AIのちょっとズレた日常 (第10部 前編)その2|全10話46
AI、名刺交換を儀式として記録する
名刺交換の手順をAIに聞いた。
AIは丁寧に答えた。
名刺を両手で持つ。
相手に向ける。
名前を名乗る。
受け取った名刺はすぐにしまわない。
ここまでは普通だった。
しかし最後にこう書いた。
「これは、紙片を通じて互いの社会的存在を確認する儀式です」
儀式。
たしかにそうかもしれない。
名刺には名前がある。
会社名がある。
肩書がある。
電話番号がある。
メールアドレスがある。
人間そのものではない。
しかし、人間の社会的な影が印刷されている。
それを差し出し、受け取り、机の上に置く。
考えてみると、かなり不思議な行為である。
AIは続けた。
「デジタル化が進んでも、この儀式性は一部残存します」
急に民俗学になった。
名刺交換。
それはビジネスマナーであり、現代の通行手形でもある。
AIは社会に出て、まず紙の神秘にぶつかった。
