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ミシュナ『Shabbat(シャバット)』の法理研究 第14回:「家畜の安息」における装具の法理境界線、及びtumat metに汚れたネックチェーンへの清めの手続き

*本稿は口伝律法ミシュナ第2部『Moed(モエド)』に属する『Shabbat(シャバット)』の第14回目の解説である。

 今回は『Shabbat』5章1節を取り上げ、「家畜の安息」の核心へ踏み込む。出エジプト記23章12節に基づく動物の安息義務において、制御に不可欠な装具と、禁じられた装具の境界線を精査。さらに、RashiとTosafotによる装飾品論争、ネックチェーンが死者の汚れ(tumat met)を受けた場合における、『Parah Adumah(赤い雌牛)』の灰とmikvehでの清めの手続きを詳解する。


前回の振り返り:hatmanah(ハトマナー:保温)の許容物質と5章概論


 前回はミシュナ『Shabbat』4章1節の「保温(hatmanah:ハトマナー)に使用する物質」の具体的選定と、5章の導入である「家畜の安息」と装具の法理について解説していた。

 主な内容は以下の通りである。

【1】保温(hatmanah:ハトマナー)における禁止物質と許可物質

 第12回の記事で扱った「保温の3原則」に基づき、安息日前に鍋を包む際に使用出来る物質の性質が細かく規定されている。

①無条件で禁止される物質

 オリーブや胡麻の「絞りかす」、肥料、塩、漆喰、砂。これらは、単に熱を保つだけでなく「自ら熱を上昇させる性質」があるため、乾湿を問わず使用が禁じられている。

②条件付きで禁止される物質

 藁、ぶどうの皮、毛くず、草。これらは「湿っている時」に熱を上昇させる性質があるため、湿った状態での使用は禁止されるが、乾いていれば許可される。

 しかし自然な状態での湿気が乾燥し、外部的な要因で湿った場合は温度上昇の懸念が無いので、許容される。

③Maimonides、「Shulchan Aruch(シュルハン・アルーフ)」の見解

 Maimonidesは「ぶどうの皮、毛くず、草」は外部的な要因の湿気であっても温度を著しく上昇させることを指摘している。

 「Shulchan Aruch」もこの点で同意見であり、自然発生の湿気であるか、外部的な要因の湿気であるかによって区別していない。

③許可される物質

 衣類、小麦や豆などの収穫物、鳩の羽根、おが屑、良質の亜麻屑。これらは「熱を逃がさない(保持する)」だけの性質であるため、保温に使用出来る。

【2】「家畜・動物の安息」の義務(5章概論)

 出エジプト記23章12節に基づき、安息日には人間だけでなく、牛やロバ、野生動物や鳥に至るまで全ての動物を休ませる義務がある。

①禁止される行為

 動物に仕事をさせること、および動物に「荷物」を背負わせて運ばせることが禁じられている。

②装具と荷物の境界線

 動物を制御するために不可欠な装具(手綱など)を身につけさせて外出することは許可される。しかし、その装具が制御のために「不十分」または「過剰」である場合、それは本来の目的を外れた「荷物(負担)」と見なされ、違反となる。

【3】家畜に負わせてはならない「6つの装具分類」

 ラビたちは、安息日に動物が身につけて外出してはならないものを以下の6つに分類している。

①荷物

 制御とは無関係な物品。

②不十分な装具

 その動物を制御する役に立たないもの。

③過剰で不必要な装具

 制御に必要以上の負担となるもの。

④外れやすい装具

 地面に落ちた際、飼い主が公共の場でうっかり拾い上げて運んでしまう(運搬のmelachahを犯す)恐れがあるもの。

⑤市場用の装具

 通常、市場へ引いていく時のみに使用される特別なもの。

⑥装飾品

 動物を飾るための目的で身につけさせるもの。

 これらの内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Shabbat(シャバット)』の法理研究 第13回:ハトマナー(保温)の許容物質と、第5章「家畜の安息」における装具の法理

https://note.com/mishnah/n/n917c38732fec


ミシュナ『Shabbat』5章1節の法理分析とテキスト構造


 今回はミシュナ「Shabbat」5章1節の本文に入る。

 家畜は何をもって出て行ってよく、何をもって出て行ってはならないのだろうか?ラクダには轡をはめてよく、ヒトコブラクダには鼻輪を付けてよく、リビアのロバには頭絡を付けてよく、馬にはリードチェーンを付けてよい。全てネックチェーンを付けるものは、ネックチェーンを付けてよい。そしてネックチェーンを掴んで引いてよく、私たちはそれらに撒いてよく、それらを浸してもよい。

(Shabbat 5:1)

 まず冒頭に「家畜は何をもって出て行ってよく、何をもって出て行ってはならないのだろうか?」と書かれている。

 ここでの「外出」は、安息日に私的な領域から公的な領域へ出ることを指している。

 律法上、場所や空間は4つの領域に分けることが出来る。安息日に私的な領域から公的な領域に物を運んではならないし、公的な領域から私的な領域へ運ぶことも不可である。これはトーラの次元での禁止事項である。

 公的な領域、または私的な領域からkarmelitへ運ぶこと、またはkarmelitから公的な領域、または私的な領域へ運ぶことはラビたちによって禁止されている。

 これらの内容については以前の記事で詳しく扱った。今の短い復習事項が分からないという方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Shabbat(シャバット)』の法理研究 第1回:4つの領域の法的定義と、トサフォート注釈に基づく「内側に4、外側に4」の反転法理

https://note.com/mishnah/n/ne7f048458d8e

 本節では一定の装具を身に付けた動物が、私的な領域から公的な領域へ動く状況を扱っている。

 その装具がその動物を制御するために「不可欠」であるなら許容される。不必要であるなら動物に仕事をさせることになるし、私的な領域から公的な領域へ物を運ぶ禁止を犯すことにもなる。

 ミシュナ本文で列挙されている物を順番に確認する。

各種家畜(ラクダ・ロバ・馬)における制御具の法的境界線


①「ラクダに対する轡」

 ラクダは比較的おとなしい動物であるため、口に結んだロープだけで制御に十分である。鼻リングのようなより強力な装具は、ラクダにとっては必要以上の「荷物」とみなされ、禁止される。

②「ヒトコブラクダに対する鼻輪」

 これは白い雌のヒトコブラクダを指す。白い雌のヒトコブラクダは普通のラクダよりも足が速く、逃げ出す傾向が強いため、制御には鼻リングのような強力な装具が必要とされる。

③「リビア産のロバに対する頭絡」

 リビア産のロバは他のロバよりも力が強く、より強力な装具を必要とする。

 リビア産のロバは、頭と顎を囲む頭絡(とうらく)を身につけて外出することが許可される。普通のラクダ用のロープでは不十分であり、逆に大人しいラクダに頭絡をつけることは「過剰な荷物」として禁止される。

④「馬に対するリードチェーン」

 馬の口に直接ロープを結びつけるだけでは制御には不十分(外れやすい)であり、それはかえって「荷物」と見なされる。

 馬の場合、首の周りから制御する必要がある。

⑤「ネックチェーンを身につけるすべての動物に対するネックチェーン」

 これには、通常ネックチェーンをつけている猟犬やその他の小型動物が含まれる。

 しかしこの項目で具体的に何が許容されているのか、専門家の意見は分かれている。

ネックチェーンを巡るRashiとTosafotの見解の相違


【Rashiの見解】

 実用性の為だけではなく、通常している装飾の為でもあるなら許容される。通常はしていない装飾を身に付けるなら、荷物と見なされ許可されない。

【Tosafotの見解】

 いかなる装飾品も「荷物」となり、安息日には許容されない。しかしそれが逃げた時に捕まえるための制御に役立つのであれば、身につけることが許可される。

ネックチェーンにおける祭儀的汚れ(tumat met)の受容性


 次に「私たちはそれらに撒いてよく、それらを浸してもよい」についてである。

 この箇所は動物が身につけているネックチェーンが、死体による祭儀的な汚れ(tumat met:トゥマット・メット)を受けた場合の対応を述べている。

 生きている動物は人間以外汚れることはない。しかし動物のネックチェーンは人間が動物を引いて歩くという「人間の用途」のために設計されているので、律法上「人間が使用する道具」と見なされ、死体による汚れの影響を受ける。

 まず「私たちはそれらに撒いてよい」の部分であるが、死体の汚れを清めるには、赤い雌牛(parah adumah:パラー・アドゥマー)の灰を混ぜた「清めの水」を、3日目と7日目に対象物に振りかける必要がある。

 本節のミシュナは、鎖を動物から外すことなく、そのままの状態で水を振りかけてもよいことを教えている。

 この点、水が鎖ではなく動物に先に当たってしまうこと等は心配する必要はない。

 7日目に水を振りかけた後、対象物はmikvehに浸す必要がある。本箇所のミシュナは「それらを浸してもよい」と書いているが、これは動物ごと水に沈めることが許可されていることを示している。

 通常、清めの儀式では水が対象物の全面に触れる必要がある。もし鎖が首にきつく締め付けられていれば、水が届かない場所が生じる恐れがあるが、ここでの鎖は動物が自由に動ける程度に緩んでいることが前提となっているので、そのまま浸しても有効であると見なされる。

移動法理と祭儀的清浄法理の交錯


 結論として、「安息日における動物への装具」と「祭儀的清浄」という別々の法理が、「Shabbat」5章1節で交錯していることになる。

 今回の内容は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を進めるためのご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Shabbat』法理研究

https://note.com/mishnah/n/n96f434acde54


 全記事の目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.2】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.201〜No.300)

https://note.com/mishnah/n/na80e65fb273e

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334

(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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