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reshit hagez及びzeroa, lechayayim ve-kevah:ミシュナ『Chullin』に基づく祭司の権利

*本稿では、旧約聖書(タナハ)申命記18章3〜4節に規定された祭司の権利「reshit hagez(羊毛の初物)」および「zeroa, lechayayim ve-kevah(前脚、両頬、胃)」について、口伝律法ミシュナ第5部『Kodashim』の『Chullin(フーリン)』第11章の記述を軸に詳細なハラーハー的解説を行う。

 Beit ShammaiとBeit Hillelによる頭数論争、ユダとガリラヤにおけるセライム単位の換算、および家畜の聖別(maaser beheimah)との適用差異など、既存の日本語文献では看過されてきた専門領域を網羅。ミシュナ全63巻の伝統的註釈に基づき、形骸化した聖書解釈を排した「律法の現場」の真実を提示する。


はじめに:祭司に与えられる奉納物の体系的総括


 前回は祭司に与えられるものの5番目、maaser beheimahについて扱った。今回reshit hagez(レシート・ハゲズ)とzeroa, lechayayim ve-kevah(ゼロア・レハヤイム・ケヴァ)を扱い、祭司に対して与えられるものの記事が完成するので、重複する部分もあるが、この冒頭でこれまで扱った項目をまとめる。

農作物・家畜・初子の聖別に関する5つの規定(復習)


【1】bikkurim(ビックリーム):土地の初物

 聖地の豊かさを象徴する「7つの産物」(小麦、大麦、ぶどう、いちじく、ざくろ、オリーブ、ナツメヤシ)の、その年最初の最上の実りを神殿へ奉納する義務である。

 土地を正当に所有する者のみに義務があり、エルサレムへ集団で参詣し、祭壇の前で先祖の歴史に関する「告白」を唱える特別な儀礼を伴う。奉納後は祭司の完全な私有財産となる。

【2】terumah(テルーマー):農作物の奉納物

 穀物、ぶどう酒、油などの収穫物から祭司のために取り分けるものである。

 聖書に具体的な割合はないが、ラビの規定により40分の1(気前の良い者)から60分の1(最低限)が目安とされている。

 聖なるものとされ、祭儀的に清い状態の祭司とその家族、所有する奴隷のみが食べることが出来る。必要なものを取り分けた後の通常の作物(chullin;フーリン)と混ざった場合、101対1以上の割合でchullinが多くなければ、全体が食用不可(祭司専用)となる。

【3】challah(ハッラー):パン生地の聖別

 5種類の穀物(小麦、大麦、スペルト、オート、ライ)でパンを作る際、焼く前の「捏ねた生地」の一部を取り分ける日常的な義務である。

 一定以上の分量(約1.2〜1.6kg以上)を扱う場合に義務が生じ、家庭用では24分の1、商売用では48分の1を取り分ける。

 日常の調理の中に「聖別」を取り入れ、経済活動が神の秩序内にあることを自覚させる役割があります。

【4】bechorot(ベホロット):初子の聖別

 人や家畜の「最初に胎を開いた雄(初子)」を神のものとして聖別する掟である。この掟はエジプト脱出の際、イスラエルの初子が救われた記憶に基づく。

 生後30日生存した男子が対象で、父親が祭司に銀5シェケルを支払うことで「贖い(買い戻し)」を行う。

 牛、羊、山羊などの清い動物は祭司に渡され、祭壇で献げられた後に祭司の食用となる。kosherでないろばの場合は、代わりに小羊を祭司に渡して贖うか、断首しなければならない。

【5】maaser beheimah(マアセル・ベヘマー):家畜の群れの「十分の一」を聖別して神(祭司)に献げるもの。

 レビ記の規定に基づき、牧者の杖の下をくぐる10頭目の個体が自動的に「聖なるもの」となる。選別の際、その個体の良し悪し(傷の有無など)を意図的に選んではならない「無作為性の原則」が守られる。

 牛、羊、山羊が対象である。律法上、羊と山羊は同じ「seh(セー)」という区分のため合算して数えることが出来るが、牛を羊・山羊と一緒に数えることは出来ない。

 家畜の年度の区切りであるエルールの1日を境に、「新しいもの(今年生まれたもの)」と「古いもの」を混ぜて数えることは禁じられている。

 また、牧者が管理できる範囲として、16ミル(約16キロ)以内の領域にいる家畜が選別の対象となる。

 家畜を囲いに入れ、1匹ずつしか通れない狭い出口から出す。順に出てくる個体を数え、10番目の個体に杖先の赤い染料で印を付け、「これがmaaserである」と宣言する。

 農作物の奉納物とは異なり、土地に結びついた義務ではない為、聖地の内外を問わず、また神殿が存在しない時でも適用される。

 雑種、致命傷を負っているもの(tereifah)、帝王切開で生まれたもの、生後8日未満の個体などは対象から除外される。

 一度maaserとして聖別された個体は、他のものと取り替えたり、買い戻したりすることは出来ない。

 以上の内容に不安を感じる方は、記事の末尾のシリーズ目次から確認して欲しい。

reshit hagez(レシート・ハゲズ):羊毛の初物に関する法規


 今日は最初に、祭司に与えられるものの6番目reshit hagez(レシート・ハゲズ)について扱う。まずは旧約聖書の最高権威であるトーラから引用する。

 3祭司が民から、牛にせよ羊にせよ、それをいけにえとしてささげる者から受け取る分は次のとおりである。肩と両頬と胃の部分は祭司に与えられる。 4穀物、ぶどう酒、オリーブ油の初物および羊の毛の初物も祭司に与えられる。

(申18:3~4)

 最後の「羊の毛の初物」がreshit hagezになる。

 これについては、口伝律法ミシュナ「chullin」に詳しく書いてある。

 初物である羊毛を与える掟は聖地にも、異邦人の土地においても適用される、神殿のある時にも、無い時にも、聖別されていないものに適用されるが、聖別されたものには適用されない。・・・(中略)・・・ reshit hagezは羊だけに関わり、羊が多い場合に限る。

(Chullin 11:1)

 まず前半部分について、「聖地・異邦人の土地を問わず適用される」という法意は、前回のmaaser beheimahについても同じであった。農作物に関わる掟は基本的に聖地のみに関わるが、reshit hagezは所有している家畜に関わる。

 そこで居住地は問題にならず、神殿時代か否かにも関わらない。次にどの程度の規模の家畜から、祭司への義務が生じるかを扱う。次のように書かれている。

 どのくらいの数が多いと言えるだろうか?Beit Shammaiは言う、「2匹である、次のように書かれている。『羊二匹の命を救いうるのみ。』(イザ7:21)、Beit Hillelは言う、「5匹である、次のように書かれている。『料理された羊五匹。』(サム上25:18)」

(Chullin 11:2)

 読みにくい箇所であるが、まとめると以下のようになる。

①Beit Shammaiの見解: 2頭から

 「その日が来れば人は子牛一頭、羊二匹の命を救いうるのみ」(イザ7:21)という箇所を元に、2匹いれば「群れ(tzon:ツォン)を構成すると主張する。

②Beit Hillelの見解: 5匹から

 サムエル記上25章18節の原文を解釈する中で、5匹について掟の実行を構成することを根拠とする。

 数については、この5匹がhalachahとされる。次に分量である。

 ラビ・ドサ・ベン・ホルキネスは言う、「5匹の羊で、それぞれから1マネと2分の1取れるなら、初物の規定に従う。」しかしラビたちは言う、「5匹の羊で、如何なる量でも。」

(Chullin 11:2)

 これは以下のようにまとめられる。

①ラビ・ドサ・ベン・ホルキネスの見解

 5匹の羊であり、かつぞれぞれから1.5マネ(約600〜750g相当)取れる場合に義務を負う。これは祭司に取り分けられるに先立ち、最低限の分量が取れることを条件とするものである。

 痩せた羊や毛の少ない羊では義務が生じないことになる。

②その他のラビたち

 5匹いれば上記の条件は無い。

 この見解がhalachahであるようだが、次の条件は守らなくてはならない。

 私たちはどのくらい与えなくてはならないだろうか?ユダでは5セライム、それはガリラヤでは10セライム、脱色した後、汚れていないものを、-それから小さな服を作ることが出来るには十分な程度を。-次のように書かれている。「羊の毛の初物も祭司に与えられる」(申18:4)。-贈り物として、十分な量であるべきである。

(Chullin 11:2)

 「ユダでは5セライム、ガリラヤでは10セライム」という表記の相違は、地域による通貨単位の価値が異なっていることから生じており、両者は同じ絶対的な分量を表しているらしい。

 この分量は、祭司の祭服の中で最も小さい部分(飾り帯)を作るのに必要な最低限の量になる。

 「脱色した後、汚れていないものを、-それから小さな服を作ることが出来るには十分な程度」とは、刈り取ったばかりの羊毛には、泥や脂、ゴミが混じっている。この泥や脂、ゴミを除去し、クリーニングした後の状態で「小さな服」が作れる分量を確保しなければならないと解釈される。

 次の点に注意して欲しい。

 「羊毛の初物は羊だけに関わり、羊が多い場合に限る」(再掲 Chullin 11:2)

 つまり山羊はreshit hagezに関わらないことになる。この区別は珍しいものと思われる。

 次にzeroa, lechayayim ve-kevah(ゼロア・レハヤイム・ケヴァ)について解説する。まずはトーラから。

zeroa, lechayayim ve-kevah:家畜の「贈り物(matanot)」

 3祭司が民から、牛にせよ羊にせよ、それをいけにえとしてささげる者から受け取る分は次のとおりである。肩と両頬と胃の部分は祭司に与えられる。 4穀物、ぶどう酒、オリーブ油の初物および羊の毛の初物も祭司に与えられる。

(再掲申18:3~4)

 zeroa, lechayayim ve-kevah(ゼロア・レハヤイム・ケヴァ)はreshit hagez(レシート・ハゲズ)と同じ箇所に書かれている。

 zeroa, lechayayim ve-kevahとは、トーラ本文の3つの部位をそのまま並べたものである。

①zeroa

 前脚のこと。

②lechayayim

 顎の部分。

③kevah

 (反すう動物の第4の)胃のこと。

 ユダヤ教徒は家畜を屠る時、これらの部位を祭司に与えなくてはならない。ミシュナにおいては、この3つの部位を「贈り物(matanot:マタノット)」と呼んでいる。

 祭司に与えられるものは一般的に聖性を持っており、祭司以外が食べることが出来ない。しかしmatanotは聖性を持っておらず、誰が食べてもよい。

 「Chullin」11章に次のように書かれている。

 初物である羊毛を与える掟は聖地にも、異邦人の土地においても適用される、神殿のある時にも、無い時にも、聖別されていないものに適用されるが、聖別されたものには適用されない。

(Chullin 11:1)

 所有している家畜に関わる掟であるので、やはり居住地は問題にならない。神殿時代か否かも問われない。

 同じく「chullin」11章1節の次の箇所に進む。これはzeroa, lechayayim ve-kevahの掟と冒頭のreshit hagezの掟を比較したものである。

reshit hagezとmatanotの比較分析および結論

 前足、顎、胃についての掟が羊毛の初物に優るのは、前足、顎、胃についての掟は牛や羊、山羊に関わることであり、その多少は問題にならない。

(Chullin 11:1)

 zeroa, lechayayim ve-kevahの掟は牛、羊、山羊に関わる。しかも何頭、何匹所有しているかは問題にならない。

 これに対してreshit hagezは羊にしか関わらず、5匹からとされる。

おわりに:日本語圏における聖書学・ミシュナ研究の再構築に向けて


 以上で祭司に与えられるべきものの全てを扱った。全能の神がこの奉仕を受け取ってくださり、人類への怒りをなだめて下さる一助になればと願うばかりである。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉聖別と奉納の法理:ミシュナが解き明かす「祭司の取り分(matanot kehunah:マタノット・ケフナ)」と聖なる生活秩序の全貌

https://note.com/mishnah/n/nb10ab99a02a4

 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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