ラベンダー畑、帰る場所。¦第0巻
🪻 あらすじ 🪻
ある日。
家の窓辺で外を眺めていた小さな黒猫は、
たまたま通り掛かった
一匹のゴールデンレトリバーと出会います。
窓越しに少しずつ言葉を交わし、
少しずつ心を通わせていく二匹。
そんなある日。
犬は猫を、
お気に入りのラベンダー畑へ誘いました。
花の香りに包まれながら、
笑って、話して、時を重ねる毎日。
その穏やかな日々を、
一匹の小さな蜂がそっと見守ります。
優しさとは何か。
本当の自由とは何か。
出会いを重ねながら、
それぞれが自分だけの
「帰る場所」を見つけていく、
やさしく静かなファンタジー。
🪻第0巻『かごの中の猫』

ある町に、
一匹の猫がいました。
首にはきれいな首輪。
あたたかいお家。
毎日ごはんもあります。
みんなは言いました。
「幸せそうな猫だね。」
でも、
猫は知っていました。
幸せそうに見えても、
誰にも見えない悲しみがあることを。
大きな声が聞こえるたび、
猫の体は小さく震えました。
足音が近づくたび、
息をひそめます。
笑うことも、
泣くことも、
少しずつ忘れてしまいました。
猫が好きだったのは、
窓のそばでした。
そこだけは、
空が見えました。
風が吹いていました。
鳥が飛んでいました。
外の世界は、
いつも自由そうでした。

ある日。
窓の向こうを、
一匹のゴールデンレトリバーが歩いていました。
楽しそうに歩いて、
花を見つけると立ち止まり、
嬉しそうに笑っています。
「……変な犬。」
猫は小さくつぶやきました。
次の日も。
また次の日も。
同じ時間になると、
ゴールデンレトリバーは歩いてきます。
誰かと話して笑ったり、
風を感じて立ち止まったり。
何気ない毎日を、
楽しそうに過ごしていました。
猫はいつの間にか、
その時間を待つようになっていました。
ある日。
ゴールデンレトリバーは、
窓辺の猫に気付きます。
目が合いました。
ゴールデンレトリバーは、
にっこり笑って、
小さく頭を下げました。
猫は慌てて隠れます。
でも、
次の日も、
また窓辺へ行きました。
それから毎日、
目が合うたび、
ゴールデンレトリバーは笑いました。
何も言いません。
ただ、
「こんにちは。」
そんな笑顔でした。
猫は思います。
「……変な犬。」
でも、
少しだけ、
その笑顔が好きになりました。

ある春の日。
ゴールデンレトリバーは、
きれいな花を見つけました。
窓辺の猫へ見せるように、
嬉しそうに掲げます。
「見て。」
そう言っているみたいでした。
猫は思わず笑います。
「あはは。」
その笑顔は、
ずっと忘れていた笑顔でした。

でも、
夜になると、
また悲しい時間がやってきます。
猫は小さく丸くなり、
窓を見上げました。
「また会いたいな。」
その一言だけが、
心に残りました。
ある雨の日。
扉が少しだけ開いていました。
猫は立ち止まります。
怖い。
震える。
外へ出たら、
もう戻れないかもしれない。
でも、
頭に浮かんだのは、
あのゴールデンレトリバーの笑顔でした。
「もう一度、
会いたい。」
その想いが、
猫の背中を、
そっと押しました。
犬はいつも、
森へ向かっていました。
だから猫は、
「あの子は、いつも森の方から来ていた。」
と、覚えていました。
だから、森へ。
一歩。
また一歩。
雨に濡れながら、
猫は歩きます。
寒い。
怖い。
それでも、
自分の足で歩いていました。

朝になりました。
森の近くまで来た猫は、
一匹のゴールデンレトリバーを見つけます。
いつもの笑顔。
いつもの優しい目。
猫は少し照れながら、
小さくつぶやきました。
「……なんだお前。」
ゴールデンレトリバーは、
少しだけ笑って、
「こんにちは。」
と頭を下げました。
こうして、
猫の新しい人生が、
静かに始まったのでした。

──ページをめくるように。
🪻 第1巻『ラベンダー畑』
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