヒワちゃんの登場する同人誌、そ ん な も の は な か っ た。
すみません、舐めてました。『まほゆう』の女性向け同人誌なんて片手で掴める程度あれば良い方で、内容は大半イヅル君(例のMVの主役)のリョナものなのだ。後は普通にBL(王道はトキスズ)。『まほゆう』って女の子の可愛い漫画だと認識していたが同人世界では等しくモブなのね。イヅル君の年齢制限同人誌は表紙からどぎついのがわかり、もしかしたらヒワちゃんが出てくるやもと、一縷の望みをかけて数冊購入したが、断念。皆様、無抵抗な立方体を痛ぶって何が楽しいのか。流石に資金的にもメンタル的にも全部買ってヒワちゃんの存在を確認する訳にも行かず、負け犬は高速バスで帰宅。
「東京行こうぜ!」
「え、突然過ぎるじゃん。無理」
次の週には一人東京に上陸していた。狂ってる? いいんだ。アドレナリンが過剰に分泌されていて、人生最高に楽しかった。東京の人の多さやらビルの高さやら乗り換えに別の意味で狂いそうになりながら辿り着いた池袋。神は私を見捨てなかった。飛びこんだ何件目かの同人ショップ。ビニール袋をガサガサ高速で繰り、無言で同人誌を漁るお嬢様方の腕をすり抜けて手に落ちてきた文庫サイズの同人誌は、紺地に白抜き文字のシンプルな本だった。裏表紙に薄ら、『まほゆう』アンオフィシャルファンブックと記載されていた。
『僕が魔女だった頃』
叫ばなかったのは上出来だったと思う。
『まほゆう』世界に一人称僕の魔女はヒワちゃん以外にいない。表紙のどこにもヒワちゃんの名前はないが、もしかしなくても、これは。いや、落ち着こう。そんな漫画みたいな展開あるか? ちょっとヒワちゃんが出てくる同人誌が見つかればいいくらいの気持ちだったのだ。四コマギャグ本の一コマにでもヒワちゃんがいればひと月持たせる自信があった。それなのに何このタイトル? 『僕が魔女だった頃』? ヒワちゃん主役? ヒワちゃんが主役なの? そんな事あり得る? 大体億が一これがヒワちゃんの物語だったとして、それは私の思い描くヒワちゃんだろうか。解釈違いの推し程苦しいものはないぞ。でもしかし。でももしも。
ぐるぐる考えは頭を巡り、めまいを覚えて足元も覚束ない。誰かが背中にぶつかって、すみませんと別の誰かが目の前を横切っていく。邪魔にならないように壁際によけても、本だけは大事に汗でぬるつく両手で持っていた。
どうやって帰ってきたかどころかどうやって購入したかすら覚えていない。
後からレシートを発掘したからレジを通してきたのは間違いないだろう。気がつけばいつものビジネスホテルのベッドの上で、文庫本相手に正座していた。
落ち着こう。ここ一ヵ月の私には落ち着きが足りなかった。アラサーに有るまじき浮かれ具合だった。吸って吐くのが深呼吸。呼吸の仕方はどうだった? 一度わからなくなると本当にわからなくなって、なった事もない過呼吸に陥りかけながら、過呼吸にはビニール袋と、パニック全開で文庫本のビニールを破った。荒い息を吐きながら湿った指をシーツで拭って開いた文庫本の最初のページ、
『はじめて出会った頃からずっと、イヅルは僕のものだった。
誰の首輪をしていようと誰の焼印が刻まれようと、どうしようもなく僕のものだった』
ブルーグレーの遊び紙に透けた冒頭の文章で、世界がひっくり返った。
凄まじかった。泣きながら読んだ。苦しくて狂おしくて幸福な読書体験だった。
ペラッペラの二次元だったヒワちゃんに血肉が通って、乾いた頬の感触や指の冷たさまでわかる気がした。無機物だと思っていたイヅル君がただの子供だとようやくわかった。形代の湿った夏の空気、渓谷を流れる川の音まで聞こえた。欄干から身を乗りだしてヒワちゃんと一緒に水巡りを覗きこんでいる、ありもしない記憶が鮮明に脳裏に焼き付いた。ヒワちゃんの声まで再生できた。
私の知りたいヒワちゃんの全部がそこにあった。
物語のラスト。工場裏でシガレット菓子を咥えるツナギを着たヒワちゃん。もう魔女ではないくたびれた彼女の姿を何度も思い描いた。どんなヒワちゃんだってどうにかなるくらい好きだった。
「ヒワちゃんはヒワちゃんと呼ばれるのが嫌みたいなんだよね。否、薄々知ってたんだけど。でも呼ばせて欲しいんだよ。ヒワちゃんが笑顔の裏でイラっとする空気が好き。視界に入りたくないし、ヒワちゃんの人生に干渉したくないけど、でもさげずんで欲しい。わかる?」
「わかる訳ないじゃん」
めんどくせえ夢女は爆誕し、友人の理解は得られなかった。
無人島には絶対持っていきたくない本だった。
そんな最悪な環境で本が劣化したら最低じゃないか。湿気と紫外線に気をつけて厳重に保管しなければならない。シリカゲルと一緒に箱に収納して押入れに仕舞った。何度も読み返したかったのでスキャナーでPCに取り込んだデータをネットプリントして製本した。個人で楽しむ範囲ですから大丈夫ですよね? この尊い物語をお書きになられた方に感想とその当たりの謝罪を申し出たかったが、奥付に書かれていたSNSのアカウントもメールアドレスも死んでいた為に連絡をつける事ができなかった。できれば直接お会いしたかった。どんなに貴方の書いた物語が好きで、ヒワちゃんを愛していたのか、語りたかった。恐らくご本人を前にしたら何の言葉も出てこないだろうから、手紙をしたためておくべきかもしれない。私は字が汚いから打ち込んでおいた方がいいだろうか。この激重感情をどうにか形にしてお伝えしたい。ドン引き必至だな。『藤島』さんというペンネームと十年くらい前には『まほゆう』ジャンルにいた事しかわからないが、いつかどうにかしてお会いできるかもしれない。私がこの本に巡り合えたように、オタクの世界では奇跡はそう珍しいものではないのだ。きっとお会いできる、と根拠のない自信があった。
まずはお礼を伝えよう。
この物語を書いて下さり、本にして下さってありがとうございました。貴方の物語と貴方の描いた久瀬ヒワコさんに救われました。このどうしようもないリアルを生きる希望が湧いてきました。
本当にありがとうございました。
よし、死のう。
久瀬ヒワコを愛していた。
久瀬に格別の思い入れはなかった。
久瀬について私が知っていた事は驚くほど少ない。久瀬ヒワコという名前で元・東の魔女。一人称は僕。当時の私が欲情していた相手の、MVに一瞬だけ顔を出す女、イヅにゃんに「兄さま」とか呼ばせていた性癖のヤバそうな女だ。当時の私はイヅにゃん受の腐った創作活動をしており、どちらかといえば久瀬の存在には怨みを抱いていた。お前がいなきゃイヅにゃんはもっとなあ……と、今思い出しても腑が煮えくりかえるが、本筋に関係ないので割愛する。
久瀬が原作に登場したコマは正確には二コマで、後はコミックスのおまけページに描かれたラフな横顔と添えられたコメントのみだった。
「ヒワコはいつも笑っていました」
ここから派生させたSSを、当時ネット上で交流のあった人が個人サイトに上げた。久瀬は嫌いだったが、その千字にも満たないSSの雰囲気がとてもとても好きだった。イヅにゃん受・遊郭パロ本に煮詰まっていた私は、気分転換にそのSSと久瀬に対して開示されていた情報、例の特殊エンドと云う点と点を強引に妄想の線で結び、捏造に捏造を重ねた一編の物語を紡いだ。いわば件のSSの三次創作だった。書きながら久瀬に一方的に積み上げた恨みが、薄まらないにしても「仕方ない」と思えるまでになった。あの薄暗い物語は、私と、私の推しに対する救いの物語だった。
「とても素敵な物語を書いて下さりありがとうございました。久瀬さんとイヅル君の理想の関係性を見せて頂きました」
SSの作者だった人がこの物語を非常に気に入って下さり、紙の本で欲しいと言ってくれた。こうして発行されたのが『僕が魔女だった頃』だ。趣味のさらに趣味の本は大変小部数の発行だったが、片手の指で足りる程しか売れず、半分以上が焚き火になった。けれど私は満足していた。欲しいと仰って下さった方に本を届けられた。御礼と丁寧な感想に加え、件のSSまで賜った。何より、CP要素を差し引けば今まで書いた物語の中であの話が一番好きだった。言葉にできない祈りを過不足なく形にできたと、自信を持って言える物語だった。
「祝・十周年。前前前世のその前に発行した全く売れなかった本を再録します」
十周年を記念して、SNSに『僕が魔女だった頃』をUPした。そこそこマイナージャンルのめちゃくちゃマイナーキャラを主役にすえた小説に、メッセージが届いた。
歳川さんからの長いメッセージでなずなさんの話を聞いた。私の大切な話を大切に読んで下さった人の話だった。届けるべき人に届くべき物語が届いた。奇跡みたいだと思った。奇跡ひとつでは人が救えないと知った。
なずなさん、貴方と貴方の話を聞かせて下さった歳川さんに感謝を伝えたい。
私の小説を読んで頂き、好きになって頂き、ありがとうございます。私は業の深い腐女子なので、私の祈りが貴方に届いた事を幸いだと思っています。今ジャンルでも書いて書いて書き続けています。一生腐女子で物書きです。
歳川さんにお願いしまして、私が賜ったNooさん作のSSを掲載させて頂きました。Nooさんにも許可を頂きました。
このSSも、貴方に届けと願います。
貴方と、貴方の愛する久瀬について語りたかった。
ご冥福をお祈り致します。
※この作品はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。
【 恋文 】Noo
アイラブユーを死んでもいいと訳す感性をクロウは理解できない。
「死んだら何んもできねえじゃん」
塾講師はタバコを吹かしながら笑った。
「羽佐間は子どもだな」
プレハブの外階段脇に喫煙所があって、片割れを待つ間に意味のない会話をよくした。いつでもヤニの匂いがする無精髭の塾講師は、塾生の殆どから軽んじられていたけれど、クロウは嫌いではなかった。だめな大人にクロウは甘い。タバコの匂いは懐かしかった。
「兄貴も気ぃつけねえとああなるよ」
クロウの魔女は忠告に目を細めた。
隣あって畦道を歩く何でもない夕暮れ。ブラウスの袖から覗く不安に細い腕や筋の浮いた首や、痩せて薬物中毒者じみた顔色の悪い女。
「アレは僕の理想じゃないなあ」
冗談も本気もない人は緩く弧を描く唇のまま言った。
「もっと駄目にならないと」
「兄貴ならさ、アイラブユーは何て訳す?」
くつ、と喉の奥で笑う。クロウの魔女は笑顔以外のバリエーションを持たない。
「わかんない概念を訳す言葉はないねえ」
「わかんねえの?」
「逆に聞くけど、君なら何て訳すの?」
「愛してる」
「へ」
「愛してる。だろ? 他に何があんだよ」
魔女は目を細めた。それが彼女の最大級の親愛の顔だと、クロウは知っていた。
「クロウは大人だなあ」
思ってもいない癖に軽やかに言う。
「お前なら、どう訳す?」
町外れの雑木林。ひらけて乾いた雑草の空き地。虚空を見つめる片割れの、色のない瞳。
水気の足りない乾いた頬を大きなマスクで覆っている。パーカーのフードを目深に被り全身黒で、マスクと、中空で踊る両手だけが白い。白手袋で覆われた指が、指揮でもする様に動く。ひび割れた皮膚と、清潔な服装。不審者の容貌で背筋を伸ばす。
片割れは今日も妙な違和感でそこに居る。
何も写さない横顔に、クロウは返答を期待していない。
言われなくても、イヅルの言葉ならわかる。
陽炎が立ち上る真夏。また夏が来た。
太陽を背にして坂の上から転がるように、魔女が降りてくる。おぼつかない足取り、麦わら帽子の影に隠れた顔は、イヅルとクロウを見て笑みに似た形を作った。
逆光にイヅルが目を細めた。
死んでもいい、と思っているのがわかった。
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