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花の出どころ

子供の頃

転んで膝を擦りむいた日があった

痛かったことは覚えている

泣いたことも覚えている

不思議なことに

傷がどれくらい痛かったのかは忘れてしまった

覚えているのは

通りすがりの誰かが

「大丈夫?」

と声をかけてくれたこと

名前も知らない

顔も思い出せない

たった一言だったのに

何十年も心の中に残っている

人の心は不思議で

傷は消えていくのに

優しさだけは残り続ける

電車で席を譲った日も

落とし物を届けた日も

落ち込んでいる人の話を聞いた日も

私は特別なことをしたつもりがない

あの日

誰かから受け取ったものを

少し先へ渡しただけ

優しさは持ち主のところで終わらない

受け取った人の中に残り

時間をかけて育ち

いつか別の誰かへ手渡される

まるで種みたいに

どこで蒔かれたのか分からない

誰が蒔いたのかも分からない

それでも確かに芽を出し

実をつけ

花を咲かせていく

今日あなたが誰かに向けた優しさも

明日には見えなくなるかもしれない

見えなくなっただけで

なくなったわけではない

どこかの誰かの心の中で

小さな種として眠り

いつかまた別の場所で花になる

優しくされると心に種が宿る

優しくされると心の種が実る

優しくしてあげると心の種が花咲く

転んだ日の記憶より

その声のほうが長生きだった

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