「あの人が辞めたら終わり」を放置していませんか
経理担当者を対象としたミロク情報サービスの調査「経理担当者の働き方&実務の困りごと実態調査」によると、働く悩みの第1位は「業務の属人化」で50.0%。次いで「業務の煩雑さ」43.1%、「業務量の多さ」32.0%と続きます。つまり、経理の現場では2人に1人が「自分しかわからない業務がある」と感じているのです。
「あの人がいないと、この仕事は回らない」──皆さんの会社にも、そんな状況はないでしょうか。今日は、中小企業の経営者が最も見て見ぬふりをしがちな「属人化」というリスクについて、正面から考えてみたいと思います。
なぜ属人化は放置されるのか
属人化(特定の人しかやり方を知らない状態)が危険だと頭では分かっていても、多くの中小企業では対策が進みません。その理由はシンプルです。「今、回っているから」。
担当者が毎日出社して、いつもどおり仕事をしている限り、属人化は表に出てきません。問題が顕在化するのは、その人が辞めたとき、病気で長期離脱したとき、あるいは繁忙期に休みが取れず疲弊して突然退職するときです。
建設業界を対象にした2025年1月の調査では、管理職の74.1%が「業務の属人化」を感じているという結果が出ています(出典:石田データサービス「建設業の属人化リスクとDX解決策」)。建設業だけの話ではありません。少人数で回している中小企業ほど、一人ひとりの担当範囲が広く、属人化が進みやすい構造になっています。
属人化が放置される背景には、以下のような事情があります。
・日々の業務が忙しく、マニュアルを作る時間がない
・「自分がやった方が早い」というベテラン社員の意識
・社長自身が「なんとかなるだろう」と楽観視している
・そもそも業務の全体像を把握している人がいない
この状態が続くと、会社は「人に仕事がついている」状態から抜け出せません。担当者の退職は、単なる人員減ではなく、業務ノウハウの喪失を意味します。矢野経済研究所の調査によると、2024年度の国内BPO(業務プロセスの外部委託)市場は前年度比4.0%増の約5兆787億円に達しました。さらに2025年上半期には、中小企業のBPO導入率が前年比で約12%増加しているとの報告もあります。「外注=大企業のもの」という時代は、すでに終わりつつあるのです。
年度末を迎え、決算作業に追われている経営者の方も多いのではないでしょうか。「この忙しさ、毎年繰り返すのか」──そう感じたことがある方にこそ、この記事を読んでいただきたいと思っています。
なぜ今、中小企業にBPOが広がっているのか
BPO市場が5兆円を超えた背景には、大企業だけでなく中小企業への浸透があります。ここ数年、安価なクラウド会計ソフト(インターネット経由で使える会計ソフト)の普及に伴い、それと連動するBPOサービスが中堅・中小企業にまで広がっているのです(出典:矢野経済研究所「BPO市場に関する調査」2025年)。
では、なぜ中小企業の経営者がBPOを選ぶようになったのでしょうか。主な理由を整理すると、以下の3つに集約されます。
採用難の長期化:経理や総務の専任スタッフを採用しようとしても、求人を出してもなかなか応募が来ない。仮に採用できても、引き継ぎや教育に半年以上かかるケースが珍しくない
クラウドツールの低価格化:freeeやマネーフォワードなどのクラウド会計ソフトが月額数千円から使えるようになり、外部パートナーとのリアルタイム連携が容易になった
目的の変化:かつては「コスト削減」が外注の主目的だったが、2025年に入り「社長の時間を生み出す」「コア業務に集中する」という戦略的な目的に変わってきている
皆さんの会社では、経理や総務の業務をどなたが担っていますか。社長自身、あるいは「なんとなく事務ができる人」に任せきりになっていないでしょうか。
味の素の事例から学ぶ──「任せる」で何が変わるのか
大企業の事例ではありますが、味の素株式会社は経理・財務部門にBPOを導入し、実務工数を8割削減したことが報告されています(出典:ネオキャリア「アウトソーシング導入成功事例」)。もちろん、従業員数万人規模の企業と中小企業では状況が異なります。しかし、この事例が示しているのは「定型業務は外に出せる」という事実です。
中小企業に目を向けると、経理アウトソーシングサービスを提供するBPIO社のコラムでは、次のような事例が紹介されています。経理担当者が退職して急遽人員が不足した企業が、外部パートナーに経理業務を委託。同時に業務フローの見直しとマニュアル作成を行い、新しい担当者を採用した後もスムーズに引き継げる体制を構築したというものです(出典:株式会社BPIO「中小企業は経理をアウトソーシングすべき?」)。
ここで注目したいのは、単に「人が足りないから外注した」のではなく、外注をきっかけに業務の整理ができたという点です。外に出すためには、まず「何をやっているのか」を言語化する必要がある。その過程で、不要な作業や二重になっている手順が見つかることが多いのです。
「何を外に出すか」の判断が、実は一番難しい
BPOと聞くと、「じゃあ全部任せればいい」と思う方もいるかもしれません。しかし、私はそれが正解だとは思っていません。
外注化で最も重要なのは、自社の業務を「コア」と「ノンコア」に切り分ける作業です。経営判断に直結するもの、お客様との関係構築に関わるものは社内に残す。一方、毎月の記帳、請求書の発行、給与計算、勤怠集計といった「ルールが決まっている反復作業」は、外に出せる可能性が高い。
この「切り分け」ができていないまま外注すると、次のような失敗が起きます。
・外注先に丸投げした結果、社内に経理のノウハウが一切残らなくなる
・委託範囲が曖昧で、追加費用がどんどん膨らむ
・外注先の担当者が変わるたびに品質がブレる
逆に、切り分けがうまくいくと、社長が月末に伝票処理に追われることがなくなり、その時間を営業や事業構想に充てられるようになります。仮に月20時間の事務作業を外に出せたとしたら、年間で240時間。これは営業日数に換算すると約30日分です。
皆さんの会社で「社長しかできない仕事」と「社長でなくてもできる仕事」を分けたとき、後者が月に何時間あるか、一度数えてみてください。
年度末の今こそ、業務の「棚卸し」を
年度末は決算作業で忙しい時期ですが、同時に「今の業務体制で本当にいいのか」を振り返る絶好のタイミングでもあります。
私が提案したいのは、来期に向けて次の3つを確認することです。
・毎月繰り返している業務のリスト化:経理、総務、受発注、請求──何を誰がどのくらいの時間をかけてやっているかを書き出す
・「人に依存している業務」の洗い出し:その人が休んだら止まる業務はないか。もしあれば、それはマニュアル化・外注化の最有力候補
・外注した場合のコスト試算:中小企業向けの経理アウトソーシングは月額1.5万円〜25万円程度が相場。自社で人を雇うコスト(求人広告費+給与+社会保険料)と比較すると、外注の方が安くなるケースは少なくない
大事なのは、「外注するかどうか」の結論を急ぐことではなく、まず自社の業務を見える化することです。見える化さえできれば、判断の材料が揃います。
まとめ──「全部自分でやる」から「任せて勝つ」へ
BPO市場が5兆円を突破した今、業務を外部パートナーに任せることは特別な選択ではなくなりました。大切なのは、何を残して何を任せるかの判断です。
年度末の今、忙しさの中にこそ「来期の仕組み」を考えるヒントが詰まっています。今の業務体制に少しでも違和感があるなら、まずは業務の棚卸しから始めてみてください。「全部自分でやる」経営から、「任せて勝つ」経営へ。その一歩は、意外とシンプルなところから始まります。
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