見出し画像

【母乳育児】有名母乳相談室で体験した、意味不明な「母乳マウンティング」

育児界隈において、大きなコンテンツのひとつが「授乳」です。母乳育児に関しては当事者の新陳代謝が早いことや、専門家が少ないといった問題から、圧倒的に情報が少ない傾向があります。そこで広まる「我流」の指導。今回は母乳育児と言えば必ず出てくる、有名相談室の体験談です。
(初出:2018年11 月)。
※連載「スピリチュアル百鬼夜行」(サイゾー運営・WEZZY掲載)記事を、一部転載します。note転載にあたり、趣旨を損なわない範囲で一部文面を修正しています。


「あなたの母乳はまずい」という指摘に仰天

「『あなたの母乳は冷たくてまずいから、赤ちゃんが飲まないんだ』と言われ、帰り道で涙がこぼれてしまいました」

30代の主婦Oさんが、〈桶谷(おけたに)式母乳相談室〉を訪れたときの体験談だ。Oさんは昨年冬に男児を出産。その後母乳とミルクで子どもを育てていたが、子どもが3カ月になる頃、乳腺炎を患い、たまたま見つけた〈桶屋式母乳相談室〉へ駆け込んだ。

Oさん(以下O)「出産でお世話になった病院にも乳腺外来はありましたが、触れるだけでも痛い状態の胸で3カ月の乳児と荷物を抱え、電車に乗るのはなかなかハードルが高くて。自宅から一番近いという理由だけで、桶谷式を謳う相談室なるとことろへ駆け込んだんです」

 桶谷式とは〈桶谷式乳房管理法〉という名称で、〈痛くない乳房ケア〉を謳う手技のこと。創立者は、第2次世界大戦中の満州で助産師活動をしていた桶谷そとみ氏。戦時中の栄養不足から母乳が出ず、命を失う赤ちゃんをたくさん見てきたという経験から、お母さんたちの母乳を出すための独自のマッサージを確立したという。

世の母たちを困らせる母乳の言説は多々あるが、この桶谷式も一部関わっているかもしれない。例えば「人間は哺乳類なんだから、必ず出る」とか、「母親の食べるもので母乳の味が変わる」とか。

代替品など手にはいらない戦時中の満州で子どもを育てるには、根性論で乗りきらねばならない場面もあっただろう。しかし桶谷のさまざまな話を聞いていると、今の時代にそのエッセンスを残す必要があるだろうか……と思わせる要素が満載だ。

母乳相談室へ駆け込んだ瞬間、後悔した

母乳相談室へ駆け込んだOさんが、まずはじめに驚いたのは〈全身白づくめ〉という施術者の出で立ちと、室内の汚さだったそう。

O「アパートの一室にある相談室に入ると、出てきたのは、全身白づくめの貫禄漂う中年女性。思わず、猫にまで白い布を巻いていた某宗教団体……パナウェーブを思い出してしまいました。そして、ぶっきらぼうな対応や、雑然として古く汚い印象の室内の居心地の悪さも加わり、入った瞬間すでに失敗という言葉が頭に浮かびました」

施術は「背中が痛くなるレベルの硬いベッド」に横たわり、乳房のマッサージが行われる。マッサージ中に吹き出る母乳が、施術者の手にも本人の自分の顔にも飛び散る。妊娠出産を描いたさまざまな作品でも、よく描かれる定番の光景だ。

O「そこでまず、『ほら‼ 冷たいのよ! 色も黄色くて、まずい! こんなおっぱいだから、赤ちゃんが飲まない!』『だから乳腺が詰まる!』とキツい口調で言われました」

 出口周辺にたまっていた母乳は、〈今わきたて!〉という状態と比べればわずかにぬるいのかもしれないが、体内にあったものが、そこまで冷たいのはなかなか考えにくい。相談室の担当者によって対応にバラつきがあるというのは、一般によく言われることだが、指導の内容は統一したほうがいいのでは……。

O「で、マッサージしていると後半に出てくる母乳は作られたてだから、開始直後よりはほんのわずか温かいような気がする。すると、『ほら、これが美味しい母乳なのよ!』と」

単純に「自分で少し絞ってから飲ませると、赤ちゃんがよく飲んでくれますよ」程度の説明じゃいけないのだろうか。わざわざ「まずい!」とママを貶めるパフォーマンスの意義がよくわからない。

赤ちゃんによって、ミルク温度の好みは多々あるといえど、ほんのわずかな温度差で「まずい!」と拒否するのはよくある話なのだろうか。それが本当なら、常温で飲ませる〈液体ミルク〉を与えられたらどうなるのか。「女将を呼べ!」と激怒する海原雄山のごとく、取りつく島もなくなりそう。

また、〈乳腺炎になったから母乳がまずくなり赤ちゃんが飲まない〉のか、〈母乳がまずくて赤ちゃんが飲まず、乳が溜まって乳腺炎になったのか〉、まるでタマゴが先かニワトリが先かという話を聞いているような……。

「小麦や南国の作物もNG」の謎

美味しい母乳を作るための食事指導も行われた。

O「『小麦粉禁止』『南のものは体が冷える」などの、一部で有名な食事指導もありましたね。さらに『あなたはがんばれば母乳だけでいけるはずだから、そうするべき!』とも強く言われました。生活サイクル的に必要だから粉ミルクも使って混合にしているのですけど、頭ごなしに母乳絶対! って感じで、とても疲れました」

母乳育児の魅力を伝えるどころかネガティブな印象にしてしまっては、商売あがったりになりそうである。

そして疲れきったOさんにさらに追い打ちをかけるのは、施術後に授乳していたときのこと。

O「うちの子、げっぷが下手なんですよね。そこへ早く帰りたいという焦りもあり、授乳が終わった子どもの背中を、ちょっと強めにトントンしていたんです。そうしたら、次の人を施術していたその助産師が手を止め、すっ飛んできて、『そんなに強く叩かなくていいッ!』と大声で怒鳴るんです。母乳がまずいとけなされるわ怒鳴られるわで、不覚にも帰り道泣いてしまいました」

別の相談室も、さんざんな対応だった

その相談室へは、二度と行くまいと決心したOさん。しかし翌週に再び痛みが出てきたので、次はタクシーで気軽に行かれる距離の、別の桶谷式母乳相談所へ足を運ぶことに。なぜまた桶谷へ? と思うが、一般に、母乳相談できる場所というのは少ない。

O「次の相談所はHPもあり、とてもきれいな店内でした。1回目の相談所でのことを訴えたからか初回は丁寧でやさしい対応でしたね。ところが2回目になると、また違和感。おっぱいの詰まりが、あまり改善されてなかったんですよ。すると『言いつけを破って、ケーキとか甘いものを食べたでしょう!』と。『いえ、言われたとおり魚と野菜しか食べてません!』と答えると『おかしいわね……じゃあ、体を冷やす服装をしているからよ!』と、なぜか決めつける。私はいつもボトムはロング丈のパンツですし、靴下も履いているし、肩を出しているわけでもないし、ごくごくノーマルな服装なんですけど……」

あらゆる不調を〈冷え〉のせいにするのは、物事をシンプルに説明しすぎる民間療法あるあるではある。「冷え」「愛情不足」「便利なものに頼りすぎ」は、手軽に不安を煽ることができる、定番の便利ワードである。

その母乳相談室も前回同様、マンションの1室。自分の前後に来店している利用客と施術者のやりとりが筒抜け状態だった。そこで見た、次のようなやりとりも、なかなかのパンチがあったと話すOさん。

授乳写真を勧めるのは何のため?

O「順番を待っている間に見たのは、〈今すぐ断乳したい〉という女性です。保育園も始まるし、自分的にも体力の限界なので、もう明日にでも授乳をやめたいと訴えている話が聞こえてきました。ところが施術者は『いつくらいが目安?』とトンチンカンな対応。今すぐって言ってなかったっけ? その女性が改めて『だから、明日にでも!』と言うと、ありえないという勢いで『ええええ!?』とのけぞっていました。乳房管理的に無理があるというニュアンスではなく、『こんなに出てるのにもったいない』という感じ。そして『やめる前に、授乳している写真を撮っておきなさい!』とか、乳房管理とは別問題だろうという指導へ。授乳写真……私は無理」

結局マッサージを受けると一時的に楽にはなるものの、母乳絶対主義的な価値観と、根拠不明な食事指導が苦手で、その後〈桶谷式〉には一切近寄らないようになったと話す。

現在は順調に離乳食も進み、乳房が痛くなりそうなときは〈積極的に母乳を飲ませる〉という方法で乗りきっているとのこと。しかし桶谷式に不信感を持ちながらも、通っていたときは指導された「キャベツ湿布」※を律儀に続けていたというのですから、Oさんの真面目なお人柄がにじみ出ている。

※熱を盛った乳房に、キャベツの葉を張り付けるという民間療法。

自治体の保健師による情報が、微妙問題

「病院に行けばいいのでは?」という疑問もありますが、一般的な乳腺炎の治療は抗生剤を使うため、医師によっては一時的に授乳を禁止される場合も。それを避けようとすると、母乳マッサージの有名どころ=桶谷という流れになりがちだという話であった。Oさんも「桶谷以外に、もっと気軽に行かれる母乳相談室があればいいのに」と、こぼしている。

O「その手の情報を集めたいと思ったとき、失礼ながら、とにかく役にたたなかったのが自治体の保健師なんですよね。評判のいい母乳マッサージを教えてくれと言っても、『ここがいいとか勧められないんです』とか、やたら遠い場所の施設をアナウンスされたり。子どもの発語が遅いことを相談したときも、『片言で話してください』ですって。ワンワンとかブーブーとか、赤ちゃん言葉を交えてとかならまだ理解できますが、片言って。いつもズレた対応ばかりです」

〈区の保健師の情報が微妙問題〉は、筆者も度々実感している。わが家の場合は「ここの保育園ならお母さんがフリーランスでも預かってくれますよ!※※」と保健師に教えられた認可外保育園を見学してみると、大家族番組で見かけるカオスな情景をさらに煮詰めたような環境劣悪保育園。二度と保健師にアドバイスを求めるまい……と固く誓った経験がある。

※※特に認可保育園の場合、在宅仕事のフリーランスは入園選考で不利になるケースが多い。

母乳トラブルは一過性で専門家も少なく、情報も偏ったものになりがちだ。試行錯誤した結果を世のお母さんのために! という理念は素晴らしいが、その情熱を、時代に合わせてアップデートすることにも傾けてほしいと思った体験談だった。

取材・文/山田ノジル


いいなと思ったら応援しよう!