怒鳴る上司が突然おとなしくなった理由――看護師が学んだブリーフセラピーという考え方
職場に、突然大きな声で怒鳴ってくる上司がいました。
電話でも対面でも、スイッチが入ると罵倒が始まります。その人の機嫌をいつも気にしながら、小さな声で「すみません」と謝り続けていた方がいました。
そんな日常を変えたのは、ある一つの気づきでした。
「ごめんなさい!」と大きな声ではっきり言ったとき、上司は「いや、そういうわけじゃなくて……大丈夫、もう大丈夫」と後ずさりしたそうです。
これは実話です。先日私が受講したブリーフセラピーの研修で紹介された事例なんです。
ブリーフセラピーとは何か
ブリーフセラピーとは、問題を短期間で解決することを目指すセラピーの一種です。数ある心理療法の中でも「指示型セラピー」と呼ばれていて、原因を深掘りするよりも「これからどうするか」に焦点を当てていきます。
研修はグループワーク中心のディスカッション形式で進みました。最初にこんな問いかけから始まったんです。
「クライアントがカウンセリングに求めるものは何だろう?」
参加者それぞれが考えを出し合った結果、答えは3つに集約されました。
❶ 聴いてほしい
❷ わかってほしい
❸ 助けてほしい
ブリーフセラピーが特に注目するのは❸の「助けてほしい」です。ここを中心に、短期間で問題解決を目指していきます。長期間にわたって過去を掘り下げるのではなく、今ここから未来に向けて何ができるかを一緒に考えていくんです。
最初は理解できなかった「3つの柱」
ブリーフセラピーには、核となる3つの考え方があります。
❶ 悪者はいない
❷ 問題などない
❸ 変化は常に起きている
正直に言うと、最初は全く理解できませんでした。
「悪者はいない? 問題などない? どういうこと?」
誰だってそう思いますよね。職場でひどい目にあっているとき、「悪者はいない」と言われたら反発したくなります。「問題などない」と言われたら、自分の苦しみを否定されているように感じるかもしれません。
でも、研修を進めるうちに少しずつわかってきました。
この考え方の本質は「問題と解決は別物」だということなんです。
何が悪いのか、誰のせいなのかを追いかけても、問題はなかなか解決しません。それよりも「明日をどう作っていくか」に集中する。これがブリーフセラピーの核心にある思考法、SFA(ソリューション・フォーカスト・アプローチ)です。
「問題と解決は別物」という発想
人が「これは問題だ」と感じるのは、同じことが何度も繰り返されたときだと言われています。
一度だけ起きたことは「問題」とは認識しにくいものです。でも同じパターンが繰り返されると「これは問題だ」と感じるようになりますよね。
これはとても重要な視点だと思いました。
なぜなら、問題は「出来事そのもの」ではなく「繰り返されるパターン」の中にあるからです。そしてパターンは変えられます。そこに希望があると感じました。
冒頭の事例に戻りましょう
職場で突然怒鳴ってくる上司。電話でも対面でも、スイッチが入ると大きな声で罵倒してくる。その方はずっと、小さな声で「すみません」と謝り続けていました。
これがまさに「悪循環のパターン」です。
怒鳴る→小さな声で謝る→また怒鳴る→また謝る。
このパターンが繰り返されることで、上司の行動はむしろ強化されていた可能性があります。「この人は怒鳴れば謝る」というパターンが成立してしまっていたんですね。
ブリーフセラピーを学んだその方は、対応を変えました。
怒鳴られたとき、大きな声ではっきりと「ごめんなさい!」と言ったんです。
すると上司は「いや、そういうわけじゃなくて……大丈夫、もう大丈夫」と後ずさりしたそうです。
その後もう一度同じような場面があり、また大きな声で「ごめんなさい!」と返しました。それ以来、その上司は二度と同じような態度をとらなくなったということでした。
悪循環のパターンを変える3つの方法
ブリーフセラピーでは、うまくいかないやりとりには必ずパターンがあると考えます。そしてその悪循環のパターンを変える方法として、3つを提示しています。
① 壊す
今まで返したことのない返事をすることです。冒頭の事例がまさにこれですね。小さな声で謝り続けてきた人が、大きな声ではっきり「ごめんなさい!」と言いました。これは相手の予想を完全に裏切る行動です。
相手は「こう来たらこう返ってくる」というパターンの中で行動しています。そのパターンを「壊す」ことで、悪循環が断ち切られていくんです。
② 逃げる
途中で席を立つ、話題をずらす、その場から離れることです。戦わずにその場のパターンから「逃げる」ことも、とても有効な方法です。
逃げることは弱さではありません。悪循環に乗らないための、立派な選択です。
③ 予防する
とらえ方を変えることです。悪循環が発生する前に、自分の認知を変えることで問題を予防します。「あの人がああいう行動をするのは、〇〇だからかもしれない」と視点を変えるだけで、自分の反応が変わります。自分の反応が変われば、相手の行動も少しずつ変わっていきます。
看護師としてこの考え方が刺さった理由
私は看護師として、患者さんや職場での人間関係に悩む場面をたくさん見てきました。
頑張っているのに報われない、伝えても伝わらない、関係がなかなか改善しない。そんんつもりじゃないのに、なぜか誤解される。そういった苦しさを抱えている方は本当に多いです。
そのとき多くの人がやりがちなのが「なぜこうなったのか」という原因探しです。相手のせい、環境のせい、自分のせい。原因を探すことで、何かわかった気になります。でも問題はなかなか解決しないことが多いんですよね。
ブリーフセラピーの「問題と解決は別物」という視点は、この原因探しのループから抜け出すための、強力な考え方だと感じました。
原因がわからなくてもいいんです。誰が悪いかを特定しなくてもいい。「今のパターンを変えること」だけに集中する。それだけでいいんです。
今日から使える問いかけ
ブリーフセラピーでよく使われる問いかけがあります。
「もし明日、今の問題が少しだけ改善されているとしたら、何が違っているでしょうか?」
この問いの力はすごいと感じました。「なぜこうなったのか」ではなく「どうなっていたらいいのか」に意識が向きます。そして「そのためには何を変えればいいか」という思考が自然と生まれてくるんです。
人間関係で悩んでいるとき、ぜひ一度この問いを自分に投げかけてみてください。答えはすぐに出なくてもいいです。問いを持つだけで、少しずつ見え方が変わってきますよ。
最後に
ブリーフセラピーは「魔法」ではありません。すべての問題が一瞬で解決するわけでもないです。
でも、この考え方を知っているだけで「見方」が変わります。見方が変われば、自分の行動が変わります。行動が変われば、相手の反応が変わっていきます。
悪者はいない。問題などない。変化は常に起きている。
最初は反発したこの3つの言葉が、今は私の中でじわじわと意味を持ち始めています。
人間関係に疲れているあなたへ。今のパターンを「壊す」ことを、一つだけ試してみてくださいね。きっと何かが変わるはずです。
看護師・ふじいみゆき(みゆっきぃ)
特定行為看護師|糖尿病・血糖値専門 毎月1回「まちの保健室」開催中(奈良市北部会館) 📻 毎日スタンドFMで音声配信中 📲 Instagram @yurukatsu.life 👇 各種リンク https://lit.link/communityNS3704
