シリアを席巻するアルカイダ勢力 ―過去から何も学ばない欧米の指導者たち
「過去はいつか未来だった。そして未来はいつか過去になる」
これは「ペルシャ文学の父」「詩人のなかの帝王」と言われる詩人ルーダキー (858~940年頃)を主人公にした歴史小説『パンジルードへの帰還』からのフレーズで、作者はタジキスタン出身のロシア語作家アンドレイ・ヴォロスだった。
ルーダキー(?~940)は次のような詩を残しているが、歴史を知ること、知識を深めることこそ地上における正義を実現する方途であることを教えている。
過去から何も学ばない者は、
師からも学ぶことはない
現世に人々が溢れる限り
これらの人々は全て知識を必要としている
知とは心を照らす灯りであり
あなたを全ての悪から守ってくれる

プーチン大統領のロシアは、2015年9月からシリアに軍事介入してアサド体制を支えてきたが、アルカイダ系のタハリール・アル=シャーム(HTS:レバント解放評議会)が11月30日までにシリア北部のアレッポやハマの大部分を奪取した。その勢いは2021年夏、ガニ政権を崩壊に導いたアフガニスタンのタリバンを彷彿させるものがあり、ウクライナでの一進一退の戦いがロシアの中東での影響力を低下させ、1980年代末にソ連軍がアフガニスタンの共産党政権を見捨てて撤退したように、ロシアがアサド政権を放棄するかもしれないような事態になっている。

ロシアやイランが訓練したシリア・アラブ軍(アサド体制の軍隊)が脆弱だったのは米国が訓練したイラク国軍やアフガニスタン国軍と同様で、特にアフガニスタン国軍はタリバンにあっという間に呑み込まれ、21年8月のタリバンのカブール進攻にほとんど抵抗することもなかった。大国の軍事介入や、大国の傀儡となる軍隊は脆弱で、現地住民からの支持を得ることもなく、決して成功しないことをシリア・アラブ軍がまたしても示している。

HTSを支援してきたトルコのエルドアン大統領はシリア国内での新たな展開を喜んでいることだろう。エルドアン大統領はHTSやムスリム同胞団のような組織を支援してきたが、アサド政権が崩壊すれば、トルコ国内に居住する400万人のシリア難民もシリアに帰還してくれるものと考えている。トルコ国内のシリア難民たちはアサド政権の弾圧から逃れてきた人たちが多いからだ。HTSの現在の目的はアサド政権を打倒し、シリアにイスラム国家を成立させることだが、従来イスラエルが敵視してきたアサド政権や、アサド政権を軍事的に支えてきたイラン革命防衛隊やヒズボラの影響力がシリアで低下することは、米国やイスラエルにとっては歓迎すべきことだろう。

しかし、イスラムに強く訴える勢力がイスラムの聖地でもあるエルサレムを占領したり、おびただしい数のムスリムを殺害したりしたイスラエルと良好な関係を結ぶことなどあり得ないし、イスラエルを支援する米国にも良好な感情をもっていない。HTSの政権がシリアに成立すれば、やはりイスラエルにとっては安全保障上の脅威となるだろう。

HTSの前身は「ヌスラ戦線」という武装集団だったが、ヌスラ戦線は2014年7月から8月にかけてスラエルがガザを攻撃し、2000人以上の人々を殺害する事態になると、彼らが支配していたダマスカスの地区で激しい抗議の行進を行った。目下のところ、米国もイスラエルもロシアと同盟するアサド政権と戦うHTSの動きを歓迎している。しかし、1980年代に米国はソ連軍と戦うアラブ義勇兵たちに大量の武器・弾薬を供給し、さらに訓練を施していたが、彼らは後に911の同時多発テロを起こし、米国やイスラエルに対して牙を剥くアルカイダに変貌していった。米国やイスラエルはシリアのアサド体制の崩壊を喜ぶかもれないが、その後の中東情勢はさらなる流動化、混乱状態になるような気がしてならない。歴史をすぐ忘れてしまう米国もイスラエルもルーダキーの教訓とは真逆の正義の実現とはほど遠いことを行っている。

