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あらゐけいいち、ありがとう(敬称略)

『CITY』アニメ化決定おめでとう(敬称略)。

あらゐけいいちさんと言えば、漫画『日常』の著者として有名だ。かの作品のパワフルなリアクションと、あふれ出る平和な雰囲気は、世界中にファンを作った。

21世紀にデビューした漫画家の魅力を振り返る本企画。今回は世界に愛らしく笑顔を届ける、あらゐけいいちさんを取り上げてみる。

■天才あらわる

googleで「あらゐけいいち」と検索してみると、「天才」とサジェストが表示される。

すげぇ!

漫画『日常』。今から20年弱前に始まったこのシリーズは、天才的におもしろかった。常識はずれにおもしろかった。知ってますか?このシリーズ。覚えてますか?このシリーズ。

そりゃね
キュッ

「天才」という尊称は、凡人と一線を画する技術や発想を持つ人にだけ与えられる。
私が彼に感じる「天才性」は遊びゴコロ。
彼ほどに「楽しさ」にこだわり漫画を描く人はいないのではないか?

例えばセリフ回し。
以下のまとめでは、写植へも独自の遊びゴコロを入れる彼の作品作りがまとめられている。

他にもフォント選び、コマ割り。
あらゐさんは細かなスキマにも遊びを忍ばせる。

フォント全部違うのがにぎやか

このユニークネス。この爆発力。
日常系とは、「とりわけ若い女性キャラクター達の会話を軸に、大きな事件や出来事を伴わない何気ない日常を淡々と描写している」作品群のことであるが(by Wikipedia)、『日常』に限ってはこの範疇に収まらない。
あらゐさんは、人々が「平凡であるがゆえに愛おしい」と捉える何気ない日常こそを、驚きと楽しみにあふれる非凡な世界と捉えている。
『日常』で描かれるのは、おしゃれカフェで注文に四苦八苦するワンシーン、羽虫に眠りを邪魔されるワンシーン。それを、他にない言語センスと演出で、徹底的におもしろおかしく展開させていく。

加えて特筆するなら、あらゐ作品は平和だ。
ギャグ漫画として、これはすごいことだと思う。
ギャグとは、それすなわちボケとツッコミ。緊張と緩和。より激しく「笑い」を作るためには、まずしっかりと凹みを作る。その上でアクセルを踏み込むことが、単純ながら強力な基本戦略となる。
だから大半のギャグ漫画は破壊的な、わけがわからない方向へ向かってしまいがちだ。アクセルをどんどんと踏みしめて、キャラクターを痛めつける方向へ向かいがちだ。

あらゐ作品では、そうした方向には向かわない。特に『日常』のある時期からは、明確に「痛めつける」演出を避けているように感じられる。彼の作品では登場人物たちは恥をかくとこはあれど、命が脅かされることはない。
それでも凄まじく楽しめる。安心して読める。
それは稀有な笑いだと思う。難しい挑戦だと思う。『トムとジェリー』、『スポンジボブ』、見てるか?(どちらも楽しいです)。

この緩急よ


■天才性のその先へ

ここまで天才!天才!と無邪気に、無遠慮に、あらゐさんを褒め称えてみた。ここからお気に入りのコマを更に10枚貼り、彼の賞賛を続けたいくらいだが、しつこくなるので流石に止める。

「憧れは理解から最も遠い感情だよ」という藍染惣右介さまの有名なセリフがある。人は優れた結果だけをみて、偉人を「天才」と遠ざける。しかし果たしてそれは、褒められるべき行為なのか?


「天才」というと、何か「生まれ持ったスペシャリティ」を持った人であるように我々は考える。しかし彼らもまた人間で、偉業の裏には一線を画する努力がある。だけど凡人は、その「努力」への接続を避ける為、「彼は生まれもっての天才だ」と自分と断絶を作る。

憧れの熱を冷まして落ち着けば、あらゐさんもまた世に言われる天才たちと同じく、努力を重ねて今のスタイルへ到達したのだろう。
彼は我々と同じく、noteにアカウントを持っている。そこには日々のネタ探し、レイアウトやデッサン練習に予断がない、彼の努力の一端が垣間見える。
私はあらゐさんを、センスだけの漫画家だとは思わない。彼の作品の統一されたトーンと、ネタのきめ細やかさ、漫画の読みやすさには、練られた技術を感じさせられる。

どこか遠くに出てみても
気付きや アイデア考える
忘れじと ノートに メモを取り
気付けば時間が過ぎて行く

そうだな
草津 伊ーー香保
どこへ行っても
結局ね...てね

一本一本線を引き
気にくわない線を消す
私を動かすその術は
みんなの笑顔 それだけさ
それを信じて描くだけさ
あっという間に 出来上がり♪

あらゐけいいち-『絵描きうた』より

あらゐ作品の現時点での最新作は『雨宮さん』。
本作は、彼のカワイイもの好きと、その他さまざまな「好き」が詰まった、シフォンケーキのように甘い作品。

イソギンチャク、Stan Getz & Kenny Barron、卒業証書の筒の音。好きなもので自分の世界を染め上げていく雨宮さんは、女子高校生。将来の仕事選びに迷う。
ある日、趣味の絵を書いているところを同級生に見とめられ、ポスター係に任命される。
趣味の絵描きを褒められて、雨宮さんいい思い。褒められた試しに漫画でも書いてみようかとペンを持ってみる。
持ってみる。…持ってみるが。
「何を書いていいのか分からない……….!!!」。

雨宮さん、漫画描きの大変さを実感する。
ただでさえ絵を描くのは大変なのに、それに加えて好きなもの以外も何コマも何コマも書いて、メンドウな作業を繰り返して、それでも報われないことがある。

ホントすげえっす

上に貼った一話には、あらゐさんの偽らざるであろう本音が垣間見える。
彼はデビュー作から大きなヒットに恵まれた。その前には長い下積みがあっただろうが、前途の明るい船出であった。しかし順風満帆な出発の後も、それ自体が重荷になることもあるに違いない。「前よりも面白い」と言われたいプレッシャー。「センスが枯れたね」なんて思われたくないプライド。
贅沢な悩みと人は言うだろうが、大きな成功も、それはある面では呪いでもある。
上の雨宮さんの話には、漫画制作に大きな苦労を感じている、あらゐさん本人の苦労をも幻視してしまう。


それでも、
あらゐけいいちさん、ありがとう。

あなたの平和な笑いに、救われた人はきっと多い。
貴方の献身と努力は、多くの人に笑顔を届けた。
私を元気にしてくれたあなたの作品を、私もまた誰かに届けたい。
日常を特別に楽しむあらゐ作品を知ることで、私たちは日々をもっと楽しめるようになる。



*****


最後までご覧いただきありがとうございました!

しつこいようですが、『日常』は神がかりに面白いというか、好きです。あらゐさんの最高傑作は、個人的に、この初期の時期にあったと思います。特に8巻、9巻あたりが脂が乗っていて、総合点が高いと思います。

『日常』の次作にあたる『CITY』は、より物語の連続が意識された、一段おとなになった作品。おっさん3人衆がうまいうまい言いながら酒を呑むだけの会が好きすぎます。9巻収録です。

これからも大体毎週水曜日、世界を広げるために記事を書きます!
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今回は100選中でも随一に平和で優しい雰囲気の作者を取り上げました。次回は100選中でもピカイチにバイオレンスな作者を取り上げて、バランス(?)を取ろうと思います。高低差で耳が痛くなりそうです。
その人、さの隆さん。どうぞまた次回。

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