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#1 OpenEvidence──「医師の入口」を押さえたAI企業

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〜8月29日 03:00

企業プロフィール

溝口調べ

1. どんな会社なのか?

OpenEvidenceを一言で表現するなら、「医療版ChatGPT」ではなく、「医師が診療中に最初に開く情報インフラ」を目指す企業だと捉えています。
一見すると、医師向けのAI検索サービスに見えますが、OpenEvidenceが解決しようとしている課題は「検索」そのものではありません。
医師は日々の診療のなかで、限られた時間の中で数多くの意思決定を迫られています。

例えば、
1)この患者にはどの治療が第一選択なのか?
2)最新の診療ガイドラインでは推奨が変わっていないか?
3)腎機能が低下している患者では投与量をどう調整すべきか?

こうした疑問に対して、これまではPubMedで論文を検索したり、UpToDateやDynaMedなどの臨床支援ツールで情報を確認したりしながら、自ら根拠を組み立てて判断していました。
OpenEvidenceは、この情報収集から根拠整理までのプロセスをAIによって大幅に効率化することを目指しています。
医師が自然言語で質問すると、AIが査読付き医学論文や診療ガイドラインなどを横断的に参照し、要点を整理した回答と、その根拠となる文献を提示します。

ここで重要なのは、単に「答え」を返すサービスではないという点です。
医療では、「AIがそう回答した」というだけでは臨床判断の根拠にはなりません。最終的な判断と責任は医師にあります。
そのためOpenEvidenceは、回答だけではなく引用論文やガイドラインを提示し、医師自身が根拠を確認できる設計を採用しています。生成AIの利便性と、エビデンスに基づく医療(EBM)の考え方を両立しようとしている点が、このサービスの大きな特徴です。

OpenEvidenceのイメージイラスト

さらに特徴的なのは、利用対象を医師に限定していることです。
OpenEvidenceは「誰でも使えるAI」を目指していません。医師資格の確認を経た利用者を対象とすることで、専門知識を前提とした回答設計や、臨床現場に特化したユーザー体験を実現しています。
市場を広げるのではなく、あえて利用者を絞り込むことで、診療現場に深く入り込む戦略を選択したのです。
つまりOpenEvidenceが提供しているのは、AIチャットではありません。
医師が安心して利用できる「エビデンスアクセス基盤」なのです。


2. 市場環境

OpenEvidenceが創業したのは2022年です。
私は2021年を「熱狂の2021年」と呼んでいます。
新型コロナウイルス感染症を契機に、世界中の投資マネーがデジタルヘルスへ一斉に流れ込み、「デジタルヘルスなら何でも成長する」という空気が生まれた一年です。
これは私が便宜的に使っている言葉ですが、2021年は世界中でデジタルヘルスへの投資が過熱した特異な一年でした。
新型コロナウイルス感染症の世界的流行を契機に、オンライン診療、遠隔モニタリング、デジタル治療(DTx)、医療AIなど、あらゆるデジタルヘルス分野へ巨額の資金が流入しました。
この時期には、多くの企業が短期間で大型資金調達を実現し、企業価値も急騰しました。一方で、その熱狂は長く続かず、2022年に入ると金利上昇や景気減速の影響もあり、世界のデジタルヘルス投資は急速に冷え込みます。

つまり、OpenEvidenceは市場が最も熱狂していた時期ではなく、その熱狂が終わり始めたタイミングで誕生した企業なのです。
これは非常に興味深い点です。
2021年に資金を集めた企業の多くは、「オンライン診療をどう広げるか」「患者をどう増やすか」といった医療サービスそのもののデジタル化に取り組んでいました。

一方、OpenEvidenceが着目したのは、医療サービスではなく、医師の意思決定を支える情報基盤でした。
この違いは非常に大きいと考えています。
OpenEvidenceが急成長した背景を、「生成AIブームだから」と説明するのは不十分です。より本質的な要因は、医師が処理できる情報量を、医学知識の増加が完全に上回った事にあります。
近年、医学論文や診療ガイドラインは急速なペースで増加しており、医師がすべてを把握し続けることは現実的ではありません。さらに、新たな知見が臨床現場へ浸透するまでには長い時間がかかることも以前から課題とされてきました。

つまり、現代の医療現場で不足しているのは「情報」ではありません。
情報を、診療の意思決定に使える形へ変換する仕組みなのです。

一方で、医療現場では診療時間の短縮や業務負担の増加が続いています。
外来では一人の患者に十分な時間を割くことが難しく、その場で複数の論文やガイドラインを検索・比較する余裕は限られています。
医師が本当に求めているのは、大量の論文ではありません。

「この患者に対して、今必要な根拠は何か」を短時間で把握できることです。
OpenEvidenceは、膨大な医学情報を検索するサービスではなく、その情報を臨床判断に活用できる形へ再構成するサービスとして価値を提供しています。
そのため、競合も一般的にイメージされるChatGPTではありません。

OpenEvidenceが真正面から競争しているのは、

UpToDate
DynaMed
PubMed
Epocrates

といった、医師が日常診療で利用してきた情報サービスです。
これらは「検索して情報を探す」ことを前提としたサービスですが、OpenEvidenceは「質問すると必要な根拠が整理されて返ってくる」という体験を提供しています。

これは単なる検索機能の高度化ではありません。
「情報検索」から「意思決定支援」への転換であり、医師が医学知識へアクセスする方法そのものを変えようとする試みといえます。
さらに興味深いのは、OpenEvidenceがAI企業であると同時に、「医療情報の流通構造」を再設計しようとしている点です。
これまで医師は、自ら情報を探し、読み、整理し、判断していました。OpenEvidenceは、その一連のプロセスをAIによって支援し、必要な知識へ最短距離で到達できる環境を構築しようとしています。

もしこのモデルが定着すれば、競争の焦点はAIモデルの性能だけではなく、「医師が日常診療で最初に利用する情報プラットフォームを誰が握るのか」という点へ移っていくと思われます。
つまり、その先駆けの企業の一つと言えます。

解決できていなかった領域への切込み

そして、生成AIブームがOpenEvidenceを成長させたのではありません。
むしろ、医師が処理できる情報量の限界という構造的な課題が先にあり、その解決手段として生成AIが最適な技術だったのです。
OpenEvidenceは、AIの会社というより、「医学知識の流通を再設計する会社」と捉えた方が、その本質を理解しやすいでしょう。

3. ビジネスモデル

OpenEvidenceのビジネスモデルは、一見すると矛盾しています。
医師は無料で利用できます。病院も契約する必要がありません。それにもかかわらず、OpenEvidenceは創業からわずか数年で急成長し、2026年には企業価値120億ドルに到達しました。

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