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除酵祭の法理 第6回:ニサンの月16日の「奉納」儀礼と、新穀解禁を巡るミシュナの論争

*ユダヤ教の最高権威であるトーラ(モーセ五書)と口伝律法『ミシュナ』の記述から「除酵祭」の真の姿を解き明かすシリーズ4回目。

 レビ記23章が定める「初穂(omer:オメル)」の献納は、単なる儀式ではなく、新年の収穫を法的に解禁する国家的境界線である。本稿では、ミシュナ『Menachot』を紐解き、一掴みの粉を取り分ける「kemitzah:ケミツァ」の厳密な動作から、ラビ・メイルとラビ・ユダが対立した市場流通の是非までを徹底詳解。

 2,000年前の「律法の現場」における真実の法理を復元する。


前回の復習:国家的企画としての初穂(omer)収穫と精選プロセス


 前回は以下の内容を確認した。

【1】初穂(omer:オメル)の定義と献納のタイミング

 レビ記23章の「初穂」とは大麦を指し、カナンの地に入植した後の掟として定められている。

 レビ記23章の「安息日の翌日」について、口伝律法では「除酵祭の第1日目(15日)」の翌日、すなわちニサンの月の16日と解釈する。

 ニサンの月の16日が安息日に重なった場合でも、トーラがこの日の献納を命じている為、例外的に刈り入れが許可される。

【2】公的セレモニーと「ボエトス派」への対抗

 刈り入れは単なる農作業ではなく、エルサレム近郊の町々から人々が集まる大規模な公的セレモニーとして行われていた。

 日没後、役人が民衆に対し「太陽は沈んだか?」「この鎌か?」「(今日は)安息日か?」など5つの質問をそれぞれ3回繰り返し、民衆も3回「はい」と答える手続きを踏む。

 この公のやり取りは、口伝律法を否定し「安息日の翌日」を字義通り「日曜日」であると主張したボエトス派(サドカイ派に近いグループ)の説を退け、正統な解釈を公示する為のものであった。

【3】神殿での調理と精選のプロセス

 収穫された大麦は神殿へ運ばれ、穀粒が潰れないよう叩いてから、全体に火が通るよう穴の開いたパイプに入れて炒られる。

 大量の収穫物(3セア)から、13回にわたる選別を経て、最終的に「絹のように滑らかで真っ白な粉」(1イッサロン)だけを抽出する。

 精選された後の残りの麦は、神殿の所有物としての聖性を解く「贖い」の手続きを経て、一般市場に開放され誰でも食べられるようになる。

 以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉除酵祭の法理 第5回:国家的企画としての初穂(omer:オメル)収穫と、極微に至る精選

https://note.com/mishnah/n/n3b8799ab63f6

 今日はその続きである。「Menachot」10章4節の最後の部分から始める。

「kemitzah」の法理:祭壇で燃やされる「一掴み」の厳密なる動作

 彼はそのイッサロンに近付き、油と香の中に入れる。それから注いで混ぜ、奉納し、祭壇の近くまで運ぶ。それからkemitzahを行い、それを祭壇の上で燃やす。残りは祭司が食べる。

(Menachot 10:4)


 この作業は夜が明けたニサンの月の16日朝に行う。必ずしも祭司がしなくてはならないものではない。以下のプロセスを述べている。

①祭器具の中に油と香を入れる。香は「levonah(レヴォナ)」と呼ばれる。

②その中に精選した穀物を入れ、その上に油を注ぐ。

③混ぜる。

④更に油を注ぐ。

⑤奉納し、祭壇の近くへ運ぶ。

 「奉納」とは、奉納物を東西南北に動かし、更に上下に動かすようにして行う。全ての方角、天と地を神が支配しておられることを表している。

⑥kemitzahを行い、それを祭壇の上で燃やす。残りは祭司が食べる。

 「kemitzah(ケミツァ)」とは真ん中の3本の指を手のひらの上につくまで伸ばして、ポケットを作る。それから手を穀物の中に入れ、突っ込み、指のポケットを満たす。

 溢れた分は親指と小指で落とす。

 22リットルを超える大麦を収穫し、最終的に燃やすのはこれだけの分量になる。残りは祭司たちが食べることになる。

レビ記23章の規定:雄羊・小麦粉・ぶどう酒の随伴献げ物


 この穀物の献げ物は単独で献げられるものではない。次のものが一緒に献げられる。

 12この初穂を差し出す日には、傷のない一歳の雄羊を焼き尽くす献げ物として主にささげる。 13それと共に穀物の献げ物、すなわち、十分の二エファの上等の小麦粉にオリーブ油を混ぜたものを、燃やして主にささげる宥めの香りとし、更に四分の一ヒンのぶどう酒をぶどう酒の献げ物としてささげる。

(レビ23:12~13)

 以下、箇条書きにまとめる。

①1歳の雄羊の焼き尽くす献げ物

②小麦粉10分の2エファ

 通常、焼き尽くす献げ物の雄羊と一緒に献げる穀物の献げ物としての小麦粉は、10分の1エファである。

 ここでは通例よりも多く献げることが求められている。

③ぶどう酒4分の1ヒン

 これは通例通りである。

 以上の①~③が、omerと共に祭壇で献げられる。トーラの次節に進む。

新穀の市場流通:ラビ・メイルとラビ・ユダによる「不注意な摂食」の解釈相違

 14この献げ物をあなたたちの神にささげるその日までは、あなたたちはパン、炒り麦、あるいはひき割り麦を食べてはならない。これはあなたたちがどこに住もうとも、代々にわたって守るべき不変の定めである。

(レビ23:14)

 この節は祭壇でomerを献げるまでは、新しい年の収穫物を食べてはならないことを言っている。従ってニサンの月の16日の献げ物前までは、前年の収穫を食べていることになる。

 これについて口伝律法ミシュナには次のように書かれている。

 omerが献げられた後、彼らは出て行って、エルサレムの小麦粉、パンの市場がいっぱいになっているのを見る。それはラビたちの考えには反している。これらはラビ・メイルの言葉である。ラビ・ユダは言う、「それはラビたちの考えに一致している。」

(Menachot 10:5)

omerとshtei halechem(シュテイ・ハレヘム):一般社会と神殿における「解禁」の二段階構造


 これはomerの献げ物が行われた直後の市場の様子と、それに対するラビたちの解釈の相違が述べられている。祭儀の直後に新年の献げ物が売りに出されているということは、それ以前に収穫し、準備をしていたことを示すものである。

①ラビ・メイルの主張

 ラビ・メイルは、これは本来望ましくない行為であると考える。収穫する段階で、その幾らかでも不意に口に入れることもよくある。

②ラビ・ユダの主張

 対照的にラビ・ユダは、この状況は法的に問題ないと見なしている。新年の収穫を不注意で食べるということは、ありそうにないというのが根拠らしい。

 「Menachot」の次節には次のように書かれている。

 omerは全国で新年の収穫を許されるものとし、shtei halechemは神殿で許されるものとする。

(Menachot 10:6)

 最初の文章は今述べたことと同じことを言っている。omerを献げた後、新年の収穫が許される。

 次の「shtei halechemは神殿で許されるものとする」については、まずshtei halechem(シュテイ・ハレヘム)を理解する必要がある。トーラには次のように書かれている。

 15あなたたちはこの安息日の翌日、すなわち、初穂を携え奉納物とする日から数え始め、満七週間を経る。 16七週間を経た翌日まで、五十日を数えたならば、主に新穀の献げ物をささげる。 17各自の家から、十分の二エファの上等の小麦粉に酵母を入れて焼いたパン二個を携えて、奉納物とする。これは主にささげる初物である。

(レビ23:15~17)

 冒頭の「安息日の翌日」とは上述のニサンの月の16日を指す。この日は「初穂を携え奉納物とする日」であり、それについては既に述べた。

 この日を第1日として「満七週間を経る」。

 「七週間を経た翌日まで、五十日を数えたならば、主に新穀の献げ物をささげる」とは、50日目に再び献げ物をするという事である。

 この50日目が七週祭であり、新約聖書で五旬祭と呼ばれている日である。

 献げ物の内容が次節に続く。「十分の二エファの上等の小麦粉に酵母を入れて焼いたパン二個」(17節)である。これがshtei halechem(シュテイ・ハレヘム)である。

 新年の収穫の一般的な消費はomerを献げた後許された。神殿で新年の収穫を献げるのは、このshtei halechemを献げた後に許される。

 以上の内容を下にまとめる。

①ニサンの月の16日の祭儀

 新年の収穫が許される。

②七週祭

 新年の収穫を神殿で献げることが許される。

 以上で除酵祭についての本シリーズの解説を終えた。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉三大祭りの法理学全説:トーラとミシュナから復元する過越祭・除酵祭(Pesach:ペサハ)、七週祭(Shavuot:シャヴオット)、仮庵祭(Succot:スコット)(全18記事・完結)

https://note.com/mishnah/n/n8fa728c36e30


 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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