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落とし物|片想い文芸部

『落とし物を探してるんですけど』

『はいはい、それはどんなものですか?』

『想い出なんです』

『想い出?』

『大切に胸の奥にしまっておいたはずなのに、いつの間にかなくなってるんです』

『じゃあどこで落としたかも分からない?』

『それが分かってたらもう拾ってますよ』

『どんな想い出なんです?』

『片想いの彼女とのほんの少しだけの想い出なんです』

『それは探さないといけませんね』

『ここには届いてないんですね』

『ここは形あるものがほとんどなんですよ』

『形あるもの?』

『その片想いの彼女さんに恋文でも出されていたら、届いているかもしれません』

『そういうことなんですね』

『届いているか探してみましょうか?』

『いいえ、恋文を認めたことはありませんから』

『そうですか。それではここにはないかもしれませんね』

『どこに行けば見つかるのかなぁ』

『途方に暮れるほど大切な想い出なんですね』

『あの想い出があったから、ずっと彼女のことを忘れずにいられたんです』

『そうなんですね』

『想い出が戻らないと彼女のことを忘れてしまいそうです』

『そういう仕組みなんですか?』

『仕組みがあるのかどうかも知りませんが、僕にとっては大事なことなんです』

『今までどこを探されましたか?』

『ここ数日の行動を振り返って、その道順を辿ってみました』

『それでも見つからない?』

『誰かに拾われちゃったのかな?』

『それは他人にも価値があるものなのですか?』

『特定個人へ同じ思いをしている方になら効果はあるかもしれません』

『そんな偶然あるのでしょうか?』

『例えばですけど、アイドルや有名な女優やタレントとか』

『なるほどそれはありそうだ』

『僕はどうすればいいんだろう』

『片想いとお聞きしましたが、その方と新しい想い出をつくればどうです?』

『それは無理なんです』

『どうして?』

『もうこの世にはいないから』

『それは失礼しました』

『いいえ』

『お亡くなりになったのは最近のことですか?』

『最近といえば最近です』

『それでは難しいかもしれませんが、新しい出会いを求めればいかがですか?』

『新しい出会い?』

『そうですよ、失礼ですけどこの世にいらっしゃらない方をいつまでも想うより、次の出会いを求める方が、きっとその方も喜ばれるんじゃないでしょうか』

『なるほど』

『どなたかお心当たりはいらっしゃらないんですか?』

『実は一人気になる女性が』

『想い出の紛失はそこに原因があるんじゃないですか?』

『僕の気持ちが動いたと?』

『そうじゃなくて、その彼女さんがもういいよと』

『そういうことか』

『だから新しい恋を探しましょう』

『ありがとうございます。なんか眼が醒めたようです』

『それは良かった』

『次はあの女性をどうやって想い出にするかを考えないとな』

『想い出にする?』

『はい、想い出にすることから始まるんです』

『まずは片想い、それから愛や恋から想い出が生まれるのでは?』

『それは僕の考えと少し違いますね』

『想い出限定なんですか?』

『想い出は美化されることはあっても変化することはないでしょ。同時に色褪せることもないけれど、現実になるとどんどん変化するでしょ、すると望まない形も出てくるわけですよ』

『それが恋愛の醍醐味なのでは?』

『恋愛の醍醐味など知りませんが、美しいまま、キレイなままの想い出の方がいいと思いませんか』

『う~ん、どうなんでしょうね』

『これなら解りやすいかな』

『どういうことです?』

『彼女であれば傷付けあったり、別れが来たりしますが、想い出であればそんなこともないでしょ』

『確かにそうかもしれませんね』

『だから付き合うより想い出にすることを望むんですよ』

『でも想い出にするためにはお付き合いがないと』

『出会いは必要ですよ。でもそれだけでいいんですよ』

『よく解りませんなぁ』

『僕はどんなことをしても彼女と出会いますよ』

『ずいぶん積極的なんですね』

『執念という方がいいかもしれません』

『穏やかじゃありませんな』

『穏やかさなど僕には必要ありません』

『大丈夫ですか?』

『いつもの僕ですよ』

『そうじゃなくて、その考え方は危険じゃありませんか?』

『危険というのは?』

『想い出にするための手段ですよ』

『気付きましたか』

『それは倫理にも法律にも外れていますよ』

『それは僕にも関係あるんでしょうか』

『この国の人間なら当然でしょ』

『じゃあ僕は部外者ですね』

『どういうことですか?』

『僕は人間ではありませんから』

『まさか?』

『それ以上知りたいですか?』

『止めておきましょうか』

『それが賢明と言いたいところですが、ちょっと知り過ぎましたね』

『あなたは何者なんです?』

『想い出に生きる者ですよ』

『私もあなたの想い出になるのですか』

『それがあなたの幸せになると僕は思っていますよ』

『………』

ナルさま お世話になります
よろしくお願いします

デスおはぎ  /  ムカシガタリ feat. 重音テト

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