「タワマン、買わなきゃよかった」── 売却の現場で泣いた人たちに共通する5つのこと
売買のご相談を受けていると、月に何件かは「売りたいんですけど」というお話を伺います。買って3年、長くても7年くらいで手放したいという方が、思っていたよりずっと多いんです。
その中でも、タワーマンションの売却相談は、どこか独特の空気があります。みなさん最初は強気でいらっしゃるんです。「ローンの残債はこれくらいで、買った時より値上がりしてるはずだから」と。でも、査定の数字をお出ししたあとの沈黙の重さで、その方がどれくらい後悔されているのかが、なんとなく伝わってきます。
これまで現場でお会いしてきた方々の顔を、ふと思い出すことがあります。後悔されていた方たちには、どこか共通するパターンがあるように感じています。今日はそのお話を、少しだけ書いてみようと思います。
1. 管理費と修繕積立金が、想像していたよりずっと重くなる
買うとき、みなさん物件価格と住宅ローンの月々の支払いはよく確認されます。でも、管理費・修繕積立金の「将来の値上がり」まで読み切っている方は、正直なところあまり多くありません。
タワマンの修繕積立金は、新築のときは意図的に低めに設定されていることが多いんです。販売しやすいから、という事情があるんだと思います。それが築10年、15年と経つと、大規模修繕の積み立てが本格的に必要になってきて、ぐっと上がります。倍になるのは珍しくなくて、物件によっては3倍近くになることもあります。
あるご相談者の方は、購入時に月2万円台だった積立金が、5年で4万円を超え、次の見直しでさらに上がる予定だと聞いて、もう手放したいとおっしゃっていました。「ローンより、ローン以外の支払いの方がしんどいんです」と。共働きで世帯年収もそれなりにあったご夫婦でしたが、お子さんの教育費が重なってきた時期に、固定費の上昇に耐えきれなくなった、ということでした。
タワマンの修繕は、普通のマンションとは少し事情が違います。足場が組めないので、ゴンドラを吊って外壁を補修することになります。1回の大規模修繕で、数億から十数億かかる物件もあります。戸数が多い分、一戸あたりの負担はならされるのですが、そもそもの母数が大きいんですね。新築時のパンフレットに載っている「将来の修繕計画」は、あくまで最低限の数字、と思って読まれた方がいいかもしれません。実際の見直しでは、計画より上振れすることがほとんどです。
買う前にできる対策としては、長期修繕計画書を売主か管理会社からお取り寄せて、20年後・30年後の積立金がいくらになっているかをご自身の目で確かめておくことだと思います。ここをやらずに買ってしまう方が、本当に多いんです。
2. 売りたいときに、思った値段では売れない
「タワマンは資産価値が落ちにくい」という話は、半分本当で半分そうでもない、というのが現場での印象です。
落ちにくいのは「立地が極めて良くて、規模が大きくて、ブランド力のあるタワマン」。それ以外は、けっこう普通に値下がりしていきます。そして売却のときに少し厄介なのが、同じマンション内に売り出し中のお部屋が何件もあること。タワマンは戸数が多いので、5戸、10戸と同時に売りに出ていることもざらにあります。
買い手の方は、当然ながら同じ建物の中で一番条件の良いお部屋から検討されます。「あちらより少しお値段を下げないと、内見も入りにくいかもしれません」とお伝えするのが、私の仕事の中でも気が重い瞬間のひとつです。
特に印象に残っているのが、中古で買って3年後に転勤で売ることになった40代の男性のお客様です。最初は購入価格より少し上のお値段で出していました。でも、同じフロアに似た間取りのお部屋が出てきて、向こうが先に成約してしまったんです。すると次の月、また別のお部屋が出て、こちらより200万円安い値付けをしてきました。結局、半年売れずに、最初の希望から500万円下げてのご成約となりました。
引き渡しの日、その方が「正直、タワマンを買ったこと自体は後悔してないんです。でも、売るときのことを何も考えてなかったのが、いちばんの失敗でしたね」とおっしゃっていたのが、ずっと心に残っています。
営業の方は、買うときにはいろいろ説明してくれます。でも、売るときにどう振る舞ってくれるかは、その時にならないと分からないものです。これはタワマンに限った話ではないのですが、戸数の多いタワマンほど、この「出口の詰まり」が起きやすいように思います。
3. 高層階の暮らしは、思ったほど快適とは限らない
これは住んでいるご本人より、ご家族からお聞きすることが多い話です。
「眺めはいいんだけど、洗濯物は外に干せないし、窓も開けっぱなしにできない」「宅配が来てから玄関までに時間がかかる」「子どもがすぐ外に出られないから、結局休日に車で公園まで連れて行くことになる」。聞けば聞くほど、想像されていた高層階の暮らしと、実際の生活とのギャップが見えてきます。
特に印象に残っているのは、共働きで小さなお子さんがいらっしゃったご夫婦でした。「エレベーターが朝の通勤時間に全然来ないんです。下の階の方が乗っている時間も含めると、家を出てから外に出るまで10分かかる日もあって」とお話ししてくださいました。50階建ての高層階を買って、1年半で売却を決められました。お子さんの保育園の送り迎えに、どうしても無理が出てしまったそうです。
それから、災害時のお話。これは数年前の台風で、武蔵小杉のタワマンが浸水して停電した出来事を覚えていらっしゃる方もいるかもしれません。あれ以降、ご相談を受けるたびに、高層階のリスクを意識される方が少しずつ増えた印象があります。停電するとエレベーターが止まります。水道の加圧ポンプも止まるので、高層階まで水が上がってきません。50階のお部屋の方は、ペットボトルを抱えて階段を上り下りすることになります。1回ならまだしも、復旧まで数日かかったときにどうするか。考えておいて損はない話だと思います。
夜景は最初の1ヶ月で見飽きてしまった、とおっしゃった方もいました。そういうものなのかもしれませんね。
4. 住民の構成が、思っていたのと違うことがある
これも、買う前にはなかなか見えにくい部分かもしれません。
タワマンには、投資目的で買われる方や、法人名義で借り上げられているお部屋が一定数あります。賃貸に出されているお部屋が増えると、入れ替わりが激しくなって、管理組合の運営が少しずつ難しくなっていきます。総会に人が集まらない。修繕方針が決められない。そうしているうちに、管理の状態が目に見えて変わってくることがあります。
ある築15年のタワマンの売却を担当したとき、内見にいらしたお客様が共用部のあちこちを見て眉をひそめていらっしゃいました。「ここ、管理がうまくいってない感じがしますね」と。エントランスの観葉植物が枯れていたり、掲示板にクレームの貼り紙が放置されていたり、細かいけれど確かなサインがあったんですね。実際、その物件の管理組合は機能不全に近い状態でした。売主の方はそれをご存じだったので、だからこそ売りたかったのだと思います。
民泊が一時期問題になったタワマンもありました。同じフロアのお部屋が短期賃貸に使われていて、見知らぬ観光客の方が大きなスーツケースを引いて毎週入れ替わる。子育て世帯の方にとっては、これがいちばんのストレスだったとお聞きしました。
外から見える「タワマンの看板」と、住んでみないと分からない「コミュニティの実態」は、別物として考えておいた方がいいのかもしれません。買う前に確認できることは限られていますが、せめて管理組合の議事録を見せてもらうこと、共用部を時間帯を変えて2、3回見に行ってみること。これくらいはなさってもいいのかな、と思います。
5. 相続のときに、ご家族が困る資産になることがある
これは、相続まわりのご相談を受けるようになってから、特に強く感じるようになったことです。
タワマンは評価額が高いので、相続税のご負担が重くなりがちです。そして、ご兄弟で分けにくい。一棟のお家ならまだ「誰かが住む」「売る」の判断がつきやすいのですが、タワマンの一室は、住むには使い勝手が中途半端で、売るには相続人全員の合意がいります。意見が割れたまま、どなたも住まないお部屋の管理費だけが毎月引き落とされ続ける、というケースを何件か見てきました。
ご兄弟で揉めるケースで多いのは、「長男は売りたい、次男は親の思い出があるから残したい」というパターンです。長男は遠方にお住まいで、管理に関わる余裕がない。次男はお近くだけれど、ご自身が住むわけではない。結論が出ないまま2年、3年が過ぎて、その間ずっと月5万円の管理費と固定資産税が出ていくことになります。最終的に売却されるころには相場が下がっていて、どなたも得をしない、という終わり方になることも珍しくありません。
それから、節税目的で買われた高層階のタワマンが、税制改正で「目論見が外れてしまった」というご相談も少しずつ増えてきています。以前は高層階ほど相続税評価額が抑えられて節税効果があったのですが、2024年から評価方法が見直されて、その差が縮まりました。買ったときに営業の方から「相続税対策になりますよ」と言われていた方ほど、想定外のご負担に驚かれていらっしゃいます。
親御さんが良かれと思って買われたタワマンが、お子さん世代で揉め事の種になる。これは、買うときにはまず想像されない未来かもしれません。でも、買った瞬間から、その未来も少しずつ始まっているのだと思います。
最後に
タワマンが悪い、と申し上げたいわけではありません。立地と管理が良くて、ご自身のライフスタイルに合っていて、出口戦略まで考えて買われた方は、ちゃんと満足されています。「買ってよかった」とおっしゃる方にも、たくさんお会いしてきました。
ただ、現場でお会いしてきた「後悔されている方」たちには、共通点があるように思います。買うときに見ていたのが「今」だけで、5年後、10年後、そして相続のときのことまでは、ほとんど意識されていなかった、ということです。営業の方も、買う側が聞かないことは、わざわざ説明してはくれません。
不動産は、買うときよりも、持っている間と、手放すときの方がずっと長いものです。タワマンをご検討されている方がいらっしゃったら、内見のときに夜景の写真を撮るのと同じくらいの熱量で、長期修繕計画書と管理組合の議事録を読んでみていただきたいなと思います。それだけで、後悔される確率はずいぶん下がるはずです。
そして、もし今手元にあるタワマンの売却や相続でお悩みの方がいらっしゃったら、ご決断を急がないでいただきたいと思います。タワマンは、判断を間違えると失う金額が大きいんです。だからこそ、信頼できる方にご相談されてから動かれた方がいい。これは、今も現場に立っている人間としての、私なりの本音です。
