1番楽しい500円の使い道を考えようか
500円。大学生の私にとってそれは油断のできない金額である。決して少なくない、かといって大金というわけでもない、お手軽だけど手を出しづらい距離にいる金額だという気がする。
「やったことある?サセボくん」
「まるでないな」
私たちはレトロというのが相応しいゲーム機の前に座っていた。しかし、ここはゲームセンターではない。
「いっかい俺やってみよかな」
「かっとばせえええ! ナラくん!」
「そんな気合いいるやつちゃうねん」
ここはバッティングセンターだった。コインランドリーのような入り口を抜けると、こぢんまりとしたスペースが出迎えてくれる。
私たちは奥のバッティングゾーンへ続く扉よりも先に、入ってすぐ右手側に置いてあるゲーム機たちを見つけたのである。

相手のチームの得点が最初に設定され、アウトの穴を避けつつ、それを越えられたら勝ちというゲームらしかった。
ナラくんがこれに挑戦し、順当に負けた。

その隣にはもう一台のゲーム機が置いてあった。

これに私が挑戦してみた。
ルールもわからず始めると、上の台からオレンジのボールが次々と転がり落ちてくる。下にある隙間にはそれぞれ点数があって、ボタンを押してボールが落ちるタイミングを変えることで高得点を狙うゲームだった。
順当に負けた。
「ナラくんはバッティングセンターよく来る?」
「全然やな。サセボくんは、まぁ聞かんくてもいいか」
「なんの妥協点。あんまり利用せんけど去年野球の授業取ってたからな」
「あぁ、知り合い一人もおらんくてぼっち野球やったってたって言ってたな」
「はっきり言うな」
本来の趣旨とは別のところで100円ずつ失った私たちはようやくバッティングゾーンに入った。

最初にナラくんが打席に入った。球速は80キロである。打席の横にあるマシーンに、カウンターにあった機械で買ったコインを入れると、ピッチングマシーンが節々を唸らせながら動き始めた。
「いやぁ、最後惜しかったなサセボくんの打球」
「もう体動かない」
「使い果たしすぎやって」
私たちはベンチに腰を下ろしていた。
珍しいベンチである。

見たことないくらい緑
いつの間にかやってきていた、おそらく野球部の子供を連れた家族が少し離れた打席で賑やかに笑っている。
鋭い音と共に白球が勢いよく飛んでいく様は見ていて気持ちがいい。
「二回ずつやって、一人500円か。結構お得かな」
「500円以上の達成感は得られたな」
ゲーム機で失った100円は、まぁ、忘れてください。
ある程度体が回復し、帰ろうとした時に張り紙を見つけた。

よく見れば、壁にホワイトボードが貼り付けられてあって、月ごとにホームランを打った人の名前が並んであった。
「3万円すごいな。ホームラン王目指そ」
「やめとけサセボくん。見てみろ。月に15本ホームラン打ってる人いるで。ホームラン王になるまでにいくらかかるかわからん。あと目先の利益に食いつくな」
「とりあえず体づくりから始めるか」
「え?聞こえてないかこれ」
「体重も増やさなきゃなプロになるなら」
「目指すべきはプロじゃないし年俸3万円のモチベーションじゃない」
外は日が落ちかけて、橙色の淡空が闇に溶け出している。打った白いボールがその空にぐんぐん伸びていく景色を、私は見た。
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