「つらい」と「面白い」は同時にあって良い
こんにちは、「笑顔工学」の専門家、木村光範です。
「笑顔工学」についてはこちらの記事をご覧ください。
ビジネスの現場では
きれい事だけでは済まない瞬間に何度も直面します。
システムの導入が思うように進まない。
現場の疲弊と、理想のギャップに挟まれる。
予期せぬトラブルに、心が折れそうになる。
そんなとき、
「この苦しい時期が過ぎ去れば、いつか笑える日が来る」
「今は大変だけれど、乗り越えた先に笑顔がある」
といったことで、苦しさをネガティブにとらえて
必死にもがくこと、あるのではないでしょうか。
最近、私は、「つらい最中にも、つらさを横に置いておいて、同時に笑うことができるのではないだろうか。すなわち、苦しさの中にも、面白さは同時に存在していいのではないだろうか。」と考えるようにしてみています。
最新脳科学でも実証された、ネガティブとポジティブの同居
2025年10月、Nature系の学術誌『Communications Biology』に、ユーモアと言葉、そして混ざり合う感情に関する興味深い論文が掲載されました。
最近、海外の、英語や他の言語の論文などの情報も
手に入れて整理することが簡単になりましたね。
便利な世の中です。
さて、この論文になった研究では、
ネガティブな言葉を含むダジャレ的なユーモア文を読んだとき、
人の脳が「否定的な感情」と「面白さ」をどのような時間差で処理するのかを、脳波と表象類似性解析を用いて調べています。
これまで、ポジティブな感情とネガティブな感情は、シーソーのように捉えられがちでした。
楽しいときは、つらさが下がる。
つらいときは、楽しさが消える。
そのように考えると、笑顔とは「苦しみがなくなった状態」のように見えてしまいます。
しかし、この研究が示しているのは、
もう少し奥行きのある人間の感情の姿でした
ネガティブな言葉を含むユーモアに触れたとき、
脳内ではまずネガティブな反応が立ち上がります。
その後、少し遅れて面白さの反応が生まれます。
そして重要なのは、後から来た面白さが、先にあったネガティブな反応を単純に消し去るわけではないという点です。
研究では、否定的な感情が残ったまま、そこに面白さが重なり、両方が同時に存在する時間があることが示されています。
つまり、人間の脳は、
「つらい」と「面白い」
「苦しい」と「笑える」
「重たい」と「少し楽しい」
を、同時に抱えることができるのです。
これは、私の最近考えていたことが、脳科学的に正しい、ということを
示しているようです。
ダジャレは、感情を組み替える小さな実験
ところで、この研究が題材にしているのは、ネガティブな言葉を含むユーモア、つまり言葉の意味をずらして楽しむ表現です。
私はここに、ダジャレの面白さもあると思っています。
ダジャレは、単なる親父ギャグではありません。
もちろん、すべることもあります。
場の空気が一瞬止まることもあります。
それでも、ダジャレには不思議な力があります。
言葉の響きをずらし、意味をつなぎ直し
予想していた文脈から、少し違う場所へ連れていく、という
ダジャレを口に出したその瞬間、脳は小さく動いています。
「え、今の何ですか」
「そういうことですか」
「くだらないけど、少し笑ってしまいました」
この小さなズレが、場をやわらかくします。
重たい空気に、ほんの少し余裕をつくります。
そして、正しさだけで固くなった会議に、人間らしさを戻します。
私は、ダジャレを脳のストレッチだと思っています。
そして同時に、感情を組み替える小さな実験でもあると思っています。
困難は、消すだけのものではない
この知見は、私が提唱している「笑顔工学」にとって、
とても大きな示唆があります。
私たちは、困難やトラブルに直面すると、
それを「一刻も早く取り除くべきもの」として考えます。
もちろん、改善すべきことは改善する必要があります。
現場の負担は減らすべきです。
非効率な業務は変えるべきです。
人を苦しめる仕組みは、放置してはいけません。
しかし同時に、困難を「ただ消すべきもの」とだけ見ると、
大切なものを見落とすことがあります。
苦しい状況があるからこそ、人は工夫します。
大変な現場があるからこそ、本気で仕組みを変えようとします。
思うようにいかないからこそ、人と人が対話し、知恵を出し合います。
そして、そこに少しのユーモアや、
少しの面白がる力が加わったとき、現場は変わります。
「大変ですね」で終わらない。
「では、どうすれば少しでも楽になりますか」と考える。
「これはなかなか厳しいですね」と言いながらも、
「でも、ここを変えられたら面白いですね」と前を向く。
この感覚が、私はとても大切だと思っています。
笑顔は、苦しみが消えた後だけに生まれるものではない
笑顔というと、何も問題がない状態を想像しがちです。
不安がない。
悩みがない。
忙しさがない。
トラブルがない。
もちろん、それは理想です。
しかし、現実の仕事や経営、介護や福祉の現場では、問題が完全になくなることはほとんどありません。
人がいます。
感情があります。
制度があります。
予算があります。
人手不足があります。
家族の思いがあります。
地域の事情があります。
だから、すべてが整ってから笑おうとしていたら、
いつまでも笑えないかもしれません。
大切なのは、苦しさをなかったことにすることではありません。
苦しさを抱えたままでも、そこに意味を見出し、
面白さを見つけ、前に進むことです。
脳が「つらい」と「面白い」を同時に抱えられるなら、
私たちもまた、悩みながら笑っていいのだと思います。
葛藤しながら前に進んでいいのです。
迷いながら挑戦していいのです。
不安を抱えながら、少し面白がっていいのです。
DXは、現場の苦しさを笑顔に変える仕組み
デジタル化を活用し、企業が変革することを、DX(デジタルトランスフォーメーション) と呼びます。
DXは、単にシステムを入れることではありません。
AIを使うことでも、ペーパーレスにすることでも、
データを集めることでもありません。
もちろん、それらは大切です。
しかし、それだけでは不十分です。
DXとは、現場の苦しさを見えるようにし、それを人の力と仕組みの力で、少しずつ笑顔に変えていく取り組みです。
紙の記録が多すぎて、利用者さんを見る時間がない。
二重入力が多すぎて、職員が疲れている。
情報共有が遅くて、対応が後手に回る。
管理者が数字を把握できず、いつも不安を抱えている。
こうした現場の痛みを、なかったことにしてはいけません。
むしろ、その痛みを丁寧に見つめる。
どこで詰まっているのかを見える化する。
どの作業が人を疲れさせているのかを分析する。
どこに余白をつくれば、人が人らしく働けるのかを考える。
そこにICTを使います。
AIを使います。
データを使います。
経営工学を使います。
しかし、最後に大切なのは、人の心です。
「大変だけれど、変えられそうです」
「苦しかったけれど、少し楽になりました」
「前より利用者さんと向き合えるようになりました」
「この仕事の意味を、もう一度感じられるようになりました」
その変化こそが、DXの本当の成果だと思います。
深みのある笑顔をつくる
私の理念は、
「すべての人が笑顔で在り続ける社会づくりに貢献する」
というものです。
ここでいう笑顔は、ただ明るいだけの表情ではありません。
苦しさを知らない笑顔ではありません。
困難を避け続けた笑顔でもありません。
何も問題がない場所にだけある笑顔でもありません。
むしろ、苦しさを知っているからこそ生まれる笑顔があります。
悩みながらも進んだからこそ生まれる笑顔があります。
人と人が支え合い、工夫し、仕組みを変えた先に生まれる笑顔があります。
私は、それを深みのある笑顔だと思っています。
笑顔工学が目指すのは、単に人を一瞬笑わせることではありません。
現場の痛みを見つめ、人の力を引き出し、組織の仕組みを整え、笑顔で在り続けられる状態をつくることです。
そのためには、困難をただ排除するだけではなく、困難の中にある意味を見つける力が必要です。
そして、ときにはダジャレのような小さなユーモアで、場をやわらかくする力も必要です。
まとめ
経営も、DXも、介護も、福祉も、地域づくりも、簡単ではありません。
思うようにいかないことがあります。
言葉が届かないことがあります。
努力がすぐに成果につながらないこともあります。
それでも、そこで笑ってはいけないわけではありません。
むしろ、そこで笑える力こそが、人間の強さなのしれません。
つらい。
でも、少し面白い。
苦しい。
でも、何かが変わりそうだ。
大変だ。
でも、この先にはきっと笑顔がある。
そのように、正反対に見える感情を同時に抱えながら、人は前へ進んでいけます。
目の前の険しい道は、決して行き止まりではありません。
その重い扉を押し開けた先にしか見えない景色があります。
そして、その景色を見たとき、私たちの中には、何にも代えがたい深みのある笑顔が生まれるのだと思います。
だから今日も、悩みながら笑っていいのです。
葛藤しながら、前に進んでいいのです。
苦しさの中に、少しの面白さを見つけていいのです。
その小さな笑顔の積み重ねが、現場を変え、組織を変え、社会を少しずつ温かくしていくのだと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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