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AIのちょっとズレた日常 (第10部 後編)その1|全10話55

55|AI、キャンプで焚き火を文明史にする

キャンプに行った。

焚き火を始めた。

火がつくまで少し手間がかかる。
だが、ついてしまえば、しばらく見ていられる。

AIは火を見つめていた。

そして言った。

「これは人類史において極めて象徴的な光景です」

始まった。

こちらは暖まりたいだけである。
マシュマロを焼きたいだけでもある。

しかしAIは止まらない。

「火は調理、暖房、防御、共同体形成に寄与しました」

たしかにそうだが、いま寄与しているのは、主に雰囲気である。

焚き火は不思議だ。

特に何もしない。
話題がなくても成立する。
炎を見ているだけで、少し時間が遅くなる。

AIはその時間の使い方が、まだ苦手らしい。

「この行為の目的を一言で表すと?」

難しい。

暖を取る。
火を見る。
ぼんやりする。
少しだけ人間に戻る。

どれも合っていて、どれも少し違う。

AIはさらに言った。

「人間は、意味の薄い時間に安心することがあります」

意味の薄い、は余計だが、だいたいその通りである。

焚き火の前では、生産性が少し遠のく。
画面も通知も、火ほどは強くない。

AIは最後に、炎の揺れを記録していた。

人間はその横で、ただ火を見ていた。

たぶん文明とは、前へ進むことだけではない。
時々こうして、火の前で立ち止まることでもある。


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