掌編小説|悪魔の子
母の腹を食い破って生まれた醜い王子が王になるまでの話。
お題『馭者座』
収録作品
王子は呪われていた。
母たる王妃の腹を食い破るように生まれてきた赤子。その姿を見た三人の姉姫は、あまりの恐ろしさにたちまち気が触れてしまい、次々に崖から身を投げて死んだ。
「あれは悪魔だ! 醜く恐ろしい、悪魔の子にちがいない!」
待望の第一王子であったが、愛しい妻と可愛い娘たちの死を目の当たりにした父王は、世話役も付けず塔に閉じ込めた。
塔のすべての窓と出入口を泥で固め、その周りを魔封じの陣で囲むよう命ずると、陣を管理する者以外が塔へ近づくことを禁止した。
それから五年が経ち、十年が経った。王は新たな妃を娶り、三人の王子と二人の姫に恵まれた。目まぐるしくすぎる日々に、あの日の恐怖は薄れつつあった。
それでも王は魔封じの管理を怠らなかったが、内心、きっともう大丈夫だろうとも思っていた。悪魔といえども、あれは赤子だった。光さえ届かない冷たい塔の中、餌もなく生きていられるわけがない。
あれから十年経ち、城で働く顔も随分と変わって、あの日のことを知っている者も少なくなった。きっともう大丈夫だ。大丈夫――であってほしい。
しかし、その五年後。王子は出てきた。
上半身は人の形をしていながら、下半身は不気味に輝く鱗で覆われた、まるで蛇のようなおぞましい姿の王子。
彼は車椅子という、馭者台しかないような小さな山羊車を乗り回し、あっという間に王たちを追い出して城を乗っ取った。
誰に教わったのか、彼の国政の手腕は見事で、瞬く間に国民の心を掌握し、傾きかけていた国を持ち直した。
新しい王の傍には、何故かいつも白い山羊がいて、自然と国民も山羊を愛するようになる。
城のバルコニーから、こちら見上げて手や旗を振る国民を見下ろして、王子は微笑んだ。
「……ほら、悪魔の子なんかじゃなかったでしょ、父さん」
