偏愛音楽。 ジャズとボサノヴァ。
「偏愛音楽。」の65回目はジャズとボサノヴァ。
昔々のことではありますが、一応山形ブラジル音楽協会会長を務めさせていただいている僕に「ボサノヴァはアメリカが発祥である」と言い張ってひかない人がおりました。もちろん僕は怒ったり怒鳴ったりはせず、「ボサノヴァはブラジルで生まれた音楽ですよ」と優しく微笑んで教えてあげましたが、それほどにボサノヴァはジャズに、特に米国のジャズに当時大きな影響を及ぼしたわけで。バカな奴がそう思うのはある意味しょうがない部分もあります。
そしてこういう話を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。「ボサノヴァを作ったのはバート・バカラックだ、とディオンヌ・ワーウィックが言った」と。これについては誤解であるという説が有力で、なぜそういう誤解が生じたのかということに関してChatGPTによると、
・ワーウィックがバカラックの音楽をボサノヴァのようだと形容した。
インタビューなどで、「彼の音楽にはボサノヴァのような感覚がある」などと発言したのを、記者やファンが誤って引用したケース。
・英語のニュアンスの誤訳
英語で “He invented his own kind of bossa nova” (彼は独自のボサノヴァを作った)というような発言をしたとすれば、それが「ボサノヴァを発明した」と誤って伝わった可能性。
・当時のアメリカ音楽業界での“bossa nova風”の誇張
1960年代前半のアメリカでは、ボサノヴァが流行していたため、プロモーション的に“バカラック風ボサノヴァ”と紹介されることがあった。
などという説があるそうです。要するにそれだけボサノヴァが当時の米国の音楽に大きな影響を与えていたという証左なのだと思います。ジャズの一つのモチーフとしてボサノヴァが演奏された時代があったわけです。
前置きが長くなってしまいましたが。今回はその、ボサノヴァが米国のジャズ・シーンで注目を集め一種のブームとなっていった時期の、ジャズ・ミュージシャンたちのジャズ・ボッサ〜サンバのアルバムをセレクトしました。もちろん基本的にはボサノヴァやサンバの形式を借用したジャズなのですが、この当時ならではの感覚があって、そういうものだと認識して聴けば素敵な作品もたくさんあります。まあ全体的には打楽器の音が軽すぎる感じもありますが。
今回も10枚のアルバムを選びました。各アルバムから2曲ずつ選んだプレイリストを付しています。また各々に簡単なコメントもつけてありますのでよろしければご覧になってください。
*現在までの「偏愛音楽。」はこちらのマガジンでご覧いただけます。
*見出し写真はGeminiで作った「アメリカにおけるジャズとボサノヴァ」をイメージした写真です。もっともらしいですね。

Bobby Hackett & Billy Butterfield - Bobby/Billy/Brasil

コルネット奏者のBobby Hackett(ボビー・ハケット )とトランペット奏者のBilly Butterfield(ビリー・バターフィールド)の共演作で、1968年のリリース。ジャズ・スタンダードを、ボサノヴァのリズムとアレンジで演奏した作品です。エレガントで心地よい、ソフトなサウンドが特徴で、「隠れ名盤」として評価されることも。ブラジルからLuiz Henrique(ルイス・ヘンリケ: ギター、ヴォーカル)、Sivuca(シヴーカ:アコーディオン、ヴォーカル)が参加。メロウでソフトな好盤。
Bud Shank - Bossa Nova Jazz Samba

フルート/アルト・サックス奏者のBud Shank(バド・シャンク )と、ピアニスト/アレンジャーのClare Fischer(クレア・フィッシャー)が共演した、1962年リリースの名盤。米国人ジャズミュージシャン二人が、ボサノヴァ・ブームの初期に、ブラジル音楽の要素を取り入れて制作した作品。バド・シャンクのクールで柔らかなサックスやフルートと、クレア・フィッシャーによる洗練されたピアノが絶妙にマッチ。打楽器の音の軽さはご愛嬌。
Cal Tjader - Cal Tjader Plays The Contemporary Music of Mexico & Brazil

Cal Tjader(カル・ジェイダー)が、1962年に発表したスタジオ・アルバム。プロデューサーにCreed Taylor、Cal Tjaderのヴァイブに加え、ギターにLaurindo Almeida、ピアノとアレンジにClare Fischer。当時のメキシコとブラジルの現代音楽、特に流行し始めていたボサノヴァに焦点を当てた作品です。クールなヴァイブのサウンドに、柔らかな色彩感のアレンジが美しい心地よい。
Dave Mackay & Vicky Hamilton - Dave Mackay & Vicky Hamilton

NY生まれの盲目のピアニスト、Dave Mackay (デイヴ・マッケイ)と女性ジャズ・ヴォーカリスト、Vicky Hamilton(ヴィッキー・ハミルトン)によるデュオ。本作は1969年のデビュー・アルバム。VickyのキュートなヴォーカルとDaveのジェントルなヴォーカル、そしてジャズ・サンバ的なサウンドによるスタイリッシュな音楽です。Vicky Hamiltonは1971年に白血病のため亡くなり、デュオはわずか2年で活動を終えたそうです。
Duke Pearson - It Could Only Happen With You

Duke Pearson(デューク・ピアソン:ピアニスト、作曲家、アレンジャー)の、ブルーノートおける最後のリーダー・アルバムにして、生涯最後のリーダー作(1971年に収録)。晩年傾倒したボサノヴァ/ブラジリアン・ジャズで、メロウなリズムとエレピの音色が心地よい、洗練されたサウンドです。Flora Purimがヴォーカルで参加。またHermeto Pascoalがフルート、ギター、ベースで参加し、演奏に色彩感を与えています。
Eydie Gormé - Blame It On The Bossa Nova

Eydie Gorme(イーディ・ゴーメ)の1963年のアルバムです。1960年代初頭のアメリカでのボサノヴァ・ブームを背景にして、タイトル曲をはじめとする、ジャズ・スタンダードやボサノヴァの名曲が収録されています。ボサノヴァのリズムを取り入れつつも、Eydie Gormeの明快で力強いヴォーカルとMarion Evansによるオーケストラのポップなアレンジが加わり、幅広いリスナーに受け入れられました。
Herbie Mann with Tamiko Jones - A Man And A Woman

ジャズ・フルートの第一人者、Herbie Mann(ハービー・マン)と、母親が日本人でハスキーかつキュートな歌声を持つ女性シンガー、Tamiko Jones(タミコ・ジョーンズ)の1967年のアルバム。ビートルズ、ボサノヴァ、ソウルなど、当時のヒット曲をジャズ/ボサノヴァ〜ラテン風味のアレンジで。なんとJoe Zawinul(ピアノ)、Roy Ayers(ヴィブラフォン)、Gary Burton(ヴィブラフォン)なども参加。
Joanie Sommers - Softly, The Brazilian Sound

Joanie Sommers(ジョニー・ソマーズ)の1964年のアルバム。当時アメリカではボサノヴァ・ブームの真っ只中。Laurindo Almeida(ローリンド・アルメイダ)がギター、編曲、指揮でこの音楽をサポート。Joanie Sommersの可憐でハスキーな囁くようなヴォーカル、Laurindo Almeidaによる繊細でラウンジーなブラジリアン・サウンドが融合されている。純粋にヴォーカル・アルバムとしての魅力が横溢した作品です。
Lalo Schifrin - Bossa Nova New Brazilian Jazz

Lalo Schifrin(ラロ・シフリン)が映画音楽の巨匠として世界にその名を知らしめる前の1962年に発表した初期の傑作アルバム。本作も1960年代初頭にアメリカでのボサノヴァ・ブームの中で制作されました。Lalo Schifrinはアルゼンチン出身で、ラテン音楽への深い理解とモダンジャズの先鋭的な感覚が融合した、洗練された作品として評価されています。打楽器の音色の軽さはまあ仕方ない。
Paul Desmond - Bossa Antigua

Paul Desmond(ポール・デズモンド:アルト・サックス)の1964年のアルバム。多くのジャズ・ボッサの作品の中でも、最も優雅な名盤であり、そよ風のような涼やかさと知性に満ちている。本作では彼のサックスと、Jim Hall(ジム・ホール)のギターとの絶妙なインタープレイにより透明感のあるサウンドを構築。単なるラウンジーな音楽ではない、洗練された大人の美意識で統一されている。
