任せることと、丸投げは違う
こんにちは、「笑顔工学」の専門家、木村光範です。
「笑顔工学」についてはこちらの記事をご覧ください。
前回、「できない人」と決めつけない、という記事を書きました。
人が成果を出せないとき、本人の能力や意欲だけではなく、配置、役割、情報、教育、対話の仕組みにも目を向ける必要がある、という話です。
そこでもう一つ、経営者や管理職が考えなければならないことがあります。
それは、私たちは本当に、
仕事をきちんと「任せている」のか、ということです。
「任せたのに、全然進んでいない」
「自分で考えて動いてほしい」
「細かく言わないと、何もできない」
そう感じることはあると思います。
しかし、その仕事は本当に任せたのでしょうか。
もしかすると、仕事と一緒に、
曖昧さや迷いまで相手に押しつけているだけかもしれません。
丸投げは、迷いまで相手に渡す
たとえば、部下に、
「来週の会議資料、いい感じに作っておいて」
と伝えたとします。
これだけでは、相手は多くのことを自分で推測しなければなりません。
何のための会議なのか。
誰が読むのか。
何を判断してもらいたいのか。
どこまで詳しく書くのか。
いつまでに、どの形式で出すのか。
途中で確認した方がよいのか。
過去の資料を踏襲するのか、新しく考えるのか。
依頼した側には、頭の中に完成形があるかもしれません。
しかし、それを伝えないまま結果だけを求めると、
相手は見えない正解を探すことになります。
そして、苦労して作った資料に対して、
「そういう意味じゃない」
「なぜこんな形にしたの」
「もっと考えてほしかった」
と言われれば、次第に自分で考えることが怖くなります。
丸投げとは、作業を渡すことではありません。
作業と一緒に、判断材料の不足や責任の曖昧さまで
相手に押しつけることなのです。
任せるとは、判断できる材料を渡すこと
仕事を任せるときに必要なのは、
細かな手順をすべて指示することではありません。
相手が自分で判断するために必要な情報を渡すことです。
たとえば、先ほどの会議資料なら、
「来週の経営会議で、新規事業を続けるかどうか判断してもらうための資料です。役員向けに、売上見込み、必要な投資、主なリスクをA4一枚にまとめてください。数字には根拠を付け、木曜日の正午に一度、骨子を見せてください」
と伝えれば、相手は何を目指せばよいか理解できます。
ここまで伝えたうえで、構成や表現は本人に任せます。
これが、任せるということだと思います。
任せるとは、手順をすべて決めることでも、
何も言わずに放置することでもありません。
目的と判断軸を共有し、
その範囲の中で本人が考えられるようにすることではないでしょうか。
権限を渡さず、結果だけ求めていないか
仕事を任せたつもりでも、必要な権限を渡していないことがあります。
お客様への確認が必要なのに、連絡してはいけない。
他部署との調整が必要なのに、依頼する権限がない。
予算が必要なのに、いくらまで使えるか決まっていない。
判断を求められているのに、決めるたびに上司の承認が必要になる。
これでは、自分で動こうとしても動けません。
それなのに、
「もっと主体性を持ってほしい」
と言われても、本人は困ってしまいます。
主体性とは、気持ちだけで生まれるものではありません。
自分で判断できる情報があり、一定の裁量があり、
必要なときに相談できる環境があって、初めて発揮できるものです。
任せるなら、任せる範囲を明確にする。
自分で決めてよいことを伝える。
困ったときの相談先を決める。
失敗したときに、必要以上に責めない。
こうした条件も一緒に渡す必要があります。
確認することは、信じていないことではない
任せたのだから、最後まで口を出してはいけない、
と考える人もいます。
しかし、任せることと放置することは違います。
長い仕事であれば、途中で方向を確認する必要があります。
最初の一割ができた段階で確認すれば、
小さな修正で済みます。
完成してから目的が違っていたと分かれば、
本人も組織も大きな時間を失います。
大切なのは、途中確認を監視や粗探しにしないことです。
「遅れていないか」だけを確認するのではなく、
「迷っているところはないか」
「必要な情報はそろっているか」
「前提が変わっていないか」
「こちらで支援できることはないか」
と確認します。
任せた後に必要なのは、監視ではありません。
安心して相談できる接点を残しておくことです。
AIに任せるときも同じ
これは、人に仕事を任せるときだけの話ではありません。
生成AIに仕事を任せるときも、まったく同じです。
「良い企画書を作ってください」
「会社の課題を分析してください」
「売れる文章を書いてください」
とだけ依頼しても、一般的で当たり障りのない答えになりがちです。
何のために使うのか。
誰に読ませるのか。
自社は何を大切にしているのか。
どの情報を使うのか。
何をしてはいけないのか。
どのような状態を完成とするのか。
こうした前提、すなわちコンテキストを渡すことで、
初めて自社の仕事に近い答えが返ってきます。
ただし、どれほど詳しく指示しても、
AIに最終責任まで渡すことはできません。
AIが作った数字を確認する。
事実と推測を分ける。
個人情報や機密情報を適切に扱う。
お客様に出してよい内容か判断する。
最終的に採用するかどうかを決める。
これは人間の仕事です。
AIに任せることは、AIに責任を渡すことではありません。
AIは作業を助けてくれますが、経営者や担当者に代わって責任を引き受けてはくれないのです。
ベンダーや外部人財への依頼も同じ
システム開発会社やコンサルタント、
副業人財へ仕事を依頼するときも同じです。
「うちに合うシステムを作ってください」
「売上が上がる仕組みにしてください」
「DXを進めてください」
と依頼しても、それだけでは相手も判断できません。
会社が何を大切にしているのか。
誰のどの課題を解決したいのか。
どこまで変えてよいのか。
守るべき業務や関係性は何か。
成果をどの数字で確認するのか。
ここは、会社自身が決めなければなりません。
専門家の力を借りることは大切です。
しかし、自社の未来をどうしたいのかという問いまで、
外部へ渡してはいけません。
外部へ任せるほど、社内には、目的を示し、
判断し、責任を引き受ける人が必要になります。
任せる前に確認したい五つのこと
私は、仕事を任せる前に、少なくとも次の五つを確認するとよいと考えています。
何のために行うのか
どの状態になれば完了なのか
どこまで本人が判断してよいのか
守るべき条件や、してはいけないことは何か
いつ、どの段階で確認するのか
これらが共有されていれば、相手は自分で考えやすくなります。
すべてを細かく指示する必要はありません。
むしろ、目的と境界を明確にしたうえで、その中の進め方を任せることが、人を育てます。
任せ方には、人をどう見ているかが表れる
任せるという行為には、その組織が人をどう見ているかが表れます。
失敗しないように、すべて指示どおりに動かしたいのか、それとも、多少の試行錯誤を認めながら、自分で考えられる人に育ってほしいのか。
最初から完璧にできる人はいません。
少し難しい仕事を任され、考え、相談し、失敗し、振り返る中で、人は成長していきます。
ただし、成長のためだからといって、一人で放り出してよいわけではありません。
任せるとは、人を信じることです。
同時に、支える責任を自分も引き受けることです。
成果が出なかったときに、
「あの人には任せられない」
と結論を出す前に、
こちらは必要な目的、情報、権限、支援を渡していたかを
振り返る必要があります。
笑顔工学としての「任せる」
私が提唱している「笑顔工学」は、人が力を発揮できる状態を、
感情論ではなく仕組みとして考えるものです。
任せ方を整えることも、その一つです。
何を求められているのか分からない。
失敗したら責められる。
判断する権限がない。
困っても相談できない。
完成してから全部やり直しになる。
このような環境で、主体的に働くことを求めるのは無理があります。
反対に、目的が分かり、一定の裁量があり、
途中で相談でき、自分の工夫が成果につながる職場では、
人は仕事に手応えを感じられます。
経営者や管理職の仕事は、すべてを自分で行うことではありません。
人が自分の力を使って、組織の目的に貢献できる状態をつくることです。
まとめ
任せることと、丸投げは違います。
丸投げは、自分の仕事を相手へ移し、迷いや責任まで押しつけることです。
任せるとは、目的、判断軸、権限、支援を渡し、相手が自分で考えられるようにすることです。
そして、最終的な責任から逃げないことです。
人に任せるときも、AIに任せるときも、外部の専門家に任せるときも、本質は変わりません。
何のために任せるのか。
何を期待しているのか。
どこまで任せるのか。
自分は何を引き受け続けるのか。
そこを明確にする必要があります。
丸投げは、自分の仕事を減らします。
任せることは、組織の力を増やします。
人を「できない」と決めつける前に、私たち自身が、本当に任せることができていたのかを問い直したいものです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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