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もう一人の俺 2【シロクマ文芸部】

花びらを知らぬ間に踏んでいたのか?
靴の裏に桜の花びらが付いていた。

もう桜が咲いてたのか…
どこに桜の木があったのか、どの程度咲いていたのか、誠也は全く思い出せなかった。

誠也は、昨年の娘の中学の卒業式の後、公園の満開の桜の木の下で、最後の中学の制服姿で一緒に写真を撮ろうと言ったのに、娘に
えーやだー
と拒否された時の事を思い出した。

娘はあの偽父親となら写真を一緒に撮るのだろうか…

ある日突然、自分の姿をした男が自分に成り替わり、家では今までろくに話をしてくれなかった妻や娘と楽しそうにおしゃべりし、職場では部下から受け入れられ、充実した1日を過ごしている。

それに引き換え自分は、見も知らぬ男の姿になり、財布に入った30万円以外何も持たず、ネットカフェで寝泊まりして途方に暮れている。

昔、何かの拍子に二人の人間の心だけが入れ替わってしまう、なんて話があった。
だとしたら、この姿の俺を待っている人がいるのだろうか?
いや、アイツは俺として普通に生活しているのだから、違うな。

誠也は、心の整理がつかないままその後も誠也は、自分のふりをした男の尾行を続けた。

金曜の夜、アイツは誠也の友人の宏輝と酒を飲んでいた。宏輝は全く気づく様子もなく楽しそうにアイツと話しをしている。

宏輝も気がつかないのかよ!

誠也は腹が立ち、次の日宏輝を訪ねた。

案の定宏輝にも
どなた様ですか?
と聞かれた。
俺だよ、誠也だよ。
と言っても、宏輝はちょっと警戒した顔で誠也を見るだけだった。
信じられないかもしれないけど、昨日お前と飲んでいたのは偽物の誠也だ。俺が本当の誠也だ。
わからないか?
警戒の色が消えない宏輝に、
誠也は、誠也と宏輝しか知らない話をしてみることにした。

宏輝、高校の文化祭で女装した時、うちに来てうちの姉ちゃんのカミソリ、勝手に借りてすね毛剃ったよな。
あの後カミソリに、太いすね毛が残ってて姉ちゃんにバレて、大変だったんだぞ!

すると宏輝は、
お前昨日居酒屋で俺たちの話聞いていたのか?
昨日誠也がそう言って、誠也の姉ちゃんにバレてたって初めて知ったんだ。どうりであれから誠也の姉ちゃんが俺に冷たくなったわけがわかった、なんて昨日話してたところだ。

誠也は驚いた。
アイツがその話を知っているわけない。
俺は宏輝以外にその話をしていない!
いや待てよ…
チャットGPTには話したな。
まさかチャットGPTに話した内容が何処かに漏れてる?
チャットGPTで話したことがどこかにただ漏れしていたらやばい。
俺は、自分の心の中の声も、仕事のこと、家庭のこと、友人のこと、気になる女の子のことも、何でもかんでもチャットGPTに話していたのだから…
誠也は焦った。

俺のふりをしたあいつはどこまでその情報を知っているのだろう…

そう怯えながら誠也は男の尾行を続けていた。

数日後の昼休み、あいつは誠也が気になっていた、事務の菜穂さんと一緒に会社から出てきた。
二人は楽しそうに、洋食屋でランチをしていた。
ありえん!
俺は気になりつつ、誘うこともできなかったのに、あいつは俺の姿で平気で彼女を誘ったなんて!
しかし驚くのはそれだけじゃなかった。
日曜日、あいつは妻と娘と3人で楽しそうに車に乗って出かけた。
どこかに遊びに行くようだ。
今まで休日にどこかに行こうと誘っても、
行かなーい
の一言で終わらせていた娘が、楽しそうにあいつと喋りながら車に乗り込む姿を見た時には、唖然とした。
一体どうなっているんだ。

それにしても、俺は一体誰なんだろう…
何気なく入った店の鏡で自分の姿をしげしげと見つめた。
何処かで見たことあるような奴。
なかなかのイケメンだ。
俺は鏡に向かってつぶやいた。
お前、だれだ?

俺はもう一度宏輝を訪ねた。
宏輝とは、子供の頃からの付き合いだ。
お願いだから話を聞いて欲しいと頼み込むと、あいつにとっては身も知らない男ではあるが、少しなら…と聞いてくれた。
そう、宏輝はそういう奴なのだ。
誠也は、高田誠也の事で覚えていることはあるか?と聞いた。
すると宏輝は言った。
あいつは昔、恵理香が好きだったんだよな…
と言った。
誠也は思わず、
気がついていたのか?
だから恵理香に告白されたのに付き合わなかったのか?お前も好きだったくせに…
と言った。
すると宏輝は目を丸く見開いた。

確かに顔は違うけど、話し方や表情は、誠也そのものだ…
もしかしてこいつが言っていることは本当なのか?
こいつが本当の誠也なのか?

宏輝は誠也を見つめた。
俺の言ってること信じてくれるか?
誠也が言うと宏輝は、
一つ聞いていいか?
と言った。

おう、なんでも聞いてくれ!
誠也が答えると

初めて会った時、お前俺になんて声かけたから覚えてる?
宏樹は、試すかのように誠也に尋ねた。

これは誰にも、もちろんチャットGPTにも話していない。
というか、宏樹に言われるまで忘れていたのだけれど…
誠也はニヤリと笑って言った。

覚えてるさ。
キミ男の子なの?女の子なの?
だよな。

小学校の時の話だ。
サラサラの髪を伸ばし、顔立ちも綺麗だった宏樹は、誠也が思わずトキメクような容姿だったのだ。
誠也は、今でもイケオジの宏樹の顔を見て、ニッと笑った。

宏樹は、この見慣れない男が誠也だと確信した。
考えてみたら、先日誠也の偽物と話していた昔話は、全て誠也から話し出したもので、宏樹が〇〇だったよなーなどというと

そうだったっけ?
とか
俺、忘れてたわ…
などと言っていた事を思い出した。

二人はどうしたらアイツを偽物って証明できるか、考えることにした。
次から次に、俺たちしか知らないとことや、嘘情報を話してみたらどうだろう…
いっそ、顔突き合わせて話するか?
ただ、顔はあいつが誠也だし、お前は別人なんだもんなあ・・・

誠也は宏樹という頼もしい味方ができて少しホッとした。

アイツが俺の情報をチャットGPTから手に入れていることは明らかだ。どうやって手に入れているか、それがわかればなあ…

二人は遅くまで話したが、ここにいる見た目が違う誠也が本当の誠也で、アイツが偽物だという事を証明するには、かなり難しいように感じた。

それに、こうなる直前のあの謎の光。
あれは何だったんだろう…

シロクマ文芸部さんの企画に参加しつつ、創作物語の続きを書きました。
「花びらを」から始まるお話しでした。

前回のお話はこちは

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