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Yom Kippur(ヨム・キップール:贖罪日)の法理と構造 15回目:レビ記16章とミシュナ「Yoma」に基づく神殿祭儀の完全復元

*本稿は「ヨム・キップール(Yom Kippur:贖罪日)」の祭儀構造を、旧約聖書(トーラ)レビ記16章と、その実効的解釈を規定する口伝律法ミシュナ「Yoma(ヨマ)」篇の原典に基づき解説するシリーズである。

 今回は15回目であり、最終回。mussafの流れについて確認し、ヨム・キップール当日の神殿祭儀を時系列に沿って完全復元する。


前回の振り返り


 前回はトーラではレビ記16章23~25節までの最難関を確認した。その後の26~29節も大体見ているから、事実上ヨム・キップール当日の祭儀は確認したことになる。

 内容は以下の通りであった。

【1】聖書朗読後の着替えの法理

 「女性の庭」での聖書朗読を終えた後、大祭司は次の奉仕に向けて祭服を着替える。この際、朗読時に何を着ていたかによって手順が異なる。

①白い祭服で朗読した場合

 「手足の洗い→脱衣→mikveh→金の祭服を着用→手足の洗い」の順で行う。

②白いローブ(私物)で朗読した場合

 「手足の洗い→脱衣→mikveh→白いローブを着用→朗読→脱衣→金の祭服を着用→手足の洗い」

【2】レビ記16章の時系列再構成

 トーラ(レビ記)の16章23~25節の記述順序と、実際に執り行われる奉仕の時系列が異なっている。

 ミシュナに基づく時系列は以下の通りである。

①金の祭服への着替え(24節前半)

②大祭司と民の焼き尽くす献げ物(雄羊)の奉仕(24節後半)

③贖罪の献げ物(雄牛と雄山羊)の脂肪の焼却(25節)

④白の祭服への着替えと、至聖所への再進入(23節)

【3】至聖所祭具(カフとシャベル)の回収

 最も重要な点は、「なぜ最後にもう一度、白の祭服に着替えて至聖所に入るのか」という目的の解明である。

 これは以前の奉仕(献香)で至聖所の中に置いてきた「kaf(カフ)」と「シャベル」を回収する為である。

 レビ記16章23にある「衣服を脱いでそこに置き」という記述は、文字通りには解釈されない。

 大祭司は着替える為ではなく、祭具を持ち出すために至聖所に入る。持ち出した後、金の祭服に着替える。

【4】5回にわたる清めの全工程

 大祭司は当日、計5回の浸礼mikvehと10回の手足の洗いを行う。前回の記事で関わるmikvehは以下の通りである。

第3のmikveh

 金の祭服に着替え、大祭司及び民の雄羊の焼き尽くす献げ物を献げる奉仕を行う。

第4のmikveh

 白の祭服に再度着替え、至聖所から祭具を回収する。

第5のmikveh

 最後に金の祭服に着替え、残りの奉仕を完遂する。

 このように、ヨム・キップールの祭儀後半は祭具の回収という実務的必要性に合わせて、厳格な清めと着替えが繰り返される構造になっていた。

 以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉Yom Kippur(ヨム・キップール:贖罪日)の法理と構造 14回目:レビ記16章とミシュナ「Yoma」の構造的相違:白の祭服と金の祭服を巡る着替えの法理及び至聖所奉仕の時系列再構成

https://note.com/mishnah/n/nfea6aace7678

tamid(日毎の焼き尽くす献げ物)とヨム・キップールのmussaf(追加の献げ物)


 残るはmussafをいつ献げるのかという問題である。

 これは複雑な問題であるので、最も標準的な見解のみ紹介する。

 その前に、tamidについて確認する。tamidはヨム・キップールに限らず、ユダヤ暦354日毎日、朝と午後の2回献げる。トーラでは民数記28章1~8節に詳しい。

 tamidは以前シリーズで確認したので、ここでは本文を引用せず、箇条書きで掲載する。シリーズ目次は以下の通りである。

◉祭司による「日毎の奉仕(Tamid)」の完全復元【全13回・完結】――ミシュナが記録する祭儀の法理と祈りの構造

https://note.com/mishnah/n/ne0f9ce5dd9f8

(1)朝のtamid

焼き尽くす献げ物小羊1匹。

小麦粉10分の1エファ、オリーブ油4分の1ヒン、ぶどう酒4分の1ヒン。

(2)午後のtamid

 同上。

 tamidは安息日、祭日、通常の日に関わらず、如何なる日でも献げられる。ヨム・キップールも例外ではない。

 次にmussafである。これは安息日、新月祭、除酵祭、七週祭、Rosh HaShanah(ローシュ・ハシャナー)、ヨム・キップール、仮庵祭に献げるが、内容はそれぞれの日によって異なる(民数記28章~29章参照)。

 ヨム・キップールのmussafについて、トーラには次のように書かれている。

 若い雄牛一頭、雄羊一匹、一歳の羊七匹を焼き尽くす献げ物として主にささげて宥めの香りとする。それらは無傷のものでなければならない。雄牛一頭について、穀物の献げ物としてオリーブ油を混ぜた上等の小麦粉十分の三エファ、雄羊一匹について十分の二エファ、小羊七匹については、一匹につき十分の一エファをささげる。また、雄山羊一匹を贖罪の献げ物とする。

(民29:8)

 本文ではぶどう酒について触れていないが、これも補足すると、以下のようにまとめられる。

(3)ヨム・キップールのmussaf

①焼き尽くす献げ物の雄牛1頭

 雄牛1頭について、小麦粉10分の3エファ、オリーブ油2分の1ヒン、ぶどう酒2分の1ヒンを伴う。

②焼き尽くす献げ物の雄羊1匹

 雄羊1匹について、小麦粉10分の2エファ、オリーブ油3分の1ヒン、ぶどう酒3分の1ヒンを伴う。

③焼き尽くす献げ物の7匹の小羊

 小羊1匹について、小麦粉10分の1エファ、オリーブ油4分の1ヒン、ぶどう酒4分の1ヒンを伴う。

 それが7匹分。

④贖罪の献げ物の雄山羊1匹

 これら(1)~(3)、つまり朝のtamid、午後のtamid、mussafをヨム・キップールの時系列のどこにはめ込むのかが問題になる。冒頭で述べた通り、以下は標準的な見解である。

 ヨム・キップールの祭儀全体を掲示するので、これまでの学びを元に、シミュレーション出来るか各自で確認して欲しい。

完全復元:ヨム・キップール当日における祭儀工程


①灰の一部を祭壇の横に置く(terumat hadeshen:テルマット・ハデシェン)。

②身を清める(1回目)。金の祭服を着る。

③tamidのいけにえを屠る(shechitah、ただし刃を入れるのみ)。

④血を受け、祭壇に振りかける(kabbalah、holachah及びzerikah)。

⑤聖所へ移動し、menorahを整える。

⑥金の祭壇に献香する。

⑦menorahを整える(残りの2つの燭台)。

⑧外に出て、tamidを燃やす。

⑨穀物の献げ物(小麦粉+オリーブ油)を献げる。

⑩chavitinを献げる。

⑪ぶどう酒を献げる。

⑫身を清める(2回目)。白の祭服を着る。

⑬大祭司による、雄牛への罪の告白(1回目)

⑭2匹の雄羊に関するくじを引く。

⑮大祭司による、雄牛への罪の告白(2回目)。

⑯雄牛を屠る。祭壇から炭を取り、至聖所で香を焚く(至聖所に入る1回目)。

⑰至聖所で雄牛の血を振りまく(至聖所に入る2回目)。

⑱雄山羊を屠る。

⑲雄山羊の血を至聖所で振りまく(至聖所に入る3回目)。

⑳雄牛の血を聖所で振りまく。

㉑雄山羊の血を聖所で振りまく。

㉒雄牛の血と雄山羊の血を混ぜる。

㉓混ぜた血を聖所の祭壇の角に塗り、振りかける。

㉔アザゼルの為の雄山羊に告白し、係の祭司に引き渡す。

㉕雄牛と雄山羊の祭壇で焼く部位を準備する。

㉖雄牛と雄山羊のエルサレム郊外で焼く部位を準備する。

㉗トーラを朗読する。

㉘身を清める(3回目)。金の祭服を着る。

㉙大祭司の焼き尽くす献げ物として雄羊を献げる。

㉚民の焼き尽くす献げ物として雄羊を献げる。

㉛至聖所及び聖所で血を振りかけた、贖罪の献げ物(雄牛と雄山羊)の脂肪を祭壇で焼く。

㉜身を清める(4回目)。白の祭服を着る。

㉝至聖所へ入り、kaf(カフ)とシャベルを取る。

㉞身を清める(5回目)。金の祭服を着る。

㊱mussafを献げる。

㊲tamidを献げる。

*午前のtamidと同様に、「いけにえ、穀物の献げ物、chavitin、ぶどう酒」の順番で献げる。

㊳聖所で献香。

㊴menorahを整える。

 以上である。

 最後の㊳、㊴はまだ扱っていない。これに関しては「yoma」に次のように書かれている。

祭儀の完結:至聖所からの生還と大祭司の宴会

 (kafとシャベルを回収した後)彼らは大祭司に金の祭服を持って来る。彼は祭服を着て、手足を洗う。それから聖所に入って午後の献香を献げ、menorahのランプを灯す。彼は手足を洗い、祭服を脱ぐ。彼らは大祭司に個人の衣服を持って来る。彼はそれを着る。彼らは大祭司の家まで同行し、彼は無事に神殿を離れることが出来たことで宴会を催す。

(Yoma 7:4)

 menorahを整えた後、大祭司は手足を洗い、金の祭服を脱ぐ。

 ヨム・キップールの祭儀が終わると、人々は大祭司の家まで付き従う。「無事に神殿を離れることが出来たことで」とあるのは、この祭儀を適切に行わないと、命の危機に晒されると恐れられていたからである。

 「宴会」は当日であるとも、翌日であるとも言われている。

 これでヨム・キップールのシリーズを終了する。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉ 【シリーズ目次】ミシュナ『Yoma』法理研究

https://note.com/mishnah/n/n7222129b891f

 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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