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ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説第12回:聖所における「献香」の秘儀と、大祭司が「主の聖なる者」として民を祝福するまでの全行程(6章3節〜7章2節)

*本記事は、エルサレム第二神殿における日々の供え物を規定するミシュナ『Tamid(タミッド)』篇の第12回逐条解説である。

 今回は、神殿奉仕のハイライトとも言える「献香」の具体的な作法から、大祭司がイスラエルの民を祝福する「bircat kohanim(ビルカト・コハニーム;祭司の祝福)」、神殿内では神聖四文字(YHWH)が本来の発音で唱えられる次第までを網羅。

 トーラ(モーセ五書)の記述と、ルカによる福音書に記された祭司ザカリヤの足跡を重ね合わせ、2,000年前の「律法の現場」に流れていた緊張感と音、そして物理的な所作を「手加減抜き」の専門性で再現する。


はじめに:前回の振り返り


 前回はミシュナ「Tamid」篇5章6節から6章2節に基づき、聖所奉仕の合図となる「シャベルの音」、汚れを負った祭司の招集、およびmenorahの「西側の灯火」の秘儀について解説した。

 主な内容は以下の通りである。

【1】エルサレム中に響く「シャベルの音」(5章6節)

 献香奉仕の準備段階で、一人の祭司がシャベルを入り口と祭壇の間に投げ、大きな音を立てる。この音はエルサレム市内に響き渡るほど大きく、以下の3つの招集合図としての役割を持っていた。

①祭司への合図

 奉仕にあたっていない祭司たちに、聖所に入って礼拝する時間が来たことを知らせる。

②レビ人への合図

 賛美の歌を歌うレビ人たちに、清めmikvehを終えて出て来るように促す。

③maamadの長への合図

 国民の代表であるmaamadの長に対し、汚れを負った祭司たちを集めるよう指示する。

【2】ニカノールの門における「汚れた祭司」の公示(5章6節)

 その日、儀礼的な汚れを負って奉仕に参加できない祭司たちは、ニカノールの門(東の門)に集められた。

 これは、彼らが正当な理由で奉仕を休んでいることを公に示すと同時に、汚れを避けられなかったことへの反省を促す意味があったと考えられている。

【3】聖所内の清掃完遂と「西側の灯火」

 金の祭壇とmenorah((燭台)の担当者は、再び聖所に入り、前の儀式で残しておいた道具を回収する。

①金の祭壇

 1回目の清掃で灰を収めて置いておいた籠(teni:テニ)を回収する。

②menorahと「西側の灯火」

 menorahの燭台の中央にある「西側の灯火」は、他のランプと同じ油量でも翌日まで燃え続けるという伝承があり、神の臨在の証とされていた。

 この灯火は消さずに維持し、午後に他のランプを点火するための種火とする。もし消えていた場合は、外の祭壇から火を取って再点火する。

【4】献香の最終準備(6章2節)

 献香奉仕を担当する祭司は、外の祭壇から持ってきた炭を金の祭壇の上に広げる。

 シャベルの底を使って炭を平らに広げることで、この後に行われる献香で一気に豊かな煙が立ち上るように準備を整える。

 以上のように、神殿奉仕が単なる内部の作業に留まらず、シャベルの音を通じてエルサレム全体やイスラエルの代表団(maamad)と同期するという、国家規模の聖なるリズムであったことが示される。

 上記の内容について不安を感じる方は、以下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説第11回:(副題)――聖所に響く合図の音と、神の臨在を示す『西側の灯火』の秘儀(5章6節〜6章2節)

https://note.com/mishnah/n/nfd009c1ddb49

 今回はその続きである。「Tamid(タミッド)」6章3節から始める。

bazich(バズィーフ)とkaf(カフ)の受け渡し

 香の奉仕を得た祭司はbazich(バズィーフ)の中のスプーン(kaf;カフ)を取り、bazich(バズィーフ)は友人か親戚に渡す 。もしもbazich(バズィーフ)の中にこぼれてしまっていたら、祭司のカップにした手に香を渡す。彼らは彼に助言する 。「あなたの前から始めないように気を付けなさい。あなたが焼かれないように」
 彼は香を置き 、聖所を去る。
 香を献げる者は係の者に言われるまで、それを献げない。「香を献げなさい」。もしそれが大祭司であるなら、係の者は言う。「先生、大祭司よ、香を献げなさい」
 人々は去る。祭司は香を献げる。それから彼自身礼拝して出て行く。

(Tamid 6:3)


 この節では、くじで選ばれた祭司が聖所で香を焚く際の手順と注意点が記されている。

 まず、香の奉仕を得た祭司はbazich(バズィーフ)の中の小さなスプーン状のもの(kaf:カフ)を取り、bazich(バズィーフ)は補助の祭司に渡す。

 本文に「もしもbazich(バズィーフ)の中にこぼれてしまっていたら」とあるのは、香料は中のkafの中に入っているので、「そこからこぼれていたら」という意味である。

 bazichとkafについて、知識が不確かな方は、以下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説第10回:金銀のシャベルの容量差と安息日の制約、sherertz(シェレツ)の死骸を覆う銅のポットの多目的運用(5章4節〜5章5節)

https://note.com/mishnah/n/n48516d829eb8

「焼かれないように」:聖所における単独奉仕とザカリヤの沈黙


 その場合は補助者の祭司が、香を献げる祭司の手のひら(カップ状にした手)に移す。これは、神への供え物を一粒たりとも無駄にしないという敬虔な姿勢の表れである。

 それから補助の祭司は礼拝して聖所を出る。

 ここで周囲の祭司たちは助言する、「あなたの前から始めないように気を付けなさい。あなたが焼かれないように」。これは祭司が金の祭壇に香を置く際、手前から置くと立ち昇る熱い煙や炎で火傷してしまうので、気を付けるようにという事である。

 「香を献げる者は係の者に言われるまで、それを献げない」とあるのは、担当者は自らのタイミングでは献げないことを言っている。

 そして、実際に献げる時、他の祭司たちは皆退出する。担当祭司は1人で香を献げるのである。

 ルカによる福音書1章で、祭司ザカリヤが聖所で天使と会っているが、それはこの1人になった時である。

 これは以下の記事から参照出来る。

◉祭司ザカリアの真実――ミシュナ『Tamid(タミッド)』が明かす「5000分の1」の奇跡と沈黙の祝福

https://note.com/mishnah/n/n6826665720b4

 以上で「Tamid」6章の解説を終わりにする。続いて最終章である7章である。

大祭司の随行とエフォドの肩石、鈴の音による合図

 大祭司が聖所に入った時、3人の祭司が彼に随行する。ひとりは彼の右側、ひとりは左側、ひとりはエフォドの上の石に手をのせる。大祭司が聖所を出る時の足音を聞いたら、その役割の祭司はカーテンを上げる。彼は入り、礼拝し、出て行く。仲間の祭司たちも入り、礼拝し出て行く。

(Tamid 7:1)

 まず大祭司の祭服について確認する。写真を見て欲しい。

大祭司の祭服

 エフォドとは、大祭司が着ているエプロン状のものである。トーラ(モーセ五書)には次のように書かれている。

 6彼らは金、青、紫、緋色の毛糸、および亜麻のより糸を使って、意匠家の描いた模様のエフォドを織り、 7その両端に二本の肩ひもを付ける。 8付け帯はエフォドと同じように、金、青、紫、緋色の毛糸、および亜麻のより糸を使って作る。

(出28:6~8)

 本文の算用数字は節番号である。

 この描写は写真と照らし合わせて納得出来ると思う。

 「エフォドの上の石」については、両肩の上にある石のことである。写真では緑のしるしで囲っている。これについては次を見て欲しい。

 9また、二個のラピス・ラズリを取り、その上にイスラエルの子らの名を彫りつける。 10六つの名を第一の石に、残る六つの名を第二の石に、生まれた順に彫りつける。

(出28:9~10)

 つまり、両肩の上の石にはイスラエル12部族の名が刻まれているという事である。

 献香の後、大祭司が聖所に入る。その時には3人の祭司が随行するが、「ひとりは彼の右側、ひとりは左側、ひとりはエフォドの上の石に手をのせる」とある。3人の内1人は後ろから大祭司の両肩の上にある石に手を置くことになる。

 中に入った大祭司は、聖所で礼拝する。

 「大祭司が聖所を出る時の足音を聞いたら、その役割の祭司はカーテンを上げる」とあるのは、大祭司の祭服には鈴が付いているので、歩くと音がするからである。トーラに次のように書かれている。

 33上着の裾の回りには、青、紫、および緋色の毛糸で作ったざくろの飾りを付け、その間に金の鈴を付ける。

(出28:33)

 祭司が聖所の入口で上げるカーテンについては、次のように書かれている。

 36次に、天幕の入り口に掛ける幕を作る。青、紫、緋色の毛糸、および亜麻のより糸を使ってつづれ織を作りなさい。

(出26:36)

 大祭司が聖所から退出した後、随行していた3人の祭司も聖所内に入る。それから彼らも同様に礼拝を行い、退出する流れである。

 大祭司と同じタイミングで聖所に入り、礼拝するのではないらしい。「Tamid」7章1節については、以上である。

 次節に進む。

神殿入口の12段:五つの祭器具を携えた祭司たちの整列

 彼らは来て神殿入口の段に立つ。最初の者たちは仲間の祭司たち の南側に立つ。彼らの手には5つの祭器具がある。籠(teni)、壺(kuz)、シャベル、スプーン(bazich)、カフ(kaf)とその蓋。

(Tamid 7:2)

 ここは聖所内での奉仕を終えた祭司たちが外に出て、民の前に姿を現す祝福直前の荘厳な場面である。

 まず聖所の入り口には12段の階段があった。下の写真を見て欲しい。

12段の階段

 奉仕を終えた祭司たちは、ここからイスラエルの庭、あるいは女性の庭から見ている民に向かって立つことになる。

 彼らが持っていた祭器具について、簡単に確認する。

①籠(teni): 金の祭壇で用いたもの。

②壺(kuz): menorahで用いたもの。

③シャベル: 外の祭壇からの炭を金の祭壇まで運んだもの。

④スプーン(bazich):大きなスプーン状の祭器具。

⑤カフ(kaf)とその蓋:香料を入れていたもの。bazichの中にはめ込まれる。

 続きである。

bircat kohanim(ビルカト・コハニーム):神殿内と地方における差異

 彼らは国家に一つの祝福を与える、地方を除いて、祭司たちは3つの祝福を唱えるとされる。神殿では一つの祝福である 。
 神殿において、祭司たちは神の御名を書かれている通りに唱える。神殿の外では別の仕方で唱えられる。
 神殿の外では祭司たちは手を上げる。両手を肩の高さまで上げて。神殿においては頭の上まで上げる。大祭司だけは手を額当てよりも上には上げない。

(Tamid 7:2)


 祭司たちはこの12段に立って祝福を唱える。それは民数記6章の祝福であり、この祝福は「bircat kohanim(ビルカト・コハニーム)」と呼ばれる。

 ここでbircat kohanimが記されているが、実際に唱えるのは、祭壇上のtamidを燃やした後である。それは「Tamid」のこの後で出てくる。その積りで以下読んで欲しい。

 bircat kohanimの祝福は、以下の通りである。

24主があなたを祝福し、あなたを守られるように。
25主が御顔を向けてあなたを照らし
あなたに恵みを与えられるように。
26主が御顔をあなたに向けて
あなたに平安を賜るように。

(民6:24~26)

 これに関して、まず「彼らは国家に一つの祝福を与える、地方を除いて、祭司たちは3つの祝福を唱えるとされる。神殿では一つの祝福である」とある。

 分かりにくいが、箇条書きにすると、次のことを言っている。

①地方(神殿の外):1つの節が終わるごとに民が「アーメン」と応える為、3回に分けて唱えられる。

②神殿内:途中で区切らず、1つの連続した祝福として一気に唱えられる。

神聖四文字(YHWH)の本来の発音と額当て(tzitz:ツィツ)への敬意


 「神殿において、祭司たちは神の御名を書かれている通りに唱える。神殿の外では別の仕方で唱えられる」とは、神殿内では神聖四文字(YHWH)を本来の発音で唱え、地方では「アドナイ(主)」という別の読み方に置き換えたというものである。

 次の「神殿の外では祭司たちは手を上げる。両手を肩の高さまで上げて。神殿においては頭の上まで上げる。大祭司だけは手を額当てよりも上には上げない」とは、箇条書きにすると以下のようになる。

①神殿外:肩の高さまで上げて祝福する。

②神殿内:自分の頭の上まで高く上げて祝福する。ただし大祭司だけは、手を額にある「聖なる額当て」よりも高く上げない。これは、神の名が刻まれた額当てに対する敬意を示す為である。

 「聖なる額当て」については、下の写真を見て欲しい。

tzitzit

 緑の丸で囲んだ額当てがそれである。これにはヘブライ語で「コデシュ・ラドナイ」(主の聖なる者)と掘られている。トーラには次のように書かれている。

 36また、純金の花模様の額当てを作り、その上に印章に彫るように「主の聖なる者」と彫りなさい。

(出28:36)

 これの高さよりも手を上げないという事になる。

 今回の解説は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Tamid』法理研究

https://note.com/mishnah/n/ne0f9ce5dd9f8

 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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