真珠の夜
(ものがたり)
渋谷のオープンカフェで、僕は見知らぬ女に話しかけられる。
彼女はオープンカフェのウェイトレス春奈の友達で、僕に真珠のネックレスが欲しいと頼んだ。
僕は彼女と一緒に、真珠のネックレスが隠された鳥羽のラブホテルへと向かう。
(かいせつ)
「ダイヤモンドの夜」、「エメラルドの夜」につづく宝石の夜シリーズ三作目。
Talesで公開した前二作から、noteに移動してシリーズを継続。
毎月新しいエピソードを公開予定!
1
僕はいつものように渋谷のオープンカフェの席に座って、ノートパソコンを開いていた。
コーヒーを飲みながら小説を書く。
小説の中で僕は、失われてしまった恋人との時間を過ごしている。
美智子と旅をした想い出。
美智子と過ごした日々。
僕の中で、美智子はまだ生きている。
僕の小説の中で、美智子はまだ生き続けている。

僕の隣の席に、誰かが座る気配を感じた。
僕はパソコンのモニターから視線を移し、そのあたりを見た。
そこには見知らぬ女が座っていた。
女は僕の顔をじっと見ている。
「あなたに頼みがあるの」
女は唐突に、僕に向かってそう告げた。
その目は真剣で思い詰めたかのようなものだった。
「僕に頼み?」
僕は戸惑った。
見知らぬ女にいきなり頼みごとをされても、僕は戸惑うばかりだ。
僕は黙ったまま、女を見ていた。
「真珠のネックレスが必要なの」
女は話を続けた。
「真珠のネックレス?」
なるほど、そういうことか、と僕は悟った。
どこからか噂を聞きつけて、女は僕のところにやって来たのだ。
僕のところに来れば、宝石をもらえるかもしれないからだ。
だけどもそれにはそれなりの覚悟が必要だ。
僕は周囲を見回して、カフェのウェイトレスの姿を探した。
オープンカフェの客席の合間を歩いているウェイトレスの姿を、僕は見つけた。
僕の目がウェイトレスをとらえると、彼女は僕の視線に気づき、うんうん、とうなづいた。
春奈だ。間違えない。これはこのカフェのウェイトレスの春奈の仕業だ。
まったく、、。
僕は頭をかかえた。
「あるわよね、真珠のネックレス」
女は確信を持って僕に念を押した。
「真珠のピアスならある」
僕はそう答えた。
僕は少しばかり意地悪になった。
なんだか簡単に彼女の望みを受け入れる気にはならなかったからだ。
女はがっかりした表情をした。
僕はそんな女の様子を楽しむ。
だけども女の落胆はとても大きなものだった。
そんな女の様子を見て、僕は考えを改めた。
「嘘だよ。真珠のピアスは僕のベッドの下に僕の愛人が片方捨てた。真珠のネックレスは鳥羽のラブホテルにある」
僕がそう言うと、女は困惑した表情を浮かべた。
どうやら僕の言った言葉の意味が、わからなかったようだ。
ユーミンの歌を知らないのか、と僕は思った。
「鳥羽ってどこ?」
女はそう僕に訊ねた。
そっちか、、。
「鳥羽は三重県にある海辺の街だ。真珠の養殖で有名だよ」
僕は説明をした。
「あるのね、鳥羽のラブホテルに」
女は身を乗り出した。
結局のところ、鳥羽がどこにあるのかよりも、真珠のネックレスの方が重要なようだった。
「あるよ、鳥羽のラブホテルに」
僕は繰り返した。
女の表情に笑みが生まれた。
「私を鳥羽に連れてって!」
女は今にも飛び上がってしまいそうな勢いで、僕にそう言った。
私をスキーに連れてって?
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