レビ人の組(mishmarot:ミシュマロット)の原点(3回目)―ヤアジヤの謎と司法行政、2.4万人の実務部隊
*レビ人の24組(mishmarot:ミシュマロット)はいかにして「国家の背骨」として機能したのか。
本稿では、歴代志上の記述を徹底解剖し、祭司の組分けに呼応する2万4,000人の神殿実務部隊、そして他の系図には現れない謎の人物「ヤアジヤ」が果たした組織論上の役割を解説。
更にエルサレムを離れヨルダン川東西を統括した6,000人の司法・行政官たちの実態に迫り、神の事と王の事を一手に担ったレビ族の真の姿を、手加減抜きの専門的視座から浮き彫りにする。
はじめに:レビ人の4部門とmishmarot
前回は以下の内容を扱った。
レビ族は嗣業の地を持たず、イスラエル全土の部族から割り当てられた48の町(うち6つは「逃れの町」)に分散して居住していたこと。
レビ人の主な報酬は、民から献げられる収穫物の十分の一(maaser・rishon:マアセル・リッション)であったこと。
3、レビ人の中央聖所での奉仕は最初本人の自発的な意思で可能であったが、後には公的な当番制度へ移行していったこと。
4、それと並行してmaaser・rishonも当初、各地の町で受け取っているのみであったが、後には中央聖所へも集約される体制へ変わっていったこと。
5、レビ人も祭司と同様、24組のmishmarot(ミシュマロット)に分けられたこと。
6、レビ人の部門は4つに分けられたこと。それは以下の通りであること。
①神殿奉仕の管理・実務: 2万4,000人
②役人・裁判官: 6,000人
③門番(守衛): 4,000人
④賛美(奏楽・歌唱): 4,000人
レビ人のmishmarotとは、これらの各部門がさらに24組に分割され、ローテーションとなった当番の単位であること。
まだ理解していない方は、以下のリンクからご覧下さい。
◉レビ人の組(mishmarot:ミシュマロット)の原点(2回目)――48の町、十分の一税(マアセル)、そして24組の法理と構造
今回はその続きである。
祭司24組との同期:第1のくじ「ヨヤリブ」から第24の「マアズヤ」まで
まず歴代誌上24章は祭司の組分けから始まっている。彼らはくじを引き、次のように決まった。
第一のくじはヨヤリブに当たった。第二のくじはエダヤに、第三のくじはハリムに、・・・(中略)・・・第八のくじはアビヤに・・・(中略)・・・第二十三のくじはデラヤに、第二十四のくじはマアズヤに当たった。
その直後にレビ人の組分けについて記されている。すなわちここに挙げられているのは、祭司と共に働く「①神殿奉仕の管理・実務: 2万4,000人」についての具体的な家名である。以下の通りである。
【神殿実務の家系分析】ケハト・メラリ両一族による2.4万人の組織化
20レビの他の子孫として、アムラムの子らにはシュバエル、シュバエルの子らにはイエフデヤ、 21レハブヤ、レハブヤの子らには頭のイシヤ、 22イツハルの一族にはシェロモト、シェロモトの子らにはヤハト、 23ヘブロンの子らにはエリヤ、次男アマルヤ、三男ヤハジエル、四男エカムアム、 24ウジエルの子らにはミカ、ミカの子らにはシャミル、 25ミカの兄弟イシヤ、イシヤの子らにはゼカルヤ、 26メラリの子らにはマフリ、ムシ、その子ヤアジヤの子ら、 27その子ヤアジヤによるメラリの子らにはショハム、ザクル、イブリ、 28マフリにはエルアザルがいる。エルアザルには子がなかった。 29更にキシュ、キシュの子らにはエラフメエル、 30ムシの子らにはマフリ、エデル、エリモトがいる。
以上がその家系によるレビ人の子らである。 31彼らは、その頭の家系の者もその弟たちの家系の者も、アロンの子らである兄弟たちと同様に、ダビデ王とツァドク、アヒメレク、祭司とレビ人の家系の長たちの前でくじを引いた。
上に書いている数字は節の番号である。馴染みのない人名が並んで複雑に見えるが、ここにはレビの3人の息子であるケハト、ゲルション、メラリの内、ケハトとメラリの直系について記されている。整理すると以下のようになる。
①ケハトの一族(20~25節)
ケハトの子はアムラム、イツハル、ヘブロン、ウジエルであり、彼らの子の名前も列挙されている。
②メラリの一族(26~30節)
メラリの子はマフリ、ムシであるが、「ヤアジア」の立ち位置が不明である。専門家の間でも明確に断定出来ていない。整理すると以下の通りになる。
メラリからマフリとムシが出る。
さらにヤアジヤ(およびその子ら)という不明の系統がある。
マフリの系統からエルアザルやキシュが出る。
ムシの系統からさらに3つの家系が出る。
「ヤアジヤ」の謎と24組の定数:欠落したパズルを埋める組織的要請
問題であるのは「2.」である。ヤアジアについては、出エジプト記6章に
メラリの子らは、マフリとムシで、これらが家系に従ったレビの氏族である。
とある通り、メラリの子として言及されていない。トーラや歴代誌の他の箇所では出てこないのである。ヤアジアがメラリの一族であるのは確かであるにしても、誰の子であるのかが分からない。
その彼の名前がここで出てきているのは、ケハトの一族、メラリの一族の主要な家系だけでは「24」という定数に足りなかったので、比較的大きい(?)、他では言及されないヤアジヤの家系を列挙し、24のユニットを成立させようとしたと考えられる。
いずれにしても、ここに列挙された家系において、「①神殿奉仕の管理・実務」の為に24組のmishmarotを作ったことになる。ただし、これが全てではない。
財政部門の守護者:ゲルション系ラダン家による宝物庫管理(歴代志上26章)
ケハト、メラリ、もう1つの一族であるゲルショムについては、少し離れたところで、この「①神殿奉仕の管理・実務」に関わっている様子が窺える。次のように書かれている。
レビ人の中でアヒヤが神殿の宝物庫の責任を負い、聖別された物の保管に当たった。ラダンの子ら、つまりラダンによるゲルションの子孫で、ゲルションに属するラダンの家系の長たち、エヒエルの一族、エヒエルの子らゼタムとその兄弟ヨエルも主の神殿の宝物庫の責任を負った。
冒頭の「アヒヤ」については、人名でない解釈も有力であり、混乱の元であるので、とりあえずここでは問題にしないでよい。ただ「レビ人のゲルションの家系に属する兄弟たちが、神殿の宝物庫の責任を負った」という事だけ分かればよい。
「ラダンの子ら・・・」の後が混乱を招きやすく分かりにくいが、 「ゲルション > ラダン 」> エヒエル > ゼタム&ヨエル」という直系のラインのことを言っている。
この「エヒエルの一族、(つまり)エヒエルの子らゼタムとその兄弟ヨエル」が神殿の宝物庫の責任を負ったという事である。
【司法・行政のネットワーク】6,000人の裁判官が担った「外の務め」の実態
次に「②役人・裁判官: 6,000人」についてである。歴代誌上26章に下記の通り書かれている。
29イツハルに属する者ではケナンヤとその子らが、神殿以外のところでイスラエルのために働く役人や裁判官となった。
30ヘブロンに属する者ではハシャブヤとその兄弟たち、すなわち勇者千七百人が、主に対するすべての務めと王に対する奉仕がなされるように、ヨルダン以西のイスラエルを監視することとなった。
31ヘブロンに属する者ではエリヤが頭であった。ダビデの治世第四十年にヘブロン一族の系図が調査され、彼らの中では、ヤゼル・ギレアドに勇士のいることが分かった。 32そのエリヤの兄弟、勇者二千七百人は家系の長であり、ダビデ王は神と王にかかわるすべての事柄のために、彼らをルベン族、ガド族、マナセの半部族の上に任命した。
ここに書かれているのは、全てケハトの一族である。
まず1段落目であるが、「神殿以外のところでイスラエルのために働く役人や裁判官」とある。
彼らはエルサレムの神殿内部ではなく、イスラエル全土に配置され、行政や司法に従事していたとされる。
地方での裁判や徴税といった実務の性質上、1週間交代でエルサレムへ上る「ローテーション勤務(mishmarot)」には馴染まない職種であったと考えられる。だから、ここではくじを引いて当番を決めたという事が書かれていない。
2段落目ではヘブロンの家系の内、ハシャブヤとその兄弟たちが「主に対するすべての務めと王に対する奉仕がなされるように、ヨルダン以西のイスラエルを監視した」とある。これは具体的には次のように整理される。
【1】「主に対するすべての務め」
各地で行われる礼拝が律法に従っているか、異教の慣習が混じっていないかを監視・指導する。
また、地方の民が取り分けるべき「十分の一税(maaser:マアセル)」などが、正しく神殿やレビ人のために集められているかを監督する。
(*十分の一税[maaser:マアセル]は実は幾つかあります。これは別の記事で改めて解説します)
【2】「王に対する奉仕」
民が王(国家)に対して負う義務(税や労役)の割り当てと徴収の監督などである。
ヨルダン川東西の統治:ヘブロン一族による「宗教行政」と「国家奉仕」の監督
ハシャブヤとその兄弟たちはヨルダン川以西について、これらの責任を負ったことになる(30節)。
他方で同じヘブロンの家系であるエリヤについて、ダビデは「ルベン族、ガド族、マナセの半部族の上に任命した」とある。これはヨルダン川東岸地域にあたる(31節)。
以上「②役人・裁判官: 6,000人」についてまとめると、以下の通りになる。
29節:イツハルの一族、 役人と裁判官。
30節:ヘブロンの一族(ハシャブヤとその親族1,700人)、ヨルダン川西側の管理。
31節:ヘブロンの一族(エリヤとその親族2,700人)、ヨルダン川東岸の管理。
今回はここまでとする。次回、残った以下の2つを扱う。
③門番(守衛): 4,000人
④賛美(奏楽・歌唱): 4,000人
(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)
シリーズ総目次はこちらから。
◉聖なる同期システム:祭司・レビ人・民が織りなす神殿奉仕の全貌【全7記事・完結】
https://note.com/mishnah/n/nca2eb55cd191
本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。
◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)
https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334
全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。
◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス
https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c
(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)
◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次
ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。
