見出し画像

tzaraat(ツァラアト)の本質的定義 第4回:レビ記13章における隔離規定の構造的分析 ― bohak(白皮症)との峻別および城壁外隔離のハラハー的意義

*本稿では、レビ記13章38節以降に基づき、tzaraat(ツァラアト)と混同されやすい変色「bohak(ボハク)」の峻別、および前頭部・後頭部疾患におけるhalachah(ハラハー)的判定基準を厳密に定義する。

 更に申命記24章8節の禁止規定から、罹患箇所の外科的除去が清めのプロセスを無効化する法的根拠を解説。荒野の空間概念を神殿時代のエルサレム城郭構造に対応させ、列王記下における「4人のmetzora」の行動原理を律法的視点から再構築する。


前回の総括:shechin(炎症)・michvat esh(火傷)・netek(白癬)のhalachah的判定基準


 前回は以下の内容を確認した。

【1】shechin(シェヒン:炎症)とmichvat esh(ミフヴァト・エシュ:火傷)の判定

 これらは、傷口が治り始めて「かさぶた」が形成された段階で判定の対象となる。

 通常の皮膚に現れるしるしは最大2週間の隔離が必要であるが、shechinやmichvat eshの跡に現れるしるしの場合は、1週間のみの隔離で判断が下される。

 1週間の隔離後に、患部が広がるか、白い毛が現れたりしたら、tzaraatと判定される。

【2】netek(白癬)の判定(頭部と顎)

 頭や顎の毛が抜ける症状で、他のtzaraatとは異なり皮膚の色よりも「毛の状態」が重視される。

 禿げているが、周囲の毛は普通である。

 患部に「細く黄色い(金色の)毛」が2本以上生えている場合、汚れていると見なされる。

 逆に「黒い毛」が2本生えていれば、たとえ金色の毛があっても治癒の兆候であり、清いと判定される。

 1回目の隔離の後でも判断が難しい場合は、患部の周囲を(2本の毛を残して)剃り、さらに1週間隔離して広がりを確認するというプロセスが踏まれる。

【3】共通の面積基準「gris(グリス)」

 tzaraatと診断されるための最小面積は、「gris(シチリアのレンズ豆)」の大きさと定義される。これは、正方形の中に36本の毛が生える程度の広さを指し、この基準は家屋や衣類のtzaraatにも準用される。

 以上の内容は、全く医学的な診断ではなく、あくまで口伝律法(ミシュナ)に基づいた「霊的なしるしの状態」を判別するためのハラハー(halachah)的基準である。

 以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉tzaraat(ツァラアト)の本質的定義 第3回:レビ記13章によるshechin(炎症)、michvat esh(火傷)、netek(白癬)のハラハー的定義と判断基準の相違

https://note.com/mishnah/n/nab64bc7a8ada

bohak(白皮症)とbaheret(ツァラアト)の定義的差異 ― レビ記13章38~39節の再解釈


 今回はその続きである。レビ記13章38~39節から引用する。

 38男であれ、女であれ、皮膚に白い疱疹(beharot;ベハロット)ができたならば、 39祭司はその個所を調べる。その疱疹(beharot)がにぶい白色ならば、それは白皮症(bohak;ボハク)が皮膚に広がっているのであって、その人は清い。

(レビ13:38~39)

 まず「疱疹」という訳語に気を付けて欲しい。レビ記の冒頭ではbaheretの訳語として「疱疹」という単語が使われていた。

 baheretはtzaraatの一種である。

 38~39節の「疱疹」はbaheretではない。beharot(ベハロット)である。baheretと似ているが、これは絶対に混同してはならない。

 beharotはtzaraatではない、皮膚の白い変色である。

 その皮膚の状態はbohakと呼ばれるが、tzaraatではない。そこで隔離するまでもなく、清いとされる。

 続きである。

前頭部、後頭部の禿げにおけるtzaraat判定:毛の状態によらない身体基準の適用

 40もし、頭部の毛が落ちて、後頭部がはげても、その人は清い。 41もし、前頭部の毛が落ちて、そこがはげても、その人は清い。 42しかし、前頭部であれ、後頭部であれ、はげたところに赤みがかった白い症状が出たならば、前頭部、後頭部を問わずそれは重い皮膚病(tzaraat)である。 43祭司はそれを調べ、皮膚に出る重い皮膚病に似た赤みがかった白い湿疹(seet)の症状が前頭部、あるいは後頭部に生じているならば、 44その人は重い皮膚病(tzaraat)にかかっており、汚れている。祭司はその人に「あなたは確かに汚れている」と言い渡す。頭部にこの症状が出ているからである。

(レビ13:40~44)

 この箇所の判断基準については、実は既に学んでいる。

 人が前頭部あるいは後頭部、もしくは髭の箇所で全ての毛を失った時、新しく禿げた部分は身体の他の部分と同じように扱われる。

 netekの場合は、周りが毛に囲まれていたが、ここでは患部の辺りの全ての毛が抜けている。

 普通の皮膚の変色の対応は、レビ記13章1~8節までで学んだ。それに従って判断すればよい。

 言い換えると通常のtzaraatのルールに従うだけなので、白さと面積の拡大で判定する。異なる点は、白い毛の有無が基準の1つにならない事である。

 色については、復習までに下に再掲しておく。

(1)seet― sapachat

(2)baheret ― sapachat

 主要な症状が2つ(seet、baheret)であり、それぞれのサブカテゴリーとしてsapachatがある。合計4つのあり方である。

 「赤み」(43節)は典型的な症状として出るという事であり、tzaraatを宣言するの為の絶対条件ではない。

 続きである。

metzora(ツァラアト患者)の行動制限と霊的背景:トーラ学習の許容と外科的除去の禁止

 45重い皮膚病にかかっている患者は、衣服を裂き、髪をほどき、口ひげを覆い、「わたしは汚れた者です。汚れた者です」と呼ばわらねばならない。 46この症状があるかぎり、その人は汚れている。その人は独りで宿営の外に住まねばならない。

(レビ13:45~46)

 これについては既に触れた。ここでは先に触れなかったことのみ解説する。

 metzoraは人に挨拶することを禁じられる。しかしトーラを学び、論じることは許される。

 metzoraは人々に近寄らないように自ら警告する。自分の汚れが移らないようにする為である。しかしこれは同時に、人々が自分の為に祈るように知らせている目的もある。

 「この症状があるかぎり、その人は汚れている」について、その箇所を外科的に取り除くことは認められない。

 トーラには次のように書かれている。

 重い皮膚病(tzaraat)については、細心の注意を払い、すべてレビ人である祭司が指示するとおりに行いなさい。わたしが彼らに命じたとおり忠実に守りなさい。

(申24:8)

 これを受けてラビたちは、tzaraatが意図的に除去された場合、清めの式に進むことは出来ないと定めた。

 「宿営の外に住まねばならない」について、荒野において宿営は3つに分けられる。

①臨在の幕屋とその敷地

 後代の神殿の敷地に相当する。

②レビ族の幕屋。臨在の幕屋の敷地を取り巻いている。

 後代の神殿の丘と思われる。

③その他のイスラエル

 後代のエルサレムの城壁内にあたる。

 一般に汚れを帯びている者は、臨在の幕屋の敷地への立ち入りが禁じられる。

 metzoraの場合、全ての幕屋に入ることが出来ない。従って神殿時代においては、例えばエルサレムの城壁の外に出て生活しなくてはならない。

 この具体的な場面を聖書の物語から見てみよう。

「宿営の外」の空間的再定義:神殿時代のエルサレム城壁外への適用と列王記下の事例

 24その後、アラムの王ベン・ハダドは全軍を召集し、攻め上って来て、サマリアを包囲した。 25サマリアは大飢饉に見舞われていたが、それに包囲が加わって、ろばの頭一つが銀八十シェケル、鳩の糞四分の一カブが五シェケルで売られるようになった。

(王下6:24~25)

 アラムの王が北イスラエルに攻め込み、サマリアを包囲した場面である。

 サマリアはその頃飢饉に見舞われていたが、その上敵に包囲され、餓死以外の見通しが立たなくなっている。

 3城門の入り口に重い皮膚病を患う者が四人いて、互いに言い合った。「どうしてわたしたちは死ぬまでここに座っていられようか。 4町に入ろうと言ってみたところで、町は飢饉に見舞われていて、わたしたちはそこで死ぬだけだし、ここに座っていても死ぬだけだ。そうならアラムの陣営に投降しよう。もし彼らが生かしてくれるなら、わたしたちは生き延びることができる。もしわたしたちを殺すなら、死ぬまでのことだ。」 

(王下7:3~4)

 サマリアの城門の外にtzaraatを宣言され、町に入れない者が4人いた。彼らはアラムに投降する以外に生きる道がないと決断する。

 この場面にあるように、tzaraatは死者同然であるが、彼ら同士は協力することが認められているとも言われる。

 今回の内容は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Negaim』法理研究

https://note.com/mishnah/n/nb47b19971706

 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c

(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

いいなと思ったら応援しよう!