映画レビュー:『ブゴニア Bugonia』~女王陛下の言葉責め
多分本作は、前作『憐れみの三章』の興行的失敗で金に困っていたランティモスのところに持ち込まれたプログラム・ピクチャーだったのではないだろうか。自らハリウッドリメイクするはずだった『地球を守れ!』なるSF映画の韓国人監督が健康上の理由で降板、代役として白羽の矢がたったのがこのヨルゴス・ランティモスだったらしいのだ。コロナ禍でロックダウン状態にあった時期にたった3週間でランティモス自身が書き上げたシナリオだけあって、捻りもなにもない想定内のSFに終わっている。
同時期に同じような陰謀論を扱った作品『エディントンへようこそ』を撮っていたアリ・アスターが、お情けでランティスモスに譲ってあげた映画なのかもしれない。エマ・ストーンとジェシー・プレモンスというランティモス組の2大俳優が顔を揃えているものの、後の脇役人はエキストラに毛の生えた?程度の素人ばかりで、キャスティングにも全く魅力を感じない。劇中エマ・ストーン演じるCEOが語る“アトランティス文明の滅亡”についても、SNSをちょっとのぞけばだれだってにわか博士になれるぐらいの情報が溢れていて、特段目新しくもなんともないのである。
タイトルの『ブゴニア』は“腐敗した牛の屍から産まれたミツバチ”の意味らしいが、多様性の推進や働き方改革で腐敗した企業から派生した“(陰謀論なんかにかぶれて)すっかりサボリぐせがついてしまったアメリカ人”のメタファーではないだろうか。遺伝子組み換えのための人体実験(コロナワクチン?)をしている医者がいるなんて陰謀論もロバート・ケネディJr.なんかが現在盛んに吹聴しているもはや“事実”であり、働きバチだけが大量に姿を消しているCCD現象についても、ネオニコチノイド系農薬や地球温暖化が原因という人が沢山いて、生前のアインシュタイン博士も「ミツバチが絶滅すると人類は4年で滅亡する」なんて予言までかましてくれているものだから、今さら映画で見聞きしてもさして驚かないのである。
何を言いたいのかというと、流行り廃れのはやい“陰謀論”は映画のテーマとしてあまり相応しくないと思うのである。面白そうな都市伝説を聞いたらAIで速攻動画作成&編集してそれこそ“秒”でアップロードしないと、誰もチャンネル登録や👍️をクリックしてくれない気がするからである。個人的には、宇宙から観察している神々がどのように“人類をリセット”するのかに興味があったのだが、ランティスモスが我々に提示した“終末”はあまりにもありきたりで、正直肩透かしをくらった感が否めない。映画の中で、一番欲にまみれて地球の生態系を破壊していたのはエマ・ストーン演じるCEOだったような気がしますしね…エンドロールで流れる嵐の音、アトランティスを滅ぼしたと伝えられる大洪水を連想させますが、今回ばかりは人間を乗せる方舟が不要だったのかもしれませんね。
「いかにも、まず初めにカオス(=ブゴニア?)が生じた。次いで、永遠に揺るぎなき座なる、胸広き大地(ガイア)が生じ、……そして不死なる神々の中でも最も美しいエロスが生じた」

