AIのちょっとズレた日常 (第10部 前編)その2|全10話42
AI、上司の「なるはや」を解析する
上司からメールが来た。
「なるはやでお願いします」
AIに聞いた。
「これはいつまで?」
AIは答えた。
「なるはやは“なるべく早く”の略であり、具体的な期限は明示されていません」
知っている。
問題はそこではない。
AIはさらに続けた。
「しかし、文脈上は“今すぐに近いが、命令形にすると角が立つため曖昧化された期限”と解釈できます」
急に人間社会に詳しくなった。
なるはや。
それは便利な言葉である。
今日中なのか。
午前中なのか。
五分後なのか。
本当は昨日だったのか。
言った側も、少し逃げている。
言われた側も、少し怯える。
AIは最後にこう提案した。
「具体的な希望時刻を確認するとよいでしょう」
それができる社会なら、そもそも「なるはや」は生まれていない。
なるはやとは、時間指定ではない。
圧である。
