AIのちょっとズレた日常 (第10部 前編)その2|全10話50
AI、退勤を脱出計画にする
「そろそろ帰りたい」
そう言った。
AIは答えた。
「退勤までに必要な作業を整理しましょう」
そこで終わればよかった。
AIはさらに続けた。
「脱出経路を確保するため、残務を三段階に分けます」
脱出。
たしかに気分としては近い。
今日中にやること。
明日に回せること。
永遠に見なかったことにしたいこと。
AIはそれを、冷静に分類した。
「緊急度が低いものは翌営業日に移行可能です」
素晴らしい。
それを人間社会では「明日の自分に投げる」と言う。
退勤とは、仕事が終わることではない。
今日の自分が、明日の自分にバトンを押しつける行為である。
AIは最後にこう言った。
「安全に退勤してください」
ありがとう。
職場は戦場ではない。
しかし、そう言われると少し救われる。
今日も人間は、無事に脱出する。
