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【日本の医療】どうして、自治体病院の9割が赤字なの?

それは本当に「当然なの?」

日本では「自治体病院は赤字が当たり前」という認識が、もはや常識のように語られます。
報道も行政の説明も、「それは制度設計上の必然であり、むしろ地域医療を守るための証拠だ」というトーンでほぼ統一されています。
このため、多くの人は「赤字=悪」という感覚を持たず、むしろ赤字であることが『地域貢献の証』だと受け止めている節があります。

しかし、これはあくまで日本国内の常識です。
海外に目を向けると、赤字を「使命の結果」として容認し続ける国は少数派で、短期的な補填はあっても恒常化を許さない仕組みが一般的です。
言い換えれば、「赤字は当然」という感覚は、日本独特のローカルルールなのです。

では、日本の自治体病院は今、どれほど赤字なのか。
2024年度の全国調査によれば、自治体病院1,143施設のうち、経常赤字が86%、医業赤字が95%という過去最悪の結果が出ました。
とくに救命救急やへき地医療を担う拠点病院では赤字率が90%超。
医業赤字額は前年度の5,019億円から6,257億円へ増加し、経常赤字額も1,879億円から3,633億円へ倍増しています(出典:全国自治体病院協議会「2024年度経営状況調査」)。

多くの報道や関係者は、この状況を「制度設計上の必然」と位置づけ、むしろ赤字は地域医療を守るための証拠だと説明します。
しかし、この『赤字容認論』には、冷静に検証すべきポイントがある、と考えます。


「海外でも公立病院は赤字」は本当か

肯定派は「海外でも公立病院は赤字補填が前提」とよく言います。
たしかに、フランスやカナダでも地方公立病院が赤字に陥ることは珍しくありません。
しかし、ここで重要なのは「赤字が出た後の扱い方」です。
日本は赤字が恒常化しても、毎年の自治体補填で運営を続けられる仕組みになっていますが、海外では多くの場合、赤字を『放置すること』は制度的に許されません

海外医療制度勉強会「自治体病院の経営」より

こうして見ると、海外の「赤字容認」は『短期的な再建期間』を前提とした暫定措置であり、恒常的に補填し続ける国は少数派です。
したがって「海外でも赤字は普通」という説明は、事実の半分にすぎません。
むしろ日本のような『赤字維持+補填継続モデル』は、財政規律の観点から見れば例外的で、国際的に見ると異質な運用だと言えます。

※他国の自治体病院(に準じた病院を含む)の赤字の対応策

①イギリス(NHS)でも、赤字計上は一時的には許容されますが、改善計画が義務化され、長期赤字は組織再編や統合の対象となります。

②ドイツでは自治体が運営する病院は多いものの、恒常的赤字は州政府や自治体議会で厳しく審議され、運営形態の変更や民間移譲が行われる例もあります。

③フランスの場合
病院が赤字を計上すると、地域保健局(ARS)が「赤字削減計画(Plan de retour à l'équilibre)」の策定を義務化します。計画期間は通常3年以内。財務・人員・診療体制の見直しを伴い、達成できなければ病院再編や経営陣交代が行われます。補填は「一時的な再建支援金」として交付され、恒常的補填ではありません。

④カナダの場合
州政府が包括予算制(global budget)で運営資金を配分。
原則として赤字計上は許されず、万一赤字が出れば翌年度の予算から即時調整されます。継続赤字は「経営能力不足」とされ、管理体制の変更や機能縮小が検討されます。


「使命があるから赤字で当然」という免罪符

自治体病院には、民間が担わない領域を守る公共的使命があります。
たとえば・・・

①僻地や離島の救急医療:民間病院が採算面で撤退する地域でも24時間救急を維持
②災害拠点機能:耐震構造、非常電源、感染症病床、ヘリポートなどを平時から維持
③不採算診療科の存続:産科、小児科、精神科など、収益が見込みにくいが地域に不可欠な診療科

これらはいずれも、地域住民の安全と生活を守るために不可欠な機能です。採算度外視にならざるを得ないこと自体は理解できます。
しかし、この説明が「赤字でも構わない」という恒常的容認に変質すると、深刻な副作用が出ます。

❶経営改善の優先順位が下がる
赤字は使命の証だから…と考えることで、コスト削減や業務効率化の取り組みが後回しになりやすい。まぁ、使命の証とか考えている人は議員センセイくらいなもので、現場の医療スタッフはいませんが。

❷構造改革の政治的抵抗が強まる
病床削減や診療再編を議論すると、「地域医療を削るのか」という感情論で反発されやすい。結果として現場の負担だけが増す。
これもだいたい議員センセイ由来。こいつらの歳費を赤字分削ればいいんじゃないかと思ったりします。

❸財政負担の自覚が薄れる
赤字補填が一般会計から行われるため、住民も職員も実際の負担感を感じにくい。これが改革インセンティブを弱める。さすがに最近は、これじゃよくない、と思っている自治体も増えてきているようです。
まぁ、首長や議員センセイが他人の金と自分の金の違いが分からないような人を選出している自治体は除きますが。

本来であれば、公共的使命を果たしつつ、同等のサービスをより低コストで提供する工夫が必要です。たとえば、隣接自治体との設備共同利用や遠隔診療の活用などは、赤字幅を縮めながら使命を維持する可能性があります。
ところが「赤字で当然」という前提を置くと、こうした改善策は「やらなくても許されるもの」になりがちです。
その結果、改善の機会が制度的にも心理的にも失われるのです。

言い換えれば、この免罪符は短期的には安心感を与えますが、長期的に病院の持続可能性をむしばむ『甘い毒』になり得ます。(自治体病院の院長が頑張っていない、という意味ではなく、構造的に赤字である部分の原因に手を突っ込めないのが問題と考えています)

公共性と経営改善は相反するものではありません。
むしろ両立させなければ、将来は使命そのものが果たせなくなるリスクがあります。


なぜこの問題が放置されやすいのか?

自治体病院の赤字は、制度の構造・政治の力学・地域心理の三つが絡み合って恒常化しています。

1. 負担の不可視化

赤字は自治体の一般会計からの繰入金で補填されます。
このため、財源は住民の税金であるにもかかわらず、住民は「どれだけ負担しているのか」を直接意識しにくい構造になっています。
国保料や診療費のように請求書で目にするわけではなく、自治体予算書の一行に吸収されるため、政治的な緊張感が薄れています。

2. 経営責任の不明確さ

赤字が続いても、経営陣や運営体制が大きく変わるケースは稀です。
議会や首長が「地域医療維持」を最優先に掲げるため、業績不振を理由とした人事刷新が政治的に難しいです。そもそもスタッフが公務員なので、不要なスタッフも雇い続けているなど、人件費膨れが自治体病院の赤字の原因になっていますが、公務員は解雇できないというのを前面に押し出し、結果として、「赤字でも続けられる」安全圏が形成されます。

3. 公共性を盾にした議論封じ

財政規律や効率化の話を持ち出すと、「それは地域医療を削るのか」「命よりお金が大事なのか」といった反論が出やすく、議論が感情論に流れます。
この『公共性バリア』が改革の着手を遅らせ、改善案を机上で終わらせてしまうのです。金も命も大事だよ、と言えばいいのに。

こうした構造は、政治的にも制度的にも「現状維持バイアス」を強めます。住民は負担を実感せず、経営責任は曖昧になり、改革論議は公共性の名の下に封じられる。
結果、自治体病院の赤字は「直さなくても回る仕組み」として温存され、問題が恒常化しているのが現状と言えるのではないかと思います。


私の結論

自治体病院の赤字は、制度的な背景や公共的使命から完全にはなくならないでしょう。しかし、「赤字は使命の証」という説明に依存する限り、改善は進まないと考えます。
海外の多くの国は、「赤字は一時的に許すが、必ず立て直す」というルールを持っています。日本の「赤字放置型モデル」は、長期的に財政と地域医療の両方をむしばむ可能性があります。実際それで、地方医療がけっこうピンチになっている実態があるかと思います。

ここで、特にお伝えしたいのは現場の医療者の役割です。

経営は経営陣だけの責任と思われがちですが、診療プロセスの効率化、不要業務の見直し、チーム医療の最適化などは日々の現場判断からしか変わりません。
「経営改善=コストカット」ではなく、「持続可能な形で使命を果たすための再設計」なのです。

もし現場が「赤字だからこそ価値がある」という言葉をそのまま受け入れ続ければ、それは未来の仲間や地域にツケを回すことになります。(そもそも赤字でよい、と考えている医療者はいないと思っています)
今の医療者世代が、「公共性と経営改善の両立は可能だ」という実例をつくり出さなければ、次の世代はより厳しい条件で地域医療を担わざるを得なくなります。
赤字を前提にするのではなく、赤字を縮小するための期限・計画・責任を現場と経営が共有する。それがあって初めて、使命を持続的に果たせる体制が整うと、私は考えます。

医療者の手で地域医療を未来につなぐために、使命の名を借りた「赤字容認」に安住する時代は、もうそろそろ終わらせるべきと考えます。

自治体病院の使命を守るには、赤字に甘えない勇気がいる。

民明書房「自治体病院は誰がためにある」より

なお、今回の記事では主に日本の自治体病院の構造と課題を取り上げましたが、今後は海外の自治体病院の事例紹介もシリーズとして取り上げる予定です。
フランス、カナダ、イギリス、ドイツなど、それぞれの国が赤字発生後にどのようなルールと手段で立て直しを図っているのかを具体的に掘り下げていきたいと思います。
日本の常識を外から照らすことで、より現実的で持続可能な地域医療のあり方を考えていきたいと思います。

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