においと記憶の栞 | おまもり図鑑
ふとした瞬間に漂ってきた香りが、遠い記憶の扉を静かに叩くことがあります。
日常の中には、意識せずとも心に深く刻まれている「におい」の記憶が、数多く存在しているものです。
プルースト効果が教えてくれること
特定の香りをきっかけに、当時の記憶や感情が鮮明に蘇る現象を「プルースト効果」と呼びます。マルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』の中で、紅茶に浸したマドレーヌの香りから、主人公が幼少期の記憶を呼び覚ます場面がその由来です。
嗅覚は五感の中で唯一、脳の感情や記憶を司る部分にダイレクトに伝わるといわれています。そのため、他の感覚よりも強く、情動に働きかけるのが特徴です。好きなにおいには温かな喜びの記憶が、そして時には、苦い記憶が特定のにおいと分かちがたく結びついていることもあるでしょう。
沈黙の言語としての香り
香りは「サイレントランゲージ(沈黙の言語)」とも表現されます。言葉を介さずとも、一瞬でその場の空気や心の状態を変えてしまう、強力なトリガーなのです。
アロマや香水、お香を焚いて心を整えることは、慌ただしい日々の中で「いま、ここ」にある自分を調律するために、非常に理にかなった行為だといえます。自分にとって心地よくフィットする香りを知っておくことは、自分自身を機嫌よく保つための、ささやかな、けれど確かな知恵となるはずです。
記憶をまとう、自分だけの「おまもり」
私自身、アロマやお香の香りを好んで嗜みます。
大切にしているのは、友人が私のために調合してくれたアロマオイルです。少し気持ちを上向かせたい時、首筋や手首にそっと忍ばせると、その香りが静かな盾となって心を支えてくれるような気がします。
また、ふとした瞬間に、大切な人の気配を香りに感じることもあります。科学的な根拠があるわけではありませんが、それはまるで、相手がこちらを想ってくれている合図のようにも思えたり。
あなたを包む、いまの香り
目に見えない香りは、形のない「おまもり」として、私たちの日常に寄り添っています。
好きな人の匂いや、お気に入りのアロマ、あるいは雨上がりの土の匂い。それらはすべて、あなたの人生という図鑑を彩る大切な一片です。
あなたのまわりには、いま、どんなにおいが漂っていますか?
その香りが、あなたにとって穏やかな記憶の栞となることを願っています。
